6.団長ガレス
赤く輝く川のような流れが、巨大空洞の中心を貫いていた。
熱と魔力が絶えず流れている。
近くで見ると、その存在感は圧倒的だった。
(これ全部エネルギーってことか?)
前世なら発電所とか石油とか、そういうものに近いのかもしれない。
「ぷる!」
コロが地脈の縁で跳ねる。
中心の炎が楽しそうに揺れていた。
(よく見つけたな!えらいぞ!)
「ぷる!」
元気な返事が返ってくる。
俺は意識を主要地脈へ伸ばした。
前回の地脈接続と同じ要領だ。
熱を流して、触れる。
そして繋ぐ。
たぶんそれでいい。
(頼むから爆発とかは勘弁してくれよ)
火山が言う台詞ではない気もする。
地中を流れる灼熱がゆっくりと伸びていく。
主要地脈へ触れた瞬間、巨大空洞が震えた。
どくん。
(うおっ!?)
流れ込んでくる熱量も魔力も桁違いだった。
大地の奥から脈動が伝わる。
まるで山そのものが呼吸を始めたようだった。
赤い光が空洞を満たし、鉱石が輝く。
岩肌が赤く染まり、地脈の光が洞窟全体を駆け抜けた。
《主要地脈との接続を確認》
《火山領域が拡大しました》
《火山の権能が成長しました》
(おお……)
視界が広がり、今まで認識できなかった場所まで感覚が届くようになった。
地下深くの空洞。埋もれていた鉱脈。溶岩溜まり。
熱の流れ。
山全体が少しずつ鮮明になる。
(なんか本当に大地主になってきたな)
いや地主というか山そのものなんだけど。
その時、コロがぴょんと跳ねた。
「ぷるっ!」
勢いよく地脈へ飛び込む。
(コロォォォ!?)
本気で慌てた。
だがコロは平気だった。
地脈の上をぷかぷか浮いている。
温泉に浸かるおじさんみたいな顔をしていた。
(大丈夫そうだね、そんな顔もできたのね君)
「ぷるる〜」
ものすごく幸せそうである。
しばらく漂った後、コロはぽよんと飛び上がった。
中心の炎がほんの少しだけ大きくなっている。
(成長してる?)
本人は気にせず、元気に跳ね回っている。
やがてコロは空洞の端で立ち止まった。
「ぷ?」
炎が揺れる。
何か見つけたらしい。
コロは岩壁へ突撃した。
がりっ。
(食うな)
岩を食うな。
俺が言うのもなんだが。
しばらくして岩の一部が崩れ落ちる。
その奥から赤い結晶が顔を出した。
内部に炎を閉じ込めたような鉱石だった。
《高濃度火属性鉱石を確認》
《火山資源として登録》
(おっ)
詳しくは分からない。だが絶対に良いやつだ。
表示の雰囲気で分かる。高濃度って出てるし。
コロもそう思ったらしい。
結晶へ飛びついた。
(あ、それも食うんだね)
「ぷる!」
反省の色はなかった。
数秒後。
ぽんっ。
小さな火花が飛んだ。
コロの頭上で拳ほどの火球が揺れている。
(おお?)
火球はふわふわ漂い、やがて消えた。
攻撃と呼ぶには頼りない。
それでも確かな変化だった。
(少しずつ強くなってるな)
コロも。山も。俺も。
その光景を見ながら、ふと前世のことを思い出した。
大きな成果なんてなかった。
誰かに褒められることも少なかった。
でも少しずつ積み重ねることだけは嫌いじゃなかった。
たぶん今も同じだ。
気付けば笑っていた。
(悪くないな)
「ぷる!」
コロが元気よく跳ねる。
同意らしい。
◇ ◇ ◇
山の麓から離れた森の中。
焚き火を囲む男たちの表情は重かった。
「まだ戻らねぇのか」
「二日だぞ」
「狩りで二日も帰らねぇのはおかしい」
不安げな声が上がる。
誰もが同じことを考えていた。
死んだのではないか。
その言葉だけは口にしなかった。
焚き火の向こうで、一人の男が黙って話を聞いている。
黒髪。無精髭。顔には古傷。腰には大剣。
盗賊団団長、ガレス・ヴォルグだった。
男たちはガレスの判断を待っていた。
理由は単純だ。
この男は仲間を見捨てない。
怪我人も置いていかない。
食料も平等に分ける。
だから皆ついてきた。
盗賊だからではない。
ガレスだからだ。
「団長」
一人が口を開く。
「どうします」
ガレスはしばらく黙っていた。
森の向こう側、遠くに見える火山を見つめる。
嫌な予感がしていた。
戦場で何度も感じた感覚だった。
理屈ではなく、経験が告げている。
あの山には何かある。
「山を調べる」
低い声が響いた。
誰も反対しない。
ガレスは続ける。
「全員で入る」
その言葉に男たちが顔を上げた。
「全員で?」
「ああ」
ガレスは頷く。
「二人同時に消える山だ」
視線が険しくなる。
「何もないはずがねぇ」
静かな声だった。
だがその目は鋭い。
部下を失ったかもしれない男の目だった。
「準備しろ」
「明日の朝には入る」
男たちが立ち上がる。
剣を研ぐ者。
荷物をまとめる者。
弓を確かめる者。
ガレスは一人、火山を見つめていた。
生きていてほしい。
それが本音だった。
二人とも、ちゃんと帰ってきてほしい。
だが長年の経験が、それは難しいと告げている。
拳を握る。
守ると決めた仲間たちだった。
それでも守れないことがある。
その現実を、ガレスは誰より知っていた。
そして彼はまだ知らない。
山の中で待つ存在を。
仲間を守ろうとする火山と、自分が向き合うことになるのを。
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