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【完結】貴方が要らないとおっしゃった馬鹿な女はもう居ませんのでご安心ください  作者: にがりの少なかった豆腐


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自由とは難しい物です

 

 ベラは学園に戻ると今までと同じように学園生活を送っていた。

 婚約を破棄されてから数日。周囲にはまだゴードンとの婚約が破棄されたことが広まっていないようで、何を言われることなくベラは静かに過ごすことが出来ていた。


 しかし、今までゴードンに合わせて行動していたこともあり、自由に学園生活を送るにはどうすればいいのか、ベラにはすぐ思いつかなかった。

 友人と言える存在はいるが、ここで今までと異なる行動をすればゴードンとの関係の変化を周囲に感づかれることになるため、下手に友人と行動を共にするようなことはできなかった。


(あちらもしばらくは隠す方針のようですし、こちらから気づかれるというのは避けた方がいいでしょう)

 

 そうなるとできることは限られていく。

 自由とは何だろうかと、そう思いながらベラはこれまでと同じように学園生活を送っている。


「自由にするというのは難しいですね」


 結局、ベラは何か新しいことをすることもなく、今まで空き時間にしていたように暇ができれば図書室で勉強をしていた。


 学園にある図書室は貴族が通うだけあり、教室の数倍の広さを誇る。

 試験期間も終わって間もないため、図書室の中に居る生徒はまばらだ。

 時間つぶしに読書をする生徒もいれば、ベラと同じように勉強をしている生徒も見受けられる。中には惰眠を貪る生徒の姿もあるが、それはごく少数である。


(ゴードンのことを気にせず、勉学に励むことが出来るのは少し嬉しいですね。次回の試験でどれだけいい結果を出せるのか、それも楽しみです)


 今まではゴードンの成績を越えないよう、計算しながら試験を受けていたが、これからはそんなものを気にせず試験を受けられることにベラは喜びを感じていた。


 学園は基本的に実力主義である。貴族の地位は考慮せず、持ち込ませず、結果を出したものが上に立つ。そういった教育方針を学園は掲げている。


 昔は貴族の上下関係を優先していたが、それでは地位が低くとも優秀な者は人知れず埋もれてしまう。それは国としても大きな損失だと、少し昔にそう意見が上がった。そしてその後に上位貴族の中で優秀な人材が少なくなった時期があり、それを機に学園は権力を優先するのではなく、学園内の成績を優先するようになった。


 今はだいぶ改善されているが、貴族の上下関係というのはそう簡単にいくものではない。今でも下位貴族の者が上位に食い込むと要らぬ噂が立つこともある。

 とはいえ、昔ほど直接的な行動を起こす令息や令嬢は居なくなっている。


 もしベラが今回試験で上位に食い込んだとしても、直接嫌がらせを受けるようなことはないはずだ。これが厭味ったらしい人物であったのなら話は違ってくるだろうが、ベラ自身は目立つような生徒ではないし、友人や同じクラスの者に対して人当たりも良く、現状下手な噂も立っていない。

 そもそも直接かかわりを持たない生徒でベラ・アルコットという名前を把握しているのはそこまで多くないだろう。


 黙々と本を読み込み、勉強しているベラの背後から何者かの影が差した。


 最初、偶然自分の後ろを誰かが通りがかっただけだと思っていたベラだったが、なかなかその影が移動しない。後ろが本棚であればそこで本を選んでいるだけ可能性もあったが、ベラの後ろにあるのは勉学用の机だ。そしてその後ろの席を使用してもベラを覆うような影が差すようなこともない。


 不審に思いベラはゆっくりと自分の後ろに視線を向けた。

 ベラが振り向くとそこには見目麗しい男子生徒が立っていた。その生徒が着ている制服についているピンは3回生を表していた。


「ああ、ようやくこちらに向いたな」


 ベラが振り返ったことでその男子生徒がそう静かに声を上げた。

 しかし、ベラはその男子生徒の顔を見て息を飲んだ。


「っ!? え、エリオット王子? あの、どうして私の後ろに居らっしゃるのでしょうか」


 ベラを覆っていた影の主はこの国の王子の1人、エリオット・カウエルだった。

 いくら同じ学園に通っていたとしても、普通に生活していれば関わるような存在ではない。そもそもベラは子爵令嬢であり、エリオットは王族だ。

 現王の4番目の息子故、王位継承権こそ低いがエリオットが王族であることに変わりはない。


 そんな存在が子爵令嬢の自分に何の用があるのか。どうして後ろに立っていたのかと内心驚き慌てるが、それを出来るだけ表に出さないよう尽力しながらベラは問う。


「いや、少々気になることがあってな。少し時間はいいだろうか」


 気づけば周囲に居たはずの他の学生の姿が見えなくなっていた。誰とて理由なく王族とかかわりたくはないのだ。


「私は大丈夫ですが、あの何かありましたでしょうか」

「ふむ」


 エリオットはそう短く言葉漏らすとベラが使っている机に置かれた物を確認した。

 それを見たベラは勉強に使っていたノートを閉じた。ただ普通に勉強していただけで特段隠すようなことを書いていたわけではないが、自分が書いたものを見られるということに恥ずかしさを覚え、何となく咄嗟に隠してしまったのだ。


「聞いていた話とだいぶ相違があるようだが、どういうことだ」


 エリオットはその行動について何を言うことなく、そう言葉を漏らした。

 ベラはその言葉が気になりそのことをエリオットに問う。


「聞いていた話、とは何でしょうか」


 エリオットは周囲を軽く確認した後、周囲に他の生徒が居ないことを把握したうえでベラの問いに答えた。

 

「先日、私が婚約破棄した同じ理由で婚約を白紙にされた生徒が居ると聞いたのでな。どんな令嬢なのかと興味本位で見に来てみたのだ」

「え?」


 エリオットがベラとゴードンの婚約が破棄されたことを把握していたことにベラは驚き、どこからそれが洩れたのかが気になった。


「ああ、君たちの話は学園の方から聞き出しただけだ。噂を聞き付けて来たというわけではない」

「そうでしたか」


 学園は貴族間の面倒ごとを避けるため、基本的に所属している令息や令嬢の婚約事情を把握している。今回の件もサラー家側から学園に報告がされていた。

 それをエリオットは王族として把握することになり、本人が言った通り興味を持ったことでベラの姿を見にきたのだ。


「しかし、本当に私が婚約を破棄した時と同じ理由で、相手から婚約を破棄されたのか? 君が使っていた本はまだ授業で習っていない範囲のものだろう?」

「予習のつもりで使っていただけですので」

「うむ。予習をして授業に挑むのは素晴らしいことだが、そのノートに書かれていた内容からして君はすでにこの本に書かれている内容はしっかり理解しているだろう」


 そう指摘されてベラはどう返事をしていいのかわからなかった。

 もともと2回生で習う範囲はすでに予習済みで、今回していたのは復習に過ぎない。予習していたと嘘をついてしまったが、授業の進みからすれば予習には当たるので間違いでもないが。


「サラー家の次男の目は節穴か? どうして君のことを馬鹿扱いして婚約破棄したのか理解できない」

「それはあの、前回の試験結果を踏まえてですので」

「それも把握している。しかし、長く付き合っているのであれば、君の学園での成績が正しいと思うだろうか」


 そう言われてベラは少し考える。

 確かにゴードンとは長い付き合いだ。愛があったわけではないとはいえ、相手の能力くらいは把握していてもおかしくはない。ベラもゴードンの能力は把握している。逆にゴードンがベラのことを一切把握していないとも考えにくい。


「おそらく、何か理由を付けて婚約を解消したかったのでしょう」

「ああ、ベレア伯爵家の令嬢か」

「……そこまで把握しているのであれば、私に聞く必要はなかったのではないでしょうか」


 現在ゴードンが親しくしている相手のことを把握しながらも自分に問いて来たエリオットに、ベラが少し呆れたように言うとエリオットはおかしそうに小さく笑った。


 それから一言二言会話をした後、エリオットは「また来よう」と言って図書室から出て行った。


「なんだったのでしょうか」


 結局、エリオットがベラのところに来た理由が気になったからだけと言うことしかわからず、ベラは首を傾げながら図書室から出て行ったエリオットの影を見つめた。

  

 次話はエリオット側の閑話です

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