今一度、貴方の気持ちを聞かせて欲しいのです
ちょっと短めです
ベラは実家から学園に戻った翌日、最初の講義が始まるより早い時間に3回生が講義を受けるための教室があるフロアに来ていた。
2回生があまり来ないフロア。早朝ということもあり生徒の数も少ない。その中に2回生を示すピンを付けたベラは少し目立っていた。
とはいえ、ピンを確認しなければ2回生であると気づくのは難しいため、気付かずベラの隣を通り抜けて行く生徒も居たが、これまで見かけたことのないベラの姿を見て、3回生ではないことに気づいた生徒もちらほらいた。
ベラが向かうのはエリオットが所属している3回生の中で一番上のクラスが使用している教室だ。
(居ると良いのですが)
決意が揺らぐ前にすぐエリオットに会おうと行動を起こしたため、エリオットに会うための約束は取っていない。
王族であるエリオットに直接約束を取りに行くというのはあまり褒められた行為ではないが、ベラは直接顔を合わせて会う約束を取りたかった。その方が自分の気持ちがエリオットに伝わる気がしたからだ。
本来なら、エリオットと直接の繋がりを持つルカに間を取り持ってもらい会う約束をするのが最良であった。しかし、ベラは自分の決意と答えを伝える中、ルカという他人を利用するのは違うのではないかと考えた。
エリオットが所属している教室に辿り着き、ベラはその教室の中を覗き込んだ。
気づかれなければ近くに居る生徒に伝言を頼もうと思っていたベラだったが、ベラが教室の中を覗き込んだタイミングでエリオットがベラの存在に気づき、驚きながらも席を立つとベラの元へ近づいて来た。
「アルコット。どうしてこんなところに」
なるべく親密な雰囲気を出さないよう、エリオットは普段ベラと話す時とは異なる硬めの声色でベラに話しかけた。
「エリオット王子。放課後、少しだけお時間を頂いてもよろしいでしょうか」
エリオットの普段とは異なる声色を気にすることなく、ベラは決意を秘めた表情でそう伝えた。
突然教室まで来たベラの姿に驚いていたエリオットだったが、さらにベラの表情と言葉に息を飲んだ。
「っ! 今日は、そうだな…ああ、わかった。放課後、あの談話室で待っている」
「ありがとうございます」
この場には他の生徒も居る。この場で普通に返事をした場合、聞かれてしまう可能性を考え、エリオットは最後にベラだけも聞こえるよう小声で待ち合わせ場所を伝えた。
それを聞いてベラは感謝と頭を下げ、2回生の教室があるフロアに戻って行った。
「そうか、今日か」
去っていくベラの背中を見送る中、エリオットはそう独り言ちた。
放課後、ベラはエリオットと約束した通り、あの談話室の前に来ていた。すでにドアの鍵は開いており、中にエリオットが居ることが分かった。
今回はルカの付き添いはない。1人でこの談話室の前に来たベラは緊張しながら、そのドアを開け中に入る。
「失礼します」
「ああ、よく来た」
先に到着していたエリオットがベラを迎え入れる。
「忙しい中お時間を取らせてしまい申し訳ございません」
「そんなことはない。先に早めに返事が欲しいと言ったのは私だ。君はそれに従っただけだろう」
決意を固めたことと緊張していることで、使う言葉がこれまでよりもかしこまった物になってしまっているベラに対し、エリオットはそう言って優しく微笑みを返した。
これまでと変わらない様子のエリオットの返事を受けて、ベラは少しだけ緊張が解けた。
「いえ、もう少し余裕をもってエリオット様と会う約束を取ることも出来たのです。それなのに今日突然お会いしに行って、約束を取り付けた私の方が悪いと思います」
「私はそう思わないが、君がそう言うのであればそう言うことにしておこう」
このまま話していても平行線になりそうな気配を感じたエリオットがベラの意見を飲んでこの話を終えた。
「それで、ベラ・アルコット。君の返事を聞かせてくれるかい?」
最初の小さな問答が終わって少し間を空けたところでエリオットはベラにそう問いかけた。
前回とは異なり、今回はベラも椅子に座った状態ではなく立った状態でエリオットと向き合い、エリオットの言葉に返事をする。
「わかりました。ですが、その前にもう一度エリオット様のお気持ちを聞かせていただけませんでしょうか」
ベラは返事を伝える前にエリオットの気持ちを確認したいと伝えた。そしてエリオットはその意図を理解し、ベラの前で前回同様片膝をつき、ベラの前に片手を差し出す。
「君と過ごした時間は実に楽しかった。君となら婚約者としていい関係が築ける、そう私は確信している」
エリオットは優しい笑みを浮かべながらそう言い切った後、一拍置いてから真剣な表情でベラを見つめる。
「ベラ・アルコット。どうか私の婚約者になってはくれないだろうか」
「はい、謹んでお受けいたします」
ベラはそう言って差し出されたエリオットの手に自分の手を添えて微笑んだ。




