不相応です
本日2話目になります。
まだ本日の朝の更新分を読んでいない方はご注意ください。
エリオットが元婚約者と婚約破棄をするに至るまで、実はエリオットは何度かその元婚約者に対し警告を出していた。
王族の婚約者であるのなら、学園ではある程度の成績を取ってもらわなければ困る。その考えでエリオットはその元婚約者と何度か衝突していた。
しかし、その元婚約者はエリオットの考えとは異なり、努力することをあまり好まなかった。そのため、侯爵令嬢という立場であれば恥をかかない程度の成績は収めてはいたが、王族の婚約者と見れば少々見劣りする成績しか収められていなかった。
エリオットはその元婚約者の成績と考えを改めるために、2回生最後の試験で王族の婚約者に見合うだけの努力が見られなかった場合、婚約を破棄する旨を伝えていた。
その結果、その元婚約者はいつも通り以上の努力はせず、試験結果もそれまでと変わらない物であったため、エリオットは事前に警告していた通り婚約を破棄した、という流れだ。
エリオットからすれば努力が見られれば良かったのだ。
それに付随する成績は二の次で、やらなければならない状況でしっかり努力が出来るのか、それを見極めるために行ったことだった。
しかし、王族と侯爵家の婚約が破棄されるかもしれない。その状況であっても元婚約者は動かなかった。
さすがに婚約を天秤にかければ動くだろうと思っていたエリオットだったが、その期待は完全に裏切られた。勝手に期待していただけのため、裏切りという事実はないのだが、それでもエリオットは非常に落胆した。
エリオットの求める婚約者像というのは何も特別なものではない。
王族という立場上、相手に求められる人物像というのは非常に高い。それも婚約者からだけではなく、周囲からも同様だ。
「そういう経緯でしたか」
エリオットから婚約破棄に至った経緯を聞いてベラは非常に納得していた。
王族やその立場に近い公爵家の婚約者になると、周囲からの目が厳しくなる。普通の婚約者とは見られ方が違う。
その中で普通の貴族令嬢と同じ程度の成績しか収めるつもりがなかったのであれば、単純、その侯爵令嬢は王族の婚約者として向いていなかった。ただそれだけのこと。
「さて、ここまで説明したところで、本題に入ろう」
「はい」
エリオットの元婚約者の説明を受けてその経緯は理解できたが、どうしてこの話を自分にしてきたのかベラは理解できていない。
いや、ベラは内心その真意に気づき始めているが、それはありえないとそれ以上思考しないようにしていた。
「現在私には婚約者が居ない状態だ。そして現状、新しい候補は父上から複数挙げられている」
「ええ、そうでしょうね」
エリオットの言葉をどこか壁を1枚隔てたところから聞いている感覚で受け取り、それにベラは相槌を打つ。
そのどこか遠くを見ているようなベラの様子に気づきながらエリオットは言葉を続ける。
「そして君も今は婚約者が居ない状態だ」
「……そうですね」
さすがにここまで言われて自身の中で気づいていないふりをし続けるのはベラには難しかった。その1つの可能性を考えたことで少しベラの相槌が遅れた。
「ここまで言えばわかると思うが、君は私の婚約者候補の1人に挙がっている。しかしそれは父上が挙げた候補ではなく、私が推薦したことで候補に挙げられている形だ」
エリオットの口からそう言われ、ベラは息を飲んだ。
これまでの話の流れから、ベラは自身がエリオットの婚約者の候補に挙がっている可能性には気づいていた。しかし、それがエリオットによる推薦の結果というのは予想していなかった。
「どうして、そのようなことを」
この時期にベラがエリオットの婚約者候補に挙がっていることは、実はそこまで不思議なことではない。
それはエリオットが学園を卒業するまで1年を切っていることに関係している。
学園の卒業行事に出席する際、婚約者が居る者は一緒に出席することが認められている。これはあくまで認められているだけであるため、強制というわけではないが、王族としてその場に1人で出席するというのは少々見栄えが悪い。
ゆえにエリオットの卒業までに婚約者を決める必要があった。しかし、最初から王族の婚約者として選ばれるような貴族令嬢はすでに婚約相手を持っているのが普通だ。
ゆえに上位貴族から順に婚約者が決まっていない令嬢が候補として挙げられていく形になるが、その中で王族の婚約者として挙げても問題ないと判断される者はそれほど多くはない。
そのため、ベラも末端ではあるが候補として挙がっていても不思議ではないのだ。
しかし、エリオットは自分からベラのことを婚約者候補として挙げたと言った。それは普通のことではない。
「君は他の者に比べても非常に勤勉だ。目標が定まっていない状況でも努力を怠らない。その姿勢がとても好印象だった。それに――」
「それに?」
エリオットがわざと言葉を区切ったため、ベラはそれに合わせるように聞く。
「図書室で君と話していた時間は実に楽しかった。君となら婚約者としていい関係が築けるとそう感じたのだ」
「そ、れは」
エリオットの告白を聞いて、私もそうだったとベラは反射的に同意の言葉が漏れそうになり、言葉を詰まらせた。
ベラにとっても図書室でエリオットと話をしている時間はとても楽しく感じていたのだ。自分の婚約者がエリオットだったらと何度想像したのかベラはもう覚えていない。
どう対応すればいいのかわからず動くことのできなくなったベラの元へ、対面に座っていたエリオットが立ち上がり近づく。
そしてベラの傍へ来たエリオットは、片膝をつき座っているベラを見上げる形で片手を差し出した。
「ベラ・アルコット。君が私の婚約者になってくれないだろうか」
ベラにとってその言葉は何度夢に見たものだっただろう。
しかしベラはエリオットの手を取らず、首を横に振った。
「わ、私ではエリオット様の婚約者として不相応です」
ベラは子爵令嬢だ。子爵は爵位の中でも上から4番目、下から2番目に位置している下位貴族だ。そんな子爵家の令嬢が王族と婚約を結んだとなればどう思われるか。想像に難しくない。
いくらエリオットがベラのことを婚約者にと求めていたとしても、それは周囲に関係はない。
自分の立場ではエリオットに迷惑が掛かってしまう、その状況を想像してベラはエリオットの告白を受け入れることが出来なかった。




