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【完結】貴方が要らないとおっしゃった馬鹿な女はもう居ませんのでご安心ください  作者: にがりの少なかった豆腐


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18/27

相談したいのです

 

 エリオットから婚約の申し出を受け断ってから2日後。ベラは実家に帰っていた。

 本来ならその翌日に実家へ帰還するつもりだったのだが、学園や寮への申請が間に合わず、1日遅れる形になってしまっていた。


「おかえりなさいベラ」

「ただいま戻りました。お母さま」


 ベラを迎えたのは長く美しいブロンドヘアを携え優しい雰囲気を纏った綺麗な女性、ベラの返事の通り母親であるラミだった。

 前回はラミの仕事が忙しかったため、あまり話す時間もなくベラは学園に戻ることになってしまったが、今回はそのようなことはないようだ。


「お父様はいますか。少し話したいことがありまして」

「執務中ですのですぐに会うのは難しいですが、居ますよ。それと貴方が何を話したいのか、こちらもおおよそ把握しています」

「そうでしたか」


 エリオットがベラに婚約の申し出をしたことはまだ伝わっていないが、許可を取った後にベラが帰って来たとなれば予想はつく。


「貴方が帰ってきていることは伝えてありますので、あの人の仕事が終わるまで少しお話しましょう」

「ええ、そうですね」


 学園に通うようになってから長いことラミと話をすることが無くなっていたベラは、喜んでその申し出を受け入れた。


 しばらくベラはラミと他愛もない話をしてデルクの仕事がひと段落するまで待った。

 仕事が一段落したことでデルクもその会話に混ざることになり、そのままベラの話を聞くことになった。


「そうか。王子はこちらに説明した通り、ベラにも話したのか」

「はい。それでお父様たちがエリオット様から説得されてどう思ったのか、養子縁組についてどう考えているのかを聞きたいのです」


 ある程度先日にあったことを掻い摘んで説明し、ベラは相談に乗って欲しいことと、両親たちがこの件についてどう考えているのかを聞いた。


「まず先に、養子縁組の話についてはラミとも話し合ったが、もしエリオット王子と婚約をするのであれば我が家では後ろ盾として弱すぎる。ベラが本当にエリオット王子と婚約、いや婚姻したいのであれば許容するつもりだ」

「え」

「家の格というのはすぐにどうすることもできませんから、仕方ないと言えばそうですね」


 両親のあっさりした回答にベラは少し困惑する。

 ベラの予想ではもう少し慎重な回答が返ってくると思っていたのだ。しかし、実際に返って来た答えは養子縁組に対するおよそ客観的な意見だった。

 

「養子縁組はそう簡単に行われるものではないと思うのですが、そのような答えが返ってくるとは思っていませんでした」

「それはそうでしょうね」


 ベラの言葉にラミがそう返事をする。


「貴方には詳しく言っていませんでしたが、そもそも私は庶民の出の者です」

「そ、そうだったのですか」


 ラミの言葉にベラは非常に驚いた。

 ベラは今まで自分の母親であるラミは男爵家の出身だと説明されていた。しかし、今本人から聞いた内容は完全に初耳だったのだ。


「私とラミが婚約するにあたり、どうしてもラミが平民のままでは難しいところがあった。それを解決するために俺の母親の生家である男爵家にお願いし、ラミと養子縁組をしてもらい、その後婚約、そして婚姻したという流れだ」

「お婆様の。そうだったのですね」


 デルクとラミの養子縁組に対する考えは経験者だからこその物だった。今まで一切そのことを知らなかったベラは驚きつつも、納得できるところもあった。

 ラミは昔からアルコット家の治める土地に住んでいる住民から非常に人気があった。ベラは今までその人気の高さはその美しい見た目故だと思っていたが、元々平民として過ごしていたとなれば、その人気も納得できた。


「まあ、王族と婚約するために養子縁組をするとなると、私たちの時と同じとはいかないだろうがな」


 平民を男爵家の養子に、子爵家令嬢を公爵家の養子に。同じ養子縁組だとしても状況も関わる貴族の位も大きく違う。やること自体は同じとは言え、その内容は後者の方が複雑になるだろう。


「ベラ、貴方はエリオット王子との婚約について、どう考えているのですか? 養子縁組についてもです。私たちは貴方の考えを詳しく知りませんから、相談したいのでしたらそこを明らかにしないといけませんよ」

「そうですね」


 ベラはまだあくまでこの相談に至るまでの要所を説明しただけだ。デルクとラミがベラの相談に乗るにしても答えを出してあげるだけの情報がほとんどない。

 

 ベラはラミの質問に対し、できる限り正確に自分の気持ちと考えを打ち明けた。

 

 ベラの気持ちを聞いたデルクとラミは逡巡した。

 2人がこうして娘であるベラから相談を受けるのは今回が初めてだった。そのためできる限り力になろうと思っていたのだ。

 しかし、ベラの話を聞いて2人はどう答えるべきかを悩んだ。


 ベラが今話した内容を大雑把にまとめるとこうなる。


「エリオット王子と過ごしたのは悪くなかったから婚約の申し出は嬉しい。しかし、受け入れるには自分の立場では不相応。受け入れたとしても養子縁組をしなければならず、そうなると我が家に対し不義理なことをしなければならない。そこまでして自分の我を通しても良いのかわからない。そういう感じでしょうか」

「そうですね」


 自ら言語化してそれを要約してもらったことで、ベラの中でも自分がどう感じてどう思っているか何となく理解することが出来た。


「まずベラの質問に答える前に、私がエリオット王子から説得された時の話をする」

「お願いします」

「エリオット王子が最初にこの話を持ち込んだ時、私はすぐに断りを入れた。それはベラが申し出を断ったのと同じ理由だ。その後、ベラと婚約するための説得を受けたが、熱量やベラに対する想いは悪くはなかったが、正直見込みが甘かったのでそこでも断りを入れた」


 最初にエリオットから受けた説得内容では、残念ながらデルクは首を縦に振らなかった。それはエリオットとベラが婚約した際の周囲の動きについて見込みが甘かったからだ。

 再度説得に来た際、内容はよくなっていたが残念ながらデルクが納得できるだけの提案や条件がなかったため、再度断りを入れた。

 そこから何度か話し合いと説得を続け、ようやくエリオットはデルクを納得させることが出来た。その中で一番デルクを説得させるための効力を持っていたのは養子縁組とそれに付随する提案だった。


「私がエリオット王子の説得を受け入れた最大の要因は養子縁組の話だった」

「そうなのですか?」

「ああ、我が家で一番の障害だったのは家の格だからな。こちらに不利益がない状態で養子縁組が出来るのであれば、後はベラの気持ち次第だった」


 デルクはそれ以上詳しくエリオットからの説得の内容を話すことはなかったが、その理由はベラに余計な情報を与えて判断を鈍らせないようにという意図がありつつ、大半は説得されている中でしてきたエリオットによるベラがどれだけいい女性なのかという、惚気のような賛辞は第三者から聞くものではないとデルクは考えているからだ。


「それでだが話を聞いたうえで、ベラは別に私たちに相談をする必要はないのではないか?」

「そうでしょうか」

「養子縁組に対する不安もあるようだが、要はベラの中で問題になっているのは自分の我儘でアルコット家に迷惑をかけることだ。しかし、それは先ほど私が言った通り、ベラが本当にエリオット王子と婚姻したいと考えているのであれば、こちらはそれをのむつもりだ。故に迷惑には当たらない」


 ベラにとって最大の論点はそこだ。

 しかし、デルクが言った通り、少なくともアルコット家の考えはそれに反対していない。故に、この問題の最後に必要なものはベラの気持ちだ。

 

「アルコット家が養子縁組の話を受け入れている以上、エリオット王子からの婚約の申し出を受けるのも、その後にある養子縁組も、ベラの気持ちの問題でしかない」

「確かに、そう…ですね。ですが、これはアルコット家に関係することですし、相談は必要だと思いまして」


 この件に対するアルコット家の動きは完全にベラの判断に委ねられている。ベラがエリオットと婚約することを受け入れれば、アルコット家は養子縁組の話を受け入れるし、しないのであれば何もしない。


「確かに、相談ではなく確認する必要はあるな」

「ベラ、貴方はこのような後の影響が大きな判断を自らするのは今回が初めてでしょう? 自覚が無いようなのでおそらく今回の相談という形で無意識のうちに最終判断をこちらに委ねようとしてしまっています」

「それは! ……そうですね」


(そうです。私がどうしたいか、それはもう決まっているのです。受け入れられるなら受け入れたい。それが私の答えなのです。お母さまの最終判断を任せようとしているという指摘も、思えばその通りです)


 そんなことはない。ベラはそう反論しようとしたが自覚してみれば否定することはできなかった。

 ベラは意図して他者(両親)に判断を任せようとしたわけではなかったが、その行動自体はそう取られても否定することは出来なかった。


 今回デルクとラミに相談したのは、学園でルカに相談するのもいいかもしれませんね、と言われたのもあるが、そうだとしてもどう質問するのか、どのような内容を聞くかはベラが考えたことだ。

 もし相談の最初に、こうしたい、という意思表示があったのならこのような指摘はなかっただろうが、残念ながらベラにそういう意思はなかった。


「今後の人生に関わる重大な決断をするのが不安なのはわかりますが、今後同じような重大な決断を迫られた際、同じように相談に乗ってくれて判断してくれる相手がいるかわかりません」

「はい」


 優しく諭すラミの言葉にベラは叱られた子供の様にしゅんとした様子でそう返事をした。


「これに関してはベラが悪いわけではない。

 今までこのようなことが起きた際、ベラが何をすべきかの判断を私がしていたのが原因であり、経験を積ませることをしてこなかった私に落ち度がある。それにベラはまだ学園生だ。今の段階で気づけたのはよかったと言える。それに自覚できたのなら今後改善していくこともできるだろう」

「そうですね。私もそれを気づかず放置してきました。悪いのは私たちですね」

「私もお父様の意見に盲目的に従い続けてしまっていたのが良くなかったですね」


 誰が一番悪いというわけではない。デルクがベラに経験を積ませなかったことや、それに気づかず放置してしまったラミ。そのことに疑問を抱かず指示に従い続けてしまったベラ、全員に落ち度がある。


「とにかく、貴方がどうしたいか、今一度聞かせてもらえないかしら。もし、今言えないのでしたら、また今度でも構いませんよ」

「いえ、この場で判断します」


 この場で判断できなければ無駄にことを長引かせるだけだ。そう思ったベラは一度目を瞑った後、決断しその答えを両親である、デルクとラミに伝えた。

 

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