お話があるようです
放課後、ルカはベラを連れてある部屋の前に来ていた。
「ここは?」
「学園内で秘密の話をするために設けられた部屋……と言えばいいのでしょうか」
ルカの説明を聞いてベラは嫌な想像をしてしまい身を固くした。
学園内で公爵令嬢としての立場はあまり気にしなくてよいと言われているとはいえ、連れて来られたのが秘密の話をするための部屋と説明されれば、ベラがあまりよくない想像をしてしまうのは致し方ないことだろう。
「あ、しっかり学園へ申請して許可を取らないと使えない部屋ですので、中で変なことをすることはできませんから、そこまで怖がらなくて大丈夫ですよ。それでは、中へ入りましょう」
ルカは身構えたベラにそう伝えながらその部屋のドアを開け、ベラを先導する形で部屋の中に入って行った。
「ああ、来たな」
部屋の中に入るとすでに待っている人物が居り、ベラたちが入ってきたことでそう声を上げた。
「エリオット様?」
部屋の中から聞こえて来た声に驚き、部屋の中を見ると予想していなかった人物が居たことにより、ベラはどういうことなのか理解できずエリオットの名前を小さく漏らした後、部屋に入ろうとしていた足を止めてしまった。
「アルコットさん、大丈夫ですか?」
「あ、大丈夫です」
驚きで足を止めていたベラにルカが優しく声を掛けて中に入るように促した。
「これはどういう状況なのでしょうか」
部屋に入ってから少し。部屋の中に設置された大テーブルに着き、落ち着きを取り戻したベラがエリオットとルカにそう問いかけた。
そもそもベラはここへ連れて来られた理由を知らされていない。そう質問をするのは当然のことだった。
「2人をこの場に呼んだのは私だ。正確に言えばここで話をするために君を連れて来るようセケットに指示を出した」
「なるほど?」
この場で一番地位の高いのは王族であるエリオットだ。故にエリオットがルカに指示を出して自分を連れて来させたというのは理解できた。
しかし、ベラにはそれ以上に気になることがあった。
「あの…続けざまに質問をしてしまい申し訳ないのですが、エリオット様とセケット様はどのような関係なのでしょうか」
部屋の中に置かれた大テーブル。そのテーブルに着いた際にベラは2人の対面に座るよう指示されていた。どうしてエリオットとルカが隣り合って座っているのかベラはわからず、正面に座っている2人に質問する。
「簡単に言えば親戚という関係になる。今回セケットに君を連れて来るように頼んだのもその繋がりによるものだ」
「なるほど、そうなのですね」
公爵家の多くは王族と繋がりを持っていることが多い。セケット公爵家も王族には深い繋がりがあった。
貴族である以上ベラも王族と公爵家の関係を把握していたが、詳しい血縁関係まで把握していなかった。そして親戚と聞いてベラは少しだけ納得できるところがあった。
(道理でお二方とも見目美しい姿をしているわけです)
親戚であれば身体的特徴が似ていてもおかしくはない。エリオットもルカも誰が見ても美しいと断言される見た目をしているのだ。
「そうですね。普段はあまり学園内でエリオット王子に関わらないようにしているのですが、さすがに今回の件について話を伺い私も協力した方が良いと判断しました」
「今回の件、ですか?」
(少し考えれば、エリオット様に連れて来るよう指示を受けていただけであれば、セケット様がここに残っている理由はありませんよね? そうなると今回の件というのは私をここへ連れて来る以外の別件も含まれているということなのでしょうか)
ここへ連れて来ただけで今回の件という言葉が出てくるだろうかと疑問に思い、ベラがルカに聞き返す。しかし、ルカからその答えは返ってこなかった。
「それについてはエリオット王子から聞いた方が良いと思います」
「わかりました」
ベラはそう言われルカに向けていた視線をエリオットに移動させる。
「それで今回君をここへ呼んだ理由だが、今後に関わる大事な話をしたいからだ」
「今後に関わる…ですか?」
「ああ」
今後に関わる話とエリオットに言われ、ベラはどうしてそのような話を自分にするのかわからず首を傾げた。
「とりあえず、大事な話をする前に、その話をするに至った経緯を説明した方がわかり易いだろう」
「はい」
本題に入る前にエリオットはこの場にベラを連れてくるに至った経緯を説明し始めた。
「今年、私が3回生になる前、それまで居た婚約者との婚約を破棄した話は知っているだろう」
「ええ」
「アルコットはその経緯をどの程度把握している?」
エリオットにそう問われ、ベラは少し前に流れていた噂話を思い出す。
「エリオット様が婚約者様の試験結果が気に入らず、それを理由に大講堂で糾弾して婚約を破棄したという噂話は聞きました」
当時ベラが聞いたその噂話は末端も末端。相当な尾ひれがついた状態の噂話だったため、かなり事実とは異なる内容になっていた。
「そのような話になっていたのか」
エリオットはベラに聞いた噂話の内容を聞いて呆れ果てたといった表情をした。
実際のところは2回生最後の試験結果を受け、この部屋を使って元婚約者と2人きりで話し合いをし、その結果、婚約の破棄に至ったというものだ。エリオットは大講堂で婚約を破棄したわけでもないし、その場で糾弾したわけでもない。
「かなり歪んで伝わっているようだが、試験の結果を受けて婚約を破棄したというのは事実だ」
「さすがに私もエリオット様がそのようなことをしない方なのを理解していますし、その噂話は嘘だとわかっていますよ」
さすがにベラも自身が聞いた噂話をそのまま信じてはいない。婚約を破棄されたことは事実ではあったものの、図書室でエリオットと出会い関わるようになって、エリオットがどのような人物なのかベラはしっかり理解していた。
「ならよかった」
エリオットもベラがそのような噂を信じるような者ではないことを知っていたが、本人からそう言われたことで安堵の表情を浮かべた。




