第05話:魔の力
行縢の山道は、昼でも薄暗い。
両側から迫る杉が空を狭め、舗装の上に斑の影を落としている。
その影を踏みながら、紅葉は正門から続く坂道を下っていた。
――むかばき青少年自然の家へと繋がる、一本きりの道。
道は広いが、路肩には落ち葉と小石が溜まっている。
滅多に車の通らない道だ。
「…………」
その道の途中で、紅葉は足を止めた。
風が、止んでいる。
枝も、葉も、まったく動かない。
鳥の声も、蝉にはまだ早いこの季節にあるはずの、小さな虫の羽音すら聞こえない。
代わりに、道の真ん中に、澱みがあった。
目に見えるわけではない。
だが、そこだけ空気が重く、粘つくように沈んでいる。
「……間違いないわね」
紅葉は、自分の胸に手を当てた。
どくり、と。
服の下で、心臓とは別のものが脈を打っている。
――魔力の異常。
それを、彼女は肌でも目でもなく、胸の奥で嗅ぎ分けていた。
なぜなら。
(……欲しがってるのね。あなたが)
千年前、魂に刻み込まれた〝魔神の断片〟。
あれが、道の先に漂う濁りに向かって、涎を垂らすように疼いている。
紅葉は、胸に当てた手をゆっくりと下ろした。
「……気持ちの悪い体」
ぽつりと、そう零した。
❆
――そして、それは来た。
森の奥。下草の擦れる音が、ざり、と鳴る。
黒い影が、藪を割って道路へと出てきた。
一頭。二頭。
少し遅れて、斜面の上からもう一頭。
いずれも、狼だった。
体毛はどれも墨を塗ったように真っ黒で、目は白く濁り、瞳孔がない。
口元からは、禍々しい黒紫の霧が糸を引くように漏れている。
魔物。
魔力異常の生じた土地で、彷徨う獣の魂が魔力に浸蝕されて生まれる、異形の成れの果て。
「……あなたたち」
紅葉の目が、わずかに細くなる。
その姿には、覚えがあった。
――少し前。行縢神社からの帰り道で、一人の少女が喰い殺されかけた。
白い髪の、まだ神子の力を知りもしなかった少女。
あの夜のことは、本人の口からも、翠織の口からも聞いている。
「……白雪姫を殺しかけたっていう奴と、同じ顔ね」
グルル、と喉が鳴った。
三頭が、じりじりと間合いを詰めてくる。
この道は滅多に車が来ない。
だが〝滅多に〟は、〝絶対に〟ではない。
この先には民家が数軒あり、行縢山の登山客だって通る。
――早く、片付けなければ。
そう分かっているのに。
「…………」
紅葉の右手は、自分の胸元を掴んだまま、動かなかった。
❆
魔物は、倒されると消える。
黒い霧となって霧散し、死骸ひとつ残らない。
――だがその瞬間、その体からは必ず、紫の瘴気が立ち昇る。
それは、砕けた魂の残りかす。そして、その魂に宿っていた魔力そのものだ。
行き場を失ったそれは、風に乗り、空気に溶け、やがてどこか遠くの土地へと運ばれていく。
そして、そこでまた新しい魔力異常となる。
――たんぽぽの種と同じだ、と紅葉はいつも思う。
黄色い花はやがて白く綻び、綿毛だけになって、風に攫われていく。
落ちた先で根を張り、また新しい花を咲かせる。
魔力も、それとまったく同じ。
つまり、魔物を倒したところで、脅威が去るのは一時のこと。
殺した数だけ、どこかで新しい魔物が生まれるだけなのだ。
――もっとも。
(……私の場合は、もっと質が悪いのだけど)
紅葉が魔物を倒せば、その瘴気は風には乗らない。
真っ直ぐに、彼女の胸へ来る。
魂に刻まれた魔神の断片が、貪るようにそれを吸い上げてしまうのだ。
即ちそれは、他所へ撒き散らすのを防げるということでもある。
その一点だけを見れば、彼女ほど魔物退治に向いた存在もいない。
だが、と紅葉は思う。
撒き散らさない代わりに、それはすべて、自分の内側に溜まっていく。
一滴ずつ、確実に。
――そして、いつか零れる。
零れた時に生まれるのは、魔物などという可愛らしいものではない。
「…………」
思い出すのは、一昨日の夜だ。
港神社の海岸。
海面を割って這い上がってきた、あの巨大な海龍。
あれは、千年分の魔力が、彼女の内から溢れ出た結果だった。
自分が積み上げたもので、街ひとつが沈みかけた。
自分が積み上げたもので、白雪姫の腹に、穴が開いた。
(……怖い、わね)
千年生きて、不老不死になって、頭を潰されようが心臓を抉られようが治る体を手に入れて。
それでもまだ、怖いものがある。
――自分自身という、時限爆弾が。
紅葉は、目を閉じた。
瞼の裏に、白い髪の少女が浮かぶ。
――紅葉ちゃんは、友達だよ。
あの、真っ直ぐな声。
「…………」
目を開けたとき、そこにはもう、迷いはなかった。
「――けど、それでも」
右手を、前へ。
「倒さなきゃ、いけないでしょう」
――轟、と。
差し出した手のひらの上に、橙色の炎が咲いた。
空気が歪み、アスファルトの上に陽炎が立ち上る。
神器を顕現させるまでもない。
この程度の相手なら、霊力を炎に変えて放つだけで事足りる。
「――消えなさい」
炎が、迸った。
真っ先に飛びかかってきた一頭が、咆哮を上げる間もなく白い光に飲まれる。
骨まで灰にする熱。
黒い体は一瞬で炭と化し、輪郭を失い、風に攫われて消えた。
――そして、次の瞬間。
消滅した狼のいた場所から、紫の靄が立ち昇った。
それは風に流れることなく。
まるで意思を持ったかのように、真っ直ぐ紅葉の胸へと奔り――吸い込まれた。
「――ぐ、ぅ……っ‼」
膝が、折れた。
アスファルトに片手をつき、紅葉は喉の奥で呻く。
熱い。
いや、熱いのではない。
内側から、何かが膨らんでいる。
胃の底に鉛を流し込まれたような重さと、爪で内側から胸を掻かれるような、悍ましい疼き。
「……っ、は……」
肺から、無理やり息を吐き出す。
汗が一筋、顎を伝って落ちた。
(……一気に、片付けるのはまずいわね)
残る二頭が、じり、と距離を詰めてくる。
まとめて焼き払うのは簡単だ。一秒も掛からない。
だが、その分だけ瘴気も一度に流れ込んでくる。
――そうなれば、膝をつく程度では済まない。
「……仕方ないわ」
紅葉は、震える足で立ち上がった。
乱れた前髪を掻き上げ、黒曜石の瞳を上げる。
「一頭ずつ、相手してあげる」
その手のひらに、再び炎が灯った。
❆
同じ頃。
むかばき青少年自然の家、二階の廊下。
第二研修室の扉の前に、小さな影が立っていた。
――黒華である。
「…………」
――三階の部屋に戻っていなさい。
そう言われたはずだった。約束も、した。
だからここに立っているのは、いけないことだ。
(……でも)
胸の奥が、ずっとざわざわしている。
営火場で、あの綺麗なお姉ちゃんの顔つきが変わった時から、ずっと。
黒華は、小さな手を握り締めた。
――我儘を、言っていいんだよ。
朝の、あの人の声。
小指に絡んだ、あの温度。
「…………っ」
持ち上げた手が、扉の前で止まる。
この扉の向こうにいるのは、大人だ。
大人は、怖い。
優しい顔をしていても、ある日突然、こちらを叩く。
それでも。
こん、こん。
ためらいながらも、黒華は扉を叩いた。
「――どうぞ」
中から、落ち着いた女性の声が返る。
黒華は、両手で扉に取りつくようにして、ゆっくりとそれを開けた。
「どうしたの、紅葉ちゃ――」
書類から顔を上げかけた翠織の言葉が、途中で途切れた。
当然だ。
白雪姫と蒼波は、今日は学校。
そして残った一人は、自分を怖がっている五歳の女の子。
であれば、この扉を叩くのは紅葉しかいない。
――そう、思っていたのに。
「…………」
開いた扉の隙間から、こちらを見上げている焦げ茶色の瞳。
翠織の顔が、強張った。
(……どうしよう)
昨日、この子は自分の伸ばした手を叩き落とした。
迂闊に動けば、また怯えさせてしまう。
翠織は椅子から立ち上がりかけて――思い直し、静かに座り直した。
「……ど、どうしたの?」
できるだけ、穏やかに。
できるだけ、声を張らずに。
黒華は、扉の縁を握ったまま、しばらく黙っていた。
そして、ぽつり、ぽつりと話し始める。
「……あのね」
「ええ」
「くろいかみの、おねえちゃんが」
――黒い髪の、お姉ちゃん。
その呼び方に、翠織は一瞬戸惑った。
が、すぐに思い当たる。
(……そうか、この子はまだ、紅葉ちゃんの名前を聞いていないのね)
「……うん。それで、紅――そのお姉ちゃんが、どうしたの?」
「……ようすが、かわって。そとのほうに、いっちゃったの」
翠織の眉が、微かに動いた。
「様子が変わって、というのは……どんなふうに?」
黒華は、うまく言葉が見つからないのか、自分の顔をぺたぺたと触った。
「……こわい、かんじ。めが、きゅっ、てなって」
「…………」
「あわてんぼさんみたいに、なってた」
――焦っていた、ということだろうか。
子供の言葉を頭の中で組み直しながら、翠織は静かに耳を傾ける。
そして、黒華は。
ほんの少しだけ、声を落とした。
「……あとね」
「ええ」
「おねえちゃん、ないちゃいそうだった」
翠織の指先が、机の上で止まる。
「もりに、すてられたときのわたしと、おなじかおだったの」
黒華は、自分の胸のあたりをきゅっと掴んだ。
「……だから、かわいそうだったの」
「…………」
翠織は、返す言葉を見つけられなかった。
――森に捨てられた時の、自分と同じ顔。
この子は、それを〝可哀想〟と言った。
自分がされたことの意味も、まだ半分も分かっていないだろうに。
他人の顔に、それを見つけて、心配して、ここまで来たのだ。
(……この子は)
喉の奥に、熱いものが込み上げる。
しかし、翠織はそれを飲み込んで、頭を切り替えた。
今は、そちらではない。
❆
(……また、何かを感じ取ったのかしら)
思い浮かぶのは、一昨日の港神社。
あの時も、紅葉は誰よりも早く異変を察知し、誰にも告げずに走り出した。
あの子の胸に刻まれたものは、〝魔〟の気配に対してだけは、どんな観測装置よりも鋭い。
だが。
翠織は、机の上のスマートフォンに目をやった。
画面は、暗いまま。
相克庭の観測部からは、魔力異常の一報も入っていない。
(――昨夜の報告は、〝あの理由〟でどうにか誤魔化したけれど)
行縢で観測された、微弱な魔力反応。
あれの正体が、今この部屋の入口に立っている女の子だということは、まだ組織の誰も知らない。
知られるわけには、いかない。
――とはいえ、観測が来ていないのなら、これは新規の案件ではない可能性が高い。
であれば、魔物か。
この行縢の結界の内側で生まれる程度の個体なら、紅葉が一人で片を付けてしまうだろう。
(……なるほど。それで、この子をこちらに寄越したのね)
翠織は、そっと息を吐いた。
自分のところへ来させたのは、一人にしておけないと判断した紅葉の指示。
――つまり、この子の意思ではない。
分かっている。分かってはいるのだが。
(……少しだけ、残念だわ)
「……ありがとう、黒華ちゃん。教えてくれて助かったわ」
翠織は、精一杯の笑顔を作った。
「お姉ちゃんに、〝翠織さんのところへ行きなさい〟って言われてきてくれたのね」
――ところが。
「……ううん」
黒華は、首を横に振った。
「へやに、もどってなさいって、いわれた」
「え」
「……でも、わたし、きた」
小さな声だった。
けれど、はっきりとした声だった。
「…………」
翠織は、目を見張った。
言われたからではなく。
誰に頼まれたわけでもなく。
大人が怖くて、扉の前で足が止まって、それでも自分の意思で、この子はここへ来たのだ。
(……ああ、もう)
胸の奥が、じんわりと温かくなる。
「……ありがとう」
その言葉は、さっきよりも、ずっと自然に出てきた。
「よく来てくれたわね。……とても、偉かったわ」
黒華の頬が、ほんのりと赤くなった。
❆
「――さて。それじゃあ、黒華ちゃんはお部屋に戻っていてくれる?」
立ち上がりながら、翠織は言った。
ここから先は、神子の仕事だ。
しかし、黒華は、その場から動かなかった。
「…………」
「黒華ちゃん?」
「……ひとりは、こわい」
小さな肩が、きゅっと縮こまる。
「…………」
翠織は、言葉に詰まった。
――当然だ、と思う。
五歳の子供を、慣れない建物の一室に一人で置いていく。
それがどれほど心細いか、想像できないほど鈍いつもりはない。
施設の職員に見てもらう、という手も一瞬考えた。
だが、この子は大人そのものに怯えている。
知らない大人と二人きりにするのは、部屋に一人でいさせるより、よほど酷だろう。
そして何より。
(……この子は、魔力を持っているもの)
万一のことがあれば、対処できるのは自分しかいない。
「…………」
数秒。
翠織は、逡巡して――そして、腹を決めた。
「――分かったわ。一緒に行きましょう」
「……いいの?」
「ええ。ただし、ひとつだけ約束して」
人差し指を立てて、翠織は言う。
「何があっても、私から離れないこと。……できる?」
「……うん」
こくん、と。
黒華が頷いたのを見て、翠織は床に膝をついた。
大人の高さから、子供の高さへ。
視線が、ぴたりと重なる。
「それと――黒華ちゃん」
「……なあに?」
「昨日は、ごめんなさいね」
黒華の目が、まん丸になった。
「いきなり手を伸ばして、怖がらせてしまったでしょう。……あれは、私が悪かったわ」
翠織は、真っ直ぐに頭を下げた。
大人が、子供に。
言い訳もなく、条件もつけずに。
「…………」
黒華は、しばらくその旋毛を見つめていた。
それから、もじもじと指を絡ませて、小さく言った。
「……わたしも、ごめんなさい」
「え?」
「……はたいちゃって、ごめんなさい」
――翠織の口元が、綻んだ。
「いいのよ。そんなこと」
そう言って、そっと手を伸ばす。
烏羽色の髪に、手のひらが触れる。
――黒華は、逃げなかった。
(……撫でるだけなら、平気になったのね)
この数日、白雪姫がこの子の心を解し続けてくれた成果だ。
その事実が、翠織には何より嬉しかった。
――だが、そこで。
「…………え」
翠織の手が、止まった。
前髪の下。
黒華の右の頬から額にかけて、黒い文様が浮かび上がっていた。
蔓のような、あるいは罅のような、歪に整った紋。
「黒華ちゃん。……この、お顔の模様。どうしたの?」
「……もよう?」
黒華は、きょとんとして自分の頬を触った。
どうやら、本人にはまるで自覚がないらしい。
(……魔力に関するもの、かしら)
気にはなる。
それも、猛烈に。
だが、今はそれよりも優先すべきことがある。
「……ううん、何でもないわ。行きましょうか」
翠織は立ち上がり、黒華の小さな手を――取ろうとして、やめた。
代わりに、自分の手を差し出して、待った。
黒華は少し迷ってから、その指先を、きゅっと摘んだ。
それだけで、十分だった。
翠織は目を閉じ、意識を外へと研ぎ澄ませる。
――霊力感知。
行縢山の濃密な霊気の中に、灼けつくように熱い、見知った気配がひとつ。
位置は、正門を出て、坂道を下った先。
「……見つけた」
翠織は目を開けて、走り出した。
❆
坂道を下りきる手前で、それは見えた。
道路の上に蟠る、黒い影の群れ。
そして、その中心で舞う、橙色の光。
「――紅葉ちゃん‼」
翠織が声を上げる。
振り向いた紅葉の顔には、玉の汗が浮いていた。
肩で息をしながら、彼女は目を見開く。
「翠織さん……⁉ どうして、ここに――」
言いかけて、その視線が、翠織の背後で止まった。
「……っ、なんで、黒華ちゃんまで連れて――‼」
叫びながらも、紅葉の手は止まらない。
振り抜いた炎が、飛びかかってきた一頭を真っ二つに焼き裂く。
黒い体が灰になり、紫の靄が立ち昇り――そしてまた、彼女の胸へと吸い込まれていった。
「……ぐ、っ」
「紅葉ちゃん⁉」
「――大丈夫。これは、いつものことだから」
息を切らせながら、紅葉はそう言い切った。
そのやり取りの間。
翠織の指を摘んでいた小さな手は、いつの間にか、力を失っていた。
「…………」
黒華が、立ち竦んでいる。
その目は、紅葉の手のひらに宿る炎に、釘付けになっていた。
「黒華ちゃん?」
異変に気付いた翠織が、振り返る。
小さな体が、がたがたと震えていた。
歯の根が合わず、唇が戦いている。
「……ほのお……」
掠れた声だった。
「……いや……いやぁ……」
――それは、黒華の中の、最も深い場所にある傷だった。
狭い部屋。
カーテンに走った、橙色の炎。
覆い被さってきた、母の背中。
――熱い、熱い‼
のたうち回る母に、恐る恐る手を伸ばして。
――触るな‼
鬼の形相と、叩き落とされた手のひら。
あの炎を出したのは。
お母さんを焼いたのは。
――ほかの誰でもない、わたしだ。
「黒華ちゃん、どうしたの⁉」
翠織が肩を掴む。
だが、その声はもう、届いていなかった。
「黒華ちゃん――‼」
紅葉も気付き、こちらへ駆け寄ろうとして。
――次の瞬間。
轟、と。
黒華の体から、黒紫の柱が噴き上がった。
「――⁉」
道路の路面に罅が走る。
周囲の木々が、爆風に煽られて一斉に軋んだ。
頬の文様が、肌の下で脈を打つように光っている。
――異常な、魔力だった。
五歳の子供が抱えていていいものではない。
いや、人間が抱えていていいものですら、ない。
「……嘘、でしょう」
紅葉の顔から、血の気が引いた。
そして。
その魔力に応えるように――森が、鳴いた。
ざあ、と。
斜面のあちこちで下草が割れ、木の影という影から、白く濁った目が浮かび上がる。
二つ。四つ。十。
――数えるのを、諦めるほどに。
道路を囲む森のすべてから、黒い獣が這い出してくる。
残っていた狼たちも、紅葉から興味を失ったかのように、いっせいに黒華の方へと首を巡らせた。
――ご馳走の匂いに、集まってきたのだ。
「…………っ」
翠織は、震える黒華を咄嗟に背へ庇った。
包囲されている。
完全に。
(――しまった)
奥歯が、ぎりと鳴る。
(……やっぱり、連れてくるべきじゃなかった)
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