警戒した方がいいようです
本日2話目になります。
まだ本日の朝の更新分を読んでいない方はご注意ください。
※後半視点が変わります。
ベラの決断を聞きそれをデルクとラミが了承した後、ベラが学園に戻るための準備をしようと席を立ったところでデルクが思い出したように口を開いた。
「ああそうだ。先ほどは話の流れを止めることになるため言わなかったが、昨日サラー伯爵が屋敷に来た」
「それは……」
実家に帰るのが1日遅れたことでベラがサラー伯爵に会うことはなかったが、事前の連絡もない突然の来訪にしばらくの間、アルコット家の使用人たちは騒然となっていた。
「最近ベラがエリオット王子と仲良くしているのを知ったのだろう。その繋がりを利用したいのか、サラー家も同じように繋がりを得たいのかわからなかったが、ベラに対して末子と婚約しないかと提案された」
「え、それは……」
サラー家の末子はベラと5つほど年が離れており、まだ学園には入学していない。
ベラとゴードンの婚約は確かにアルコット家からの申し出だった。しかし、その婚約を一方的に破って来たのはサラー家だ。そしてそのような行為をしておいて、何事もなかったかのように新しい婚約者を立てようとするサラー家の動きは侮辱的な行為でしかない。
これがゴードンとベラの婚約が破棄されてすぐであればまだ許容できたかもしれないが、あからさまな提案にデルクは怒りを顕わにしていた。
「学園内で流れている噂で聞いたと言っていたから、あれ経由なのだろうが、当然すぐに断りを入れた。おそらく今後こちらからサラー家と関わることはないと思っていい」
今までそのような行動をしてこなかったため露見していなかったが、婚約の話を持っていった際、下手に出てしまったことでアルコット家はサラー家から完全に下に見られていた。
今回の持ち出した婚約の提案もそのまま受け入れるだろうとサラー伯爵は考えていたが、デルクがにべもなくきっぱり断わったことで不快感を表していた。
断り後すぐにサラー伯爵は屋敷を後にしていたが、その後も愛する娘をいいように扱おうとしたサラー伯爵に対しデルクの怒りは収まっていなかった。
「しかし、あちらから何か行動を起こされる可能性はある。あそこまでアルコット家を見下しているとなると何をしてくるか分かったものではない。下手をすると無理やりにでも婚約を結ぼうとしてくる可能性もある」
普通の貴族であれば、そのようなことをすればどうなるか理解しているはずだ。しかし、相手を見下し、不躾な提案をしても気に留めないような人物がまともな行動を取るかと問われればそれは疑問である。
「しばらくは何が起こる可能性があるから、ベラも気を付けておくように。特にサラー家の息子から何かされる可能性が否定できない」
「わかりました、気を付けておきます」
「ああ」
先日から講義を受ける教室が変わったことで直接顔を合わせることはなくなったが、学園にゴードン・サラーが居ることに変わりはない。ベラに対して何かしらの干渉がある可能性はある。
今後関わるつもりが無かろうと、あちらから来られたら拒絶することは難しいのだ。
「ベラ」
デルクからの忠告を肝に銘じ、学園へ戻る準備を終えた後、屋敷の外に止められた馬車に乗ろうと出入口へ足を向けたところでラミがベラに声を掛けた。
ベラはその言葉で振り返り、ラミはゆっくりとベラに近づいた。
「何でしょうかお母様」
「こういう時に何か言えると良かったのですけど」
「えっと?」
振り返るとゆっくり近づいて来ていたラミに優しく抱きしめられてベラは少し戸惑う。
その意図が分からず、ベラは自分より少しだけ背の高いラミの顔を見上げて様子を窺う。
「お母様?」
「駄目ですね。いい言葉が浮かびません。少しでもいい母親をしようと思ったのですけれど、これでは駄目な母親です」
「そんなことはないです」
「そう言ってくれると嬉しいわ」
しばらく会えなくなる娘に少しでも勇気づけられるような言葉を探していたラミだったが、残念ながら丁度よく掛けられる言葉を思いつくことはできなかった。
「ありきたりな言葉で申し訳ないけど、頑張りなさい。応援していますよ」
「はい。ありがとうございます。お母様」
そう言って最後に少しだけ強くベラを抱きしめたラミは、名残惜しそうにベラを離した。
「それでは行ってきます」
「ええ」
ラミとデルクは屋敷を出て馬車に乗り込むベラの姿を見送り、ベラは馬車に乗って学園へ戻って行った。
・
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屋敷の外に出てベラが乗った馬車が見えなくなるまで見送ったデルクとラミ。
完全に見えなくなったことを確認してから屋敷の中に戻るとデルクは小さく息を吐いた。
「ベラの魅力に気づく者が出てきたのはよかったが、その相手がまさか王族とは思いもしていなかった」
「それはそうでしょうね。私の時もまさか貴族の方に婚約を申し出られるとは思っていませんでしたし、住む世界が違うと思っていた相手から声を掛けられるとは普通思わないものです」
「そうだな」
親の子自慢でしかないが、デルクはベラの見た目や性格、本来の成績であれば、在学中にベラの魅力に気づき婚約を申し出る異性が出てくると予想していた。
結果的にその通りになったわけだが、まさかその相手が王子で、しかも婚約を破棄されてからそれほど時間が経っていない段階で来るとは思いもしていなかったのだ。
それはラミも同じであるが、彼女は過去にデルクから同じような立場で告白を受けているため、デルクほどの戸惑いはなかった。
夜になり、寝室に戻った2人はベラのこと、今回のことを語り合う。
「少々想定外の相手ではあったが、ベラはいい相手と出会ったものだ。
私の立場で言えるものではないが、エリオット王子もまだ青い部分はあるとはいえ、こちらが納得するだけの提案と条件を自ら考え提示してきた。ベラに対する想いもよく伝わって来たからな」
「私は対面しただけで直接話したわけではありませんが、対面した時のこちらに対する様子から好い方だと感じましたよ」
アルコット子爵夫妻からのエリオットの印象はかなり良かった。最初に訪れた際の対応も悪くなく、その後の対応も夫妻側の印象はよかった。
若干最初の説得の際に準備不足による粗は見えたが、その後の努力が見て取れ、ただベラを都合の良い相手とだけ見ているわけではないことが分かり、デルクは一安心していた。
「ベラが一番にここを出て行くのは理解していたが、それが早まるのは想定していなかったな」
「ですね」
もともとベラはサラー伯爵家へ嫁入りする予定だったが、それは学園を卒業してからの話だった。
しかし今回の件で、このまま恙なく話が進めばそれが1年以上早まることになる。
アルコット子爵家は長子である長男が継ぐことが決まっている。すでに学園を卒業し、学園で出会った子爵令嬢と婚姻済みだ。
今は新婚ということでアルコット家の屋敷の離れで生活しているが、いずれは屋敷の中で生活することになる。
そのため、ベラが最初からこの屋敷に残り生活し続けることは想定されていない。
「少し寂しい」
「予定が早まりましたからね」
おそらく2回生が終わるまでにベラがこの屋敷へ帰ってくる回数は後1回か多くて2回、その程度だろう。そして3回生に上がればそれ以降、この屋敷にベラが帰ってくることはない。
その状況を想像し、デルクとラミは寂しさを感じた。
「今回以上に力がないことを悔やんだことはない」
「仕方のないことです」
ベラの養子縁組についてデルクは理解を示し受け入れてはいるが、それは自身ではどうすることもできないことが分かっているからだ。
出来ることなら受け入れたくはない。それはあくまでベラの父親としての考えであり感情だ。アルコット子爵家当主としての考えではない。
もしアルコット家が侯爵、いや伯爵の位であったのなら、そのまま王子の婚約者としてベラを送り出すことが出来ていただろう。
そうなれば予定通り学園を卒業するまでアルコット家の令嬢として過ごすことが出来ていたはずだ。
さらに言えばサラー家の令息と婚約することもなかっただろうし、婚約を破棄されることもなかったかもしれない。
爵位はそう簡単に昇爵することはない。大きな失敗をして降爵する貴族は稀に生まれるが、昇爵するには相当な功績を上げる必要がある。しかし、その功績を上げるための機会に子爵家が関われることは稀だ。その稀な機会の中、さらに功績を上げることがどれだけ難しいことか。
「でも、貴方の決断はあの子の幸せを願ってのことでしょう?」
「そうだ。そうだが」
数度エリオットに会い、対話や説得を受け、この者ならベラを任せても大丈夫だろう、そう判断して養子縁組の話を受け入れたのだ。
もしエリオットの対応が少しでも高圧的だったり、デルクたちを見下すようなものがあったりしたら、デルクは養子縁組に対し明るい考えを持っていたとしても受け入れることはなかっただろう。
「それにあの子がアルコットの姓を名乗ることが出来なくなったとしても、あの子は私たちの子に変わりないでしょう」
養子縁組の契約内容次第では完全に生家と縁を切らなければならない場合もある。今回はエリオットが持ち出した話であるため、そこを交渉して表面上は縁が切れたように見えるが完全に縁を切らない状態で養子縁組をする話になっている。
「ベラが幸せならそれが一番いい。そうなるよう私は動いたし、これからもそうするつもりだ」
「ええ、私もそうです」
願うは我が子の幸せ。立場が変わろうとそれは変わらない。
デルクとラミはベラのこれからの幸せを願いながらその夜を過ごしていった。
ここから最後の追い込み、終盤に移ります。




