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【完結】貴方が要らないとおっしゃった馬鹿な女はもう居ませんのでご安心ください  作者: にがりの少なかった豆腐


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11/27

ご安心ください

 本日2話目になります。

 まだ本日の朝の更新分を読んでいない方はご注意ください。

 

 時間が少しさかのぼり、順位表が張り出されて少し。

 ゴードンの元へ普段から付き合いのある友人が勢いよく近づいて来た。


「ゴードン。ちょっと来てくれ。すごいぞ!」

「なんだ?」


 その友人の勢いに押され、ゴードンは何がすごいのかわからないまま、その友人に連れられ校舎の中を移動することになった。


「ザレス、どこに連れて行くつもりだ?」

「大講堂だよ。今順位表が張り出されているのは知っているだろう」

「まあ、知ってはいるが」


 順位表の張り出し自体、これまでも行われていることだ。故にこれまで一度も行ったことがないゴードンでもそれは知っている。

 当然、これまで縁のない行事と判断し一度も行ったことのないゴードンにとって、なぜその話が出てくるのか理解できなかった。


 半ば強引に大講堂まで連れられゴードンは強くため息を吐く。

 本来であれば放課後はベレア伯爵家の令嬢イシュカと過ごす予定だった。

 未だ周囲にベラとの婚約が白紙になったことを伝えていないため、イシュカと堂々と会うことは出来ないため、ゴードンはザレスの強引な誘いを断る手段を持っていなかった。


 未だ人だかりがある大講堂の黒板前。ゴードンは自分たちが受けた試験の順位に該当する順位表の前に居る生徒の数が、他の試験の順位表よりも少し人だかりが多いことに気づく。

 何か特別なことでもあったのか、と思いながらゴードンはザレスに連れられそこに近づいていく。


「ゴードンこれだ、見てくれ」

「順位表なんて俺たちが見る必要もないだろう。載っているわけがないんだから」


 何故か興奮した様子のザレスに辟易しながらゴードンは示された通り順位表を見た。

 当然ながら自分の名前は存在しない上、知り合いの名前もない。


「これが何なんだ」

「下の方じゃないよ。一番上だ。ほら、お前の婚約者の名前が載っているだろう!」


 そう言われて何のことかゴードンは一瞬思考が停止した。

 現在のゴードンの婚約者はイシュカ・ベレアだ。そしてイシュカもゴードンと同じくらいの成績の生徒である。

 そんなイシュカがここに載っているわけがないと、ある可能性を考えないようにしながら順位表の一番上に書かれていた名前を見た。


「アルコットさんが1位になっている!」


 そこには前回の試験の後、婚約を破棄した元婚約者の名前が堂々と記載されていた。

 ザレスは完全に厚意によってゴードンをこの場へ連れてきたのだろう。しかし、その厚意は今の状況だと意味がないどころか、ゴードンにとってあまり受け入れたくない情報を与えることになってしまっていた。


「どういうことだ?」


 馬鹿と言い婚約破棄した相手がなぜか順位表の一番上に居る。その現実をゴードンはすぐに受け止めることが出来なかった。


「あれアルコットさん」


 ゴードンが惚けている横でザレスが近くに居たベラの姿に気づいて声を上げた。

 声を掛けられたベラは少し気まずそうに、どう対処すべきか悩むような仕草をしたが、見つかってしまった以上対応しなければ婚約が白紙になっていることを気づかれてしまうと判断し、ゴードンとザレスの方へ視線と体を向けた。


「あら、2人はどうしてこちらへ?」


 ベラはできるだけ自然に違和感のないようゴードンたちに声を掛ける。

 それに対してゴードンはその余裕のあるベラの対応が少し気に触ったのか、返事をすることなく渋い表情をした。


「さっきたまたま順位表を見に来て、アルコットさんの名前が一番上にあったからサラーに伝えてここに連れて来たんだ」


 ベラの手前、ザレスはゴードンの呼び方を変えながらも興奮を隠せない様子でそうベラに伝えた。


「そうでしたか」

「アルコットさんも誰かに聞いてここに来たのかい?」

「いえ、私は――」


 自ら来た。そうベラが口に出そうとしたところでゴードンが自分の前でベラと話していたザレスを押しのけ、ベラの前に出てくる。


「お前、これは俺への当てつけか」

「…いえ、そんなことはありませんよ」


 そのゴードンの行動にベラは驚きつつも冷静に対処する。

 婚約が白紙になっている以上、この場で不必要に言葉を交わすのは得策ではないと判断し、ベラはすぐこの場を立ち去れるようすっぱりとゴードンの指摘を否定する。

 しかし、その対応がさらにゴードンの気に障ったのか、ゴードンの表情がさらに険しくなる。


「いや、それはない」

「え、あれ?」


 明らかにいつもとは違うゴードンの様子に気づいたザレスが、何か不味いことをしてしまったのかと戸惑い始めた。


「ザレスを差し向けたのはお前だな」

「それはないです」


 ベラがそんなことをする利など一切ない。しかし、自分に不都合なことが起きていることでゴードンはありえない考えに至っていた。


「はっ、そうかお前。俺に馬鹿と言われて婚約破棄されたのがそれだけ気に入らなかったのか」

「は?」


 さすがにベラもその言動を聞いて理解できず、短くそう言葉を漏らしてしまった。

 さらにできるだけ隠すと言ってきたゴードン側から、婚約破棄の言葉が出て来たことにベラは驚いた。


「こんな形で不正にまで手を出して1位を取るなんて、もしかして俺の婚約者に戻りたかったのか?」


 ゴードンが不正と言葉を出したことで周囲の生徒たちからざわめきが生まれる。

 今まで名前の影すらなかった生徒の名前が突然1位の位置に現れたことで、一部の生徒の間では不正をしたのではないかと疑いをもたれていた。その中でゴードンがはっきりと不正という言葉を使ったことで、さらに不正をして1位になったのではないかという疑惑が生徒の中で膨らんだ。


「不正なんてしていませんよ。そもそも不正をしたとして、それで1位が取れるとお思いなのでしょうか」


 すでに教師人に対し、不正をしていないことを証明していたベラは、周囲からの疑惑の目を向けられてもあまり気にはならなかった。


「…どうだか」

「それに、すでに教師の方々には不正をしていないことを証明しておりますので、そのようなことはないと断言しましょう」


 その証言を聞いたことで周囲の声は少しだけ小さくなった。

 疑惑の当人がしていないと言うだけではなく、しっかり教師が不正をしていないことを認めているとなれば話は変わる。

 とはいえ、この場に居ない教師にそのことを聞くことはできないため、完全に疑惑の目が無くなったわけではない。


「嘘はつかない方がいいぞ。ベラ・アルコット。お前は俺に馬鹿と言われて婚約破棄されたのがむかついたんだろう。それでお前は不正に手を出したわけだ!」

「嘘ではないですよ。疑うのでしたら、教師の誰かをお呼びして証明することは可能ですが、どうしますか」


 ゴードンの言葉の語気が強くなる。しかしベラはそれを気にすることなく言葉を返した。

 大講堂は教諭室に近い場所に位置している。そのため、教師に掛かる面倒ごとさえ気にしなければ、そう時間もかからず教師を呼ぶことは可能だ。


 何を言っても余裕の態度を崩さないベラにゴードンは自分の立場が危うくなってきているのを感じていた。

 そもそもゴードンはこのような話をするつもりはなかった。

 衝動的に婚約破棄をしたことを他の生徒が多く居るこのような場で口に出してしまっている。

 ある意味ゴードンはこれでイシュカと堂々と会うことが出来るようになったわけだが、口外した状況があまりによろしくなかった。


 これではゴードンとベラが婚約破棄したことは明日どころか今日中にも学園内に広まっていくだろう。それもゴードンがどのような理由でベラと婚約破棄したかの理由まで伝わった状態のものがだ。


「っ!」


 先ほどまであったベラに対する疑惑の目はいつの間にか、ベラに対して言いがかりをつけているゴードンの方へ向けられるようになっていた。

 それに気づいたゴードンは視線の圧に気圧され、息を飲む。


「お前が不正を行っていたことはいずれ分かる。行くぞザレス」


 完全に場の空気に負け、ゴードンはこの場を去ろうとした。


「ああ、そうでしたサラー様」

「ちっ」


 その場から去ろうと踵を返したゴードンに向けてベラは声を掛けた。

 本当ならベラの言葉を聞かずこの場を去りたかったゴードンだったが、場の状況から聞かずに去るわけにもいかず、嫌々といった様子でベラの言葉を振り返ることなく聞いた。


「貴方が要らないと言った馬鹿な女はもう居ませんので、ご安心ください」


 ゴードンから婚約破棄について口外した以上、ベラもそれを隠し続ける必要はない。

 周囲に多くの生徒がいる中でそう言われたゴードンは目を見開き、そそくさと黒板の前の空間から逃げるように去っていく。


「ゴードン、お前…」


 ゴードンが速足でこの場を去っていく中、この場に取り残されたザレスが呆れたような表情でそう呟いていた。

 

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