65.火竜王国
隻眼のオーガを拘束していた玄武岩が、内側から爆ぜた。
岩の顎が砕け、太い鎖が一本、弾け飛ぶ。金棒へ巻かれていた残りの鎖も、赤熱しながら大きく軋んだ。
「拘束が壊れる!」
クライスの声が夜気を裂く。
「北側の岩、三つ崩落! 鎖は残り二本です!」
『カザン様!』
『分かってる!』
俺は隻眼のオーガの足元へ力を集めた。だが、押し上がった岩は膝へ届く前に止まる。
火山核から送り出したはずの熱が、山体の奥へ引かれていく。
(ヴァル。もう少しだけ返してくれ)
返事はない。
代わりに、地の底から大きな鼓動が届いた。
どくん。
また、俺の熱が吸い込まれる。
隻眼のオーガが両腕へ力を込めた。二本目の鎖が切れ、最後の一本へ炎が流れ込む。
赤く染まった鎖が、中央から溶け落ちた。
自由になった金棒が持ち上がる。
隻眼のオーガが、立ち上がった。
崩れた玄武岩が、その巨体から滝のように落ちていく。傷ついた右脚を庇い、腰から下にはまだ岩の一部が食い込んでいる。
それでも、もうあいつの動きを止めるものはなかった。
「全員、構えろ!」
レンの声に、盾の列が上がる。
「御山様の大きな援護はない! 受けられる攻撃だけ受けろ! 無理なら避けろ!」
「どっちなんだ!」
ハロルドが予備の盾を構えながら叫ぶ。
「見て決めろ!」
「急に難しい!」
「生きて覚えろ!」
(相変わらず教え方が雑だな)
だが、笑う者はいなかった。
盾は壊れ、矢は減り、負傷者は増えている。俺も満足に力を使えない。
その前で、二十年前に倒しきれなかった怪物が、もう一度立ち上がっている。
ハロルドの隣へ、ガルクが戦斧を担いで立った。
「盾が小さくなった分、逃げるのは速いんだろ」
「お前を置いて逃げてもいいならな」
「それは困る」
「なら、盾の後ろから離れるな」
短いやり取りを交わし、二人は前を向く。
高所ではコーレリアが矢をつがえ、その下でクライスが木札を確かめていた。
「第一列、十九人! 弓手十一人! 魔法を扱える者、五人! 欠員なし!」
「治療所は?」
ジンが尋ねる。
「負傷者二十六人! 動かせない者が四人です!」
「サナ!」
「聞こえています」
サナはキイナの腕へ濡らした布を巻きながら答えた。
「キイナ様は動かせません。こちらで守ります」
「私は大丈夫です」
「話せることと、動いていいことは別です」
「少しだけなら――」
「駄目です」
「まだ最後まで言ってないよ」
「最後まで聞いても、駄目です」
キイナが諦めたように息を吐き、少し離れた場所にいる娘へ目を向けた。
「ホムラ」
「分かってる」
ホムラは神器を両手で握っていた。
赤い結晶から伸びた柄がしなり、緩やかな弧を描く。赤金色の弦が張られ、神器は迷うことなく弓の形を取っていた。
まだ完全には扱い慣れていない。
それでも、ホムラの手の中にある姿は、もう借り物には見えなかった。
隻眼のオーガの右目が、その光を捉える。
「来るよ」
コーレリアが告げた。
「真っすぐ、ホムラへ」
「見えてる」
「怖い?」
「怖いよ」
ホムラが神器を引く。
「でも、逃げたいとは思わない」
隻眼のオーガが吠えた。
周囲で待っていた魔物たちが一斉に立ち上がる。獣型。小鬼型。猪に似た魔物。
森の左右から、再び火守村へ向かって走り出した。
「中央を空けろ!」
ジンが木板の前から指示を飛ばす。
「隻眼のオーガとホムラの間へ入るな! 小型だけ左右へ分けろ!」
「右から七体!」
クライスが数える。
「左は九体! 後方にも続いています!」
ハロルドが盾を前へ出し、ガルクの戦斧がその横から伸びる。
獣型が飛びかかる。ハロルドが受け、ガルクが戦斧の柄で胴を打った。
斬ってその場へ倒せば、後続が射線を塞ぐ。
だから、横へ飛ばす。
ホムラと隻眼のオーガを結ぶ中央から、魔物を押し出していく。
「左、三体抜ける!」
コーレリアの矢が放たれた。
一射目が先頭の小鬼の足元へ。二射目が、その後ろの獣型の前脚へ刺さる。
三射目は魔物ではなく、地面へ突き刺さった。
その位置を見たレンが槍を横へ振る。
「そこから先へ通すな!」
剣士たちが矢を目印に並び、群れが左右へ分かれる。
中央に、一本の道が開いた。
その先で、隻眼のオーガが金棒を引きずりながら進んでくる。
どん。
傷ついた右脚が地面を踏む。
どん。
巨体が揺れる。
「右脚へ体重をかけるたび、頭が左へ下がる」
コーレリアが言った。
「次で、目の高さが一番低くなる」
「射てる?」
「今の距離なら」
「外したら?」
「もう一度射る時間はない」
「やっぱり言い方が怖い!」
「でも、当てるでしょう?」
「そのつもり!」
ホムラの指が光の弦を引く。
赤金色の光が集まり、一本の矢へ変わっていく。
『カザン様』
『うん』
『一緒に見て』
神器を通じて、ホムラの視界が俺へ流れ込んでくる。
迫る巨体。額から流れる血。焼けただれた右目の周囲。
そして、ただ一つ残された右目。
俺には、人間と同じ目はない。
けれど今は、ホムラが見ている。
同時に、俺が感じる熱もホムラへ返していく。
隻眼のオーガの身体を巡る魔力。右脚の傷へ集まる熱。胸の奥で脈打つ火。
拳と金棒へ流れようとする、魔力の道。
『……熱い』
『これが、あいつの火だ』
『目にも流れてる』
『守るつもりだ』
『じゃあ、その流れごと射る』
『できるか?』
『カザン様にも見えてるなら』
ホムラが笑う。
『外さないよ』
隻眼のオーガが右脚を踏み込んだ。
頭が下がる。
「今!」
コーレリアの声。
ホムラが弦を離した。
赤金色の矢が夜の空気を裂き、真っすぐ隻眼のオーガの右目へ向かう。
だが。
隻眼のオーガは、同じ攻撃を二度受けるほど愚かではなかった。
空いている拳が持ち上がる。
炎が右目の前へ集まり、圧縮され、渦巻く。分厚い炎の盾へ変わった。
赤金色の矢が、その中心へ突き刺さる。
光と炎が弾けた。
一層。
二層。
矢が重なる火を貫いていく。
だが、先端が削られ、勢いが落ちる。
「行け!」
ホムラが叫ぶ。
矢は炎を抜けた。
けれど、隻眼のオーガの右目へ届く直前。
光の粒となって砕けた。
「また……!」
ホムラが神器を引き直す。
だが、隻眼のオーガはもう目の前だ。巨大な金棒が持ち上がる。
「下がれ!」
レンが叫ぶ。
「ホムラ、下がれ!」
ホムラは動かない。
それでも二本目の矢はまだ形にならず、俺の力も足りない。神器の力だけでは、あの炎を抜けない。
隻眼のオーガが金棒を振り上げた。
ハロルドが盾を構える。ガルクが踏み出す。レンの槍が上がる。
分かっている。
受けきれない。
それでも、誰も逃げなかった。
「……もう、無理なんじゃ」
避難していた誰かの声が、ほんの小さく祈りの石床から漏れた。
その瞬間。
山体の奥から、低い咆哮が響いた。
◇ ◇ ◇
音は地面の下から来た。
深く、重く。
火守村にいる全員の身体を震わせるほど、大きい。
隻眼のオーガの動きが止まった。北から迫っていた魔物たちも、一斉に足を止める。
「何の音だ!」
「山の中です!」
見張り役が叫ぶ。
俺には分かっていた。
火山核のさらに奥で、黒い岩が崩れている。
一枚。
二枚。
長い眠りの間、ヴァルの身体を包んでいた岩の殻が、次々と割れていく。
金色の目が上を向いた。
その先にあるのは、火口へ続く古い火道。
長い年月の間に、ところどころ岩で塞がれている。
(ヴァル)
金色の目が、俺の意識へ触れた。
(こっちだ)
俺は残っている力を古い火道へ流した。
大きな岩壁は作れない。隻眼のオーガを倒すような力も出せない。
それでも、道を塞いでいる岩を一つずつ動かすことならできる。
(火口へ上がれ)
返事はない。
けれど、ヴァルが四肢へ力を込めた。
黒曜石のような爪が岩へ食い込み、翼が開く。
身体が上を向いた。
次の瞬間。
ヴァルが地面を蹴った。
古い火道を、一気に駆け上がってくる。
一歩ごとに岩が砕け、熱が上がり、山体が揺れる。
「御山が……!」
「火口を見ろ!」
フランから運ばれる光景が変わった。
「かしこみかしこみ。御山の頂より赤金の光があふれております!」
火口から、長く溜め込まれていた熱が夜空へ立ち昇る。
煙が渦を巻く。
その中心で、黒い影が一気に上へ抜けた。
火口から。
ヴァルが飛び出した。
黒曜石のような鱗。
長くなった角。
二つの金眼。
そして、大きく広がる黒い翼。
翼が一度、夜空を打った。
煙が吹き払われる。
その全身が、ホムラの目とフランの運ぶ光景を通して、俺にも届いた。
(……大きくなったな)
隻眼のオーガより、一回り大きい。
かつて大型犬ほどの身体で聖域を走り回っていた火竜の面影は、確かに残っている。
けれど、もう誰かに守られるだけの幼体ではなかった。
「火竜様……」
誰かが呟いた。
「火竜様だ!」
別の声が続く。
「御山の火竜様が、目を覚ました!」
折れかけていた声が、一つ、また一つと火守村へ戻ってくる。
下がりかけていた盾が上がり、弓手が矢をつがえ直す。
槍を握る手へ、力が戻った。
「まだ終わってないぞ!」
レンが叫んだ。
「火竜様が来た! 俺たちも立て!」
「おおっ!」
返事が、今度は大きく響いた。
(ヴァル)
俺が呼ぶ。
空を飛ぶ金眼が、火山核へ触れるようにこちらを向いた。
低い唸り。
言葉ではない。
けれど、俺を覚えている。
ここを覚えている。
守っていたものまで。
全部、覚えている。
ヴァルの視線が火守村へ向いた。
人々へ。
キイナへ。
ホムラへ。
そして、隻眼のオーガへ。
金色の目が細くなった。
「かしこみかしこみ。二十年の眠りを終えし御山の黒き御子、今ここに新生の国を守護すべく――」
(フラン。隻眼のオーガ)
「かしこみかしこみ。炎を集めております!」
隻眼のオーガが、ヴァルへ向き直っていた。
◇ ◇ ◇
隻眼のオーガが拳を突き出した。
集められていた炎が、一気に放たれる。
広げる火ではない。
一点へ圧縮された炎の槍。
夜を赤く裂き、空に浮かぶヴァルへ向かう。
「ヴァル!」
ホムラが叫ぶ。
ヴァルは避けなかった。
大きく息を吸うと胸が膨らみ、黒い鱗の隙間へ赤金色の熱が走る。
胸から首へ。
喉へ。
牙の間へ。
炎が集まった。
次の瞬間。
火竜の息吹が放たれた。
赤金色の火。
その中心だけが、眩しいほど白く輝いている。
二つの炎が、空中でぶつかった。
衝撃。
夜空が、一瞬だけ昼のように明るくなる。
押し合ったのは、ほんの一瞬だった。
ヴァルの炎が隻眼のオーガの火へ食い込み、赤い炎を押し潰していく。
魔力の流れごと焼き崩され、炎の槍が端から砕けた。
ヴァルの息吹が、そのまま隻眼のオーガへ届く。
巨体が腕を上げて火を受ける。
皮膚が焼け、肉が裂けた。
隻眼のオーガが苦痛の声を上げる。
一歩。
二歩。
巨体が後退する。
傷ついた右脚が支えきれず、片膝が地面へ落ちた。
(強い)
隻眼のオーガが、これまで人間たちへ見せつけてきた火。
岩壁を内側から砕き、地の底を走り、俺の感知経路まで焼いた魔法。
それを、ヴァルは正面から破った。
「勝てる……!」
誰かの声。
「火竜様なら、勝てる!」
「まだだ!」
ジンが止める。
「小型の魔物が残っている! 持ち場を空けるな!」
隻眼のオーガが咆哮した。
左右で止まっていた魔物たちが再び動き出す。
向かう先はヴァルではない。
祈りの石床。
ホムラ。
キイナ。
人間たちだ。
「巫女の周りを固めろ!」
ハロルドが前へ出る。
獣型の爪が盾へ当たり、足が半歩滑った。
その横からガルクの戦斧が伸びる。
「盾が小さいぞ!」
「今さら言うな!」
「俺の肩が出てる!」
「引っ込めろ!」
「どうやって!」
それでも、盾は止める。
戦斧はその後ろから、確実に脚を斬る。
「左の屋根!」
コーレリアの矢が飛んだ。
回り込もうとした小鬼の足元へ刺さり、屋根板が外れる。
魔物が体勢を崩し、そのまま落ちた。
そこへ。
「患者と巫女のそばで暴れないでください」
サナが踏み込んだ。
治療刀の細い刃が、落ちてきた小鬼の膝裏へ走る。
深くは入れない。
筋だけを切る。
着地しようとした脚から力が抜け、小鬼が地面へ倒れた。
「壊れ方を知っていれば、止め方も分かりますから」
「やっぱり怖いな、サナ!」
ガルクが叫ぶ。
「戦っている暇があるなら、前を見てください」
「はい!」
コーレリアが、もう一本の矢を放つ。
「次、右!」
「俺から見て?」
「全員から見て右」
「分かりやすい!」
「巫女の周囲!」
クライスが木札を確認する。
「ハロルド!」
「いる!」
「ガルク!」
「いる!」
「コーレリア!」
「見えてる」
「サナ!」
「ここです」
ホムラが振り返る。
「一人足りない」
「俺です!」
「自分を最後に数えるんだ」
「ほかの四人を先に確認しています!」
クライスが最後の札へ指を置いた。
「五人。欠員なし!」
(本当に親衛隊みたいになってきたな)
ヴァルが翼を畳み、空から隻眼のオーガと火守村の間へ降り立った。
大地が揺れる。
黒い翼が開き、その向こうへ人間たちを隠す。
ヴァルは、隻眼のオーガより一回り大きな身体で正面から相手を見据えていた。
隻眼のオーガが金棒を振り上げる。
振り下ろす。
ヴァルが首を逸らした。
金棒が肩の鱗を擦り、火花が散る。
黒曜石のような鱗に一本の傷が走った。
それだけだ。
次の瞬間、ヴァルの前脚が隻眼のオーガの胸へ叩き込まれる。
巨体が後ろへ吹き飛び、地面を削りながら転がった。
「……強い」
ホムラが息を呑む。
『昔から、噛む力は強かった』
「そこなの?」
『褒めてるぞ』
隻眼のオーガが起き上がる。
残された右目がヴァルを見る。
そして、火守村へ向いた。
(まずい)
分かったんだ。
正面からでは。
火でも、力でも。
ヴァルには勝てない。
だから。
狙いを変えた。
◇ ◇ ◇
隻眼のオーガが金棒を地面へ突き立て、空いた拳を火守村へ向ける。
身体を巡る魔力。
傷口へ集めていた熱。
金棒に残っていた炎。
すべてが、拳の上へ集まり始めた。
「火の魔法!」
ナキアが叫ぶ。
「今までで一番大きい!」
炎が膨らみ、圧縮される。
さらに、その外側へ新しい火が重なっていく。
「ヴァル!」
レンが叫ぶ。
「止めろ!」
ヴァルが息を吸い、胸へ炎を集める。
だが。
『待て!』
俺の声へ、ヴァルの金眼が動いた。
『そこでぶつけたら、村の上で爆発する!』
隻眼のオーガの火。
ヴァルの炎。
どちらも、さっきよりはるかに火守村へ近い。
二つをここでぶつければ、勝てたとしても爆発と熱が人間たちへ降り注ぐ。
ヴァルが口を閉じた。
牙の奥へ、炎が消える。
「どうして止めたの!」
「カザン様が止めた!」
ホムラが答える。
「ここでヴァルの火を当てたら、私たちまで焼かれる!」
「では、どうする!」
ジンの問いへ、ホムラが神器を持ち上げた。
「私が射る」
「さっき止められただろう!」
「今度は、防がせない」
隻眼のオーガの拳の上で、巨大な火球が膨らんでいる。
外側では赤い炎が荒れ狂い、内側には白く見えるほど圧縮された熱が渦巻いていた。
あれを、ただ撃ち落とすだけでは駄目だ。
途中で爆発すれば、結局、村へ火が降る。
「中心が見える?」
ホムラがコーレリアへ尋ねた。
「目では見えない」
「じゃあ、無理?」
「私はね」
コーレリアは炎そのものではなく、周囲を流れる煙を見ている。
「外側は左へ回ってる。内側は右」
「間は?」
「投げた直後。一瞬だけ、流れがそろう」
「どれくらい?」
「瞬きより短い」
「もう少し長くして」
「隻眼のオーガに頼んで」
「聞いてくれるかな」
「右目を狙った相手のお願いを?」
「無理そう!」
ホムラが神器を引き、赤金色の弦が現れる。
だが、矢はまだ形にならない。
『カザン様』
『いる』
『重ねて』
俺は、自分が感じているものを神器の道へ流した。
外から見える炎ではない。
熱の流れ。
魔力が集まる場所。
押し込められ、互いを支え合う火の構造。
それを、ホムラの視界へ重ねていく。
『……こんなにあるの?』
『全部を見るな』
『どこ?』
『一番熱いところじゃない』
火球の中心。
無数の熱が互いを押さえ込んでいる場所。
そこだけ、ほんのわずかに周囲より熱が低い。
火球そのものを保つための芯。
『あそこだ』
『……見えた』
俺が感じる。
ホムラが見る。
その境目が、少しずつ消えていく。
火球の外側をホムラの目で見て、火球の中を俺の感覚で感じる。
そして、二つが同じ場所を指した。
『射線、通る?』
『今は駄目だ』
火球の向こうに、隻眼のオーガの拳。
さらに上へ、残された右目。
『投げた直後なら、火球と右目が重なる』
『分かった』
『でも』
俺は神器へ集まる熱を感じた。
『今の矢じゃ足りない』
『さっきみたいに止められる?』
『火の芯へ届く前に削られる』
「なら」
キイナの声がした。
サナに支えられながら、ヴァルを見ている。
「一人で射らなければいい」
「お母さん?」
「その神器は、ホムラ一人の力でできているわけじゃないでしょう」
ヴァルの金眼がホムラへ向く。
神器へ。
赤い結晶へ。
(ヴァル)
俺が呼ぶ。
(貸してくれるのか)
低く、短い唸りが返った。
そして。
ヴァルが息を吐いた。
攻撃するための炎ではない。
一本の糸のように細い火。
白く輝く中心を、赤金色の炎が包んでいる。
それが緩やかに夜を渡り、ホムラの手にある神器へ触れた。
「熱っ――」
ホムラが一瞬だけ目を閉じる。
「……熱くない?」
火は、ホムラを焼かなかった。
神器の弓へ絡みつき、赤金色の光とヴァルの白い火が混ざり合う。
その熱が神器を通じて、俺へも届いた。
(……ヴァル)
知っている。
昔から何度も感じてきた熱だ。
けれど今は、ずっと大きく、ずっと強い。
ホムラの右腕へ、薄い光の紋様が浮かぶ。
黒曜石の鱗を思わせる、小さな光の鱗。
手首から肘へ。
神器を握る腕を包んでいく。
「これは……」
ホムラが呟く。
俺には分かった。
攻撃じゃない。
ヴァルが、自分の火をホムラへ預けている。
それは。
祝福。
そう呼ぶのが、一番近かった。
神器へ、新しい矢が現れる。
中心は白。
その周囲を、赤金色の光が包んでいる。
俺の感覚。
ホムラの目。
ヴァルの火。
三つが、一本の矢へ集まっていく。
『ホムラ』
『うん』
『今なら』
『分かる』
ホムラの目に映る炎と、俺が感じる熱の道が完全に重なる。
その中心へ、ヴァルの火が一本の細い道を作った。
まるで。
三人で、同じ場所を見ている。
『……行ける』
『うん』
ホムラが、白金と赤金の矢を引き絞る。
「かしこみかしこみ。新たなる巫女の神弓に、御山の叡智と火竜の祝炎が宿り、ここに天地竜人――」
「フランさん、あと!」
「かしこみかしこみ。承知いたしました!」
(本当に止められるようになったな)
「ホムラ!」
ジンの声。
「射線を作る!」
「巫女の前、空けろ!」
ハロルドが盾を構え、飛び込んできた獣型を身体ごと押し返す。
「ガルク!」
「分かってる!」
戦斧が横から走り、獣型の前脚を斬って中央の道から外へ倒した。
「右の屋根!」
コーレリアの矢が飛ぶ。
回り込もうとした小鬼の肩を射抜く。
それでも、別の一体がホムラへ跳んだ。
「ホムラ、動かないでください」
サナが前へ出る。
治療刀の細い刃を、振り下ろされた鉤爪の内側へ滑らせる。
前脚の筋が切れ、小鬼の体勢が崩れた。
「壊れ方が分かれば、止められます」
横からハロルドの盾がぶつかり、小鬼が射線の外へ飛ぶ。
「中央、味方なし!」
クライスが叫ぶ。
「ホムラから隻眼のオーガまで、射線上の退避を確認!」
木札を見る。
前を見る。
もう一度数える。
「ハロルド!」
「いる!」
「ガルク!」
「いる!」
「コーレリア!」
「いる」
「サナ!」
「います」
「俺もいます!」
「五人、全員退避!」
ヴァルも翼を一度打ち、射線から外れた。
「火球が動く!」
コーレリアの声。
隻眼のオーガが、巨大な炎を投げた。
「外側、左!」
「見えてる!」
「内側、右!」
「分かってる!」
「重なる!」
俺の感覚が火の芯を捉える。
ホムラの目が一本の射線を見る。
ヴァルの熱が、矢の中で脈打った。
『ホムラ!』
『今!』
光の弦が離れた。
◇ ◇ ◇
音が消えた。
そう感じるほど、矢は速かった。
放たれた瞬間には、もうホムラの前にない。
夜空へ、白金と赤金の線だけが残る。
火守村へ迫る巨大な炎。
その正面へ、一本の矢が突き進んだ。
火球の外殻へ触れる。
赤い炎が矢をのみ込もうとする。
だが、白金の火が触れた炎へ食い込んだ。
ヴァルの熱。
火竜の祝福が、隻眼のオーガの魔力を焼き破る。
一層。
二層。
三層。
さっきまでホムラの矢を削っていた炎が、今度は矢の前から裂けていく。
『少し右!』
『分かってる!』
俺が火の流れを感じ、ホムラがその先を見る。
矢が、わずかに軌道を変えた。
火球の中心。
周囲よりわずかに熱の低い一本の芯。
そこへ、白金の先端が突き刺さる。
一瞬。
巨大な炎が内側へ縮んだ。
次の瞬間。
火球が左右へ裂けた。
爆発ではない。
中心を失った炎が、矢の通った道から左右へ押し分けられていく。
火守村の右。
そして左。
人のいない場所へ。
二条の炎が逸れ、森と崩れた岩壁の外側へ落ちる。
夜空が、二つの赤で染まった。
けれど。
矢は止まらない。
俺が感じている。
ホムラが見ている。
ヴァルの火が、その先へ道を作っている。
三つが、もう別々じゃない。
一本の射線。
その先に。
隻眼のオーガの、残された右目。
「当たれえええっ!」
ホムラが叫ぶ。
白金の矢が。
右目を射抜いた。
赤黒い血と白い炎が、頭の後ろへ抜ける。
隻眼のオーガの身体が仰け反った。
声にならない咆哮が、夜を揺らす。
残されていた唯一の目。
そこから、光が消えた。
(届いた)
今度こそ。
届いた。
ホムラの矢。
俺の感覚。
ヴァルの炎。
三つ重なった一撃が、隻眼のオーガから最後の視界を奪った。
「右目、命中!」
クライスの声が響く。
「隻眼のオーガ、完全に視界を失いました!」
「やった!」
歓声が上がる。
だが。
「まだ生きています!」
サナの声が、それを止めた。
「胸が動いています! まだ終わっていません!」
「全員、気を抜くな!」
ジンが叫ぶ。
「ここで倒す!」
隻眼のオーガが闇雲に金棒を振り回す。
視界を失い、大きな火魔法も失った。
それでも、その力は残っている。
金棒が地面へ落ち、岩が砕け、土が吹き上がった。
「ホムラ!」
ハロルドが前へ出る。
盾を斜めに構え、飛んできた岩片を受けた。
盾が軋む。
「今度こそ壊れる!」
「なら、壊れるまで使え!」
ガルドが叫ぶ。
「急に物を大事にしなくなったな!」
「人の方が大事だ!」
「それなら納得!」
別の岩片が盾へ当たり、ハロルドの足が滑る。
その背中をガルクが片手で支えた。
「俺の方が盾役みたいじゃないか!」
「じゃあ盾持つ?」
「斧がいい!」
「なら黙って押せ!」
隻眼のオーガが、音を頼りに金棒を振る。
コーレリアが高所から叫んだ。
「右脚を庇ってる! 次に振ったあと、右膝が下がる!」
「ガルク!」
「木より硬い方だな!」
「斬れる?」
「前にも斬った!」
ガルクが駆ける。
ハロルドが、その前へ盾を出した。
金棒が横薙ぎに迫る。
受けない。
盾の表面へ斜めに当て、軌道を上へ逸らす。
衝撃。
ハロルドの腕が跳ね、盾が手から離れた。
それでも。
金棒は、ガルクの頭上を越えた。
「今だ!」
ガルクの戦斧が、隻眼のオーガの右膝裏へ振り抜かれる。
かつて自分がつけた傷。
焼いて塞がれ。
何度も開き。
ホムラの矢にも貫かれた場所。
そこへ、重い刃が食い込んだ。
今度は途中で止まらない。
筋を断つ。
右脚から力が抜けた。
隻眼のオーガが膝をつく。
「ヴァル!」
ホムラが叫んだ。
火竜が地面を蹴る。
隻眼のオーガより一回り大きな身体が、正面からぶつかった。
肩と肩。
胸と胸。
二つの巨体が衝突する。
だが、力は拮抗しない。
ヴァルが押す。
一歩。
隻眼のオーガの足が地面を削る。
さらに一歩。
火守村から離れる方向へ。
「村から離してる……」
ホムラが呟く。
『覚えてるんだ』
『二十年前のこと?』
『ここを守っていたことを』
隻眼のオーガが金棒を持ち上げようとする。
「左腕!」
コーレリアの矢が飛び、肘の内側へ刺さった。
傷をつけるほどではない。
けれど、持ち上げる動きが一瞬だけ遅れる。
「鎖!」
クライスが叫ぶ。
「切れた鎖の一本が、北側に残っています!」
「使え!」
レンとバルクが鎖をつかみ、周囲の者も続いた。
地面へ落ちた鎖を引き、金棒へ絡ませる。
「引け!」
人間たちが一斉に引いた。
力では隻眼のオーガに勝てない。
けれど、角度をずらすことはできる。
金棒の先が地面へ落ちた。
(そこだ)
俺は、残っていた力を集める。
大きな壁は作れない。
地面を割ることもできない。
それでも、この程度なら。
地面から、小さな岩杭を一本。
金棒の先へ噛ませた。
隻眼のオーガが引く。
岩杭が砕ける。
けれど、その一瞬で。
ヴァルの牙が、隻眼のオーガの肩へ食い込んだ。
黒い前脚が胸を押す。
巨体が倒れた。
陥没地の北側。
火守村から離れた場所へ。
ヴァルが、その上へ乗る。
隻眼のオーガの拳がヴァルの頬へ当たり、黒い鱗が数枚砕けた。
それでも、火竜は退かない。
前脚で両肩を押さえ、首を持ち上げる。
大きく、口を開いた。
牙の奥へ赤金色の熱が集まり、その中心が白く輝く。
「全員、伏せろ!」
レンの声。
次の瞬間。
火竜の息吹が放たれた。
逃げ場のない距離。
隻眼のオーガの胸へ、真正面から炎が叩き込まれる。
分厚い皮膚が焼ける。
肉が裂ける。
胸の奥へ。
さらに深く。
白い熱が食い込んでいく。
隻眼のオーガの身体が、一度だけ大きく跳ねた。
拳がヴァルの肩を打つ。
もう一度。
弱く。
そして。
三度目は来なかった。
俺には分かった。
胸の奥で、ずっと消えなかった熱。
心臓の鼓動。
それが一つ乱れた。
そして。
次が来ない。
魔物たちをつないでいた濁った魔力の道も、同時に途切れた。
(……終わった)
ヴァルが炎を止める。
隻眼のオーガの胸は深く焼き抜かれ、身体はもう動かない。
右目を射抜いた火も、胸を焼いたヴァルの炎も、もう新しい魔力を引き出してはいなかった。
完全に。
死んでいる。
◇ ◇ ◇
北の魔物たちが、同時に動きを止めた。
獣型が隣の小鬼を見る。
小鬼が猪に似た魔物から距離を取る。
命令が消えた。
互いに争わず、一つの群れとして動いていた魔物たちへ、元の本能が戻ってくる。
一体が森へ逃げる。
別の一体も続いた。
やがて群れそのものが崩れ、北へ、西へ、東へと、ばらばらに逃げていく。
「追うな!」
ジンが叫んだ。
「負傷者を増やすな! 門と避難民を守れ!」
剣を持つ者たちが足を止め、弓手も矢を下ろした。
森へ遠ざかる足音へ、クライスが耳を澄ませる。
「北側、接近音なし!」
「村の中は!」
「灰色の魔物、六体すべて拘束中! 新たな侵入なし!」
「味方は!」
クライスが木札を見る。
一枚。
また一枚。
指で触れていく。
「第一列、十九人! 弓手、十一人! 魔法を扱える者、五人!」
祈りの石床。
治療所。
最後の札へ指が触れた。
クライスの声が、わずかに震えた。
「全員います!」
一度、息を吸う。
そして、はっきりと言った。
「欠けている者は、いません!」
その言葉を聞いて。
ようやく、誰かが呟いた。
「……勝った?」
誰も、すぐには答えない。
隻眼のオーガの亡骸。
胸を焼き抜かれ。
最後の目も潰され。
二度と動かない巨体が、北側へ倒れている。
「勝ったぞ!」
今度は、大きな声だった。
歓声が爆発する。
剣が、槍が、弓が空へ上がる。
盾を失ったハロルドは、両手を上げた。
「盾がない!」
「今気づいたのか!」
ガルドが叫ぶ。
「勝ったあとに気づいた!」
「なら、役目は果たした!」
「新しいの作ってくれる?」
「自分で作れ!」
「急に厳しい!」
ガルクが戦斧を地面へ下ろした。
「じいちゃん!」
バルクが振り返る。
「斧はあるか!」
「俺の心配は!」
「動いてるなら大丈夫だ!」
「家族の言葉が少ない!」
「斧と一緒に戻れと言っただろう!」
「戻った!」
「なら、よし!」
(分かりにくいけど、ちゃんと心配してたんだな)
コーレリアが高所から下りてきて、ホムラの前で止まった。
頬についた煤を見る。
「右目に当たったね」
「見てた?」
「目だから」
「褒めてくれる?」
「一射分」
「一射だけ?」
コーレリアが、ほんの少し笑った。
「でも、今までで一番大きな一射」
「それならいいかな」
サナが神器を持つホムラの腕をつかんだ。
「良くありません」
「何が?」
「腕です」
ヴァルの祝福で浮かんでいた鱗の光は、もう消えている。
だが、右腕は赤く、指先が小さく震えていた。
「動かせますか」
「少しなら」
「弓は?」
「もう引けないかも」
「では、休んでください」
「勝ったあとなら休んでいい?」
「勝つ前でも休むべきでした」
「それは難しいよ」
「難しくても覚えてください」
サナがホムラの腕へ布を巻きながら言う。
「巫女が倒れたら、親衛隊が困ります」
ホムラが瞬きをした。
「親衛隊?」
サナの手が止まる。
「……今のは言葉の綾です」
「もう一回言って」
「言いません」
「サナが親衛隊って言った!」
「言っていません」
「今言ったよ!」
ハロルドとガルクが近づいてくる。
「親衛隊?」
「俺たちも入ってるのか?」
「入っていません」
サナが即答した。
コーレリアが首を傾げる。
「でも、やっていることは近い」
「コーレリアまで!」
「私は事実を言っただけ」
クライスも木札を抱えてやってくる。
「正式な役職なら、記録します」
「記録しなくていいです!」
「でも、五人いるよ」
ホムラが指を折る。
「ハロルド。ガルク。コーレリア。クライス。サナ」
「数は合っています」
クライスが頷く。
「そこへ満足しないでください!」
サナの声に、笑いが広がった。
戦いが始まってから。
一番大きな笑いだった。
◇ ◇ ◇
ヴァルが隻眼のオーガの亡骸から前脚を下ろし、黒い翼を畳んだ。
鼻先を焼けた胸元へ近づける。
生きていないことを、自分でも確かめているらしい。
やがて太い尾を亡骸の脇へ回し、少しずつ火守村から離れる方角へ押し始めた。
「運ぶの?」
ホムラが尋ねる。
『村の中へ置いておきたくないんだろう』
「埋める?」
『あれだけ大きいと、穴を掘るのも大変だな』
「燃やす?」
『ヴァルの火なら焼けるだろうけど、今すぐやる必要はない』
ジンが亡骸を見る。
「北側へ置きましょう」
「残すのか」
レンが尋ねる。
「当分は」
「魔物が寄ってくるかもしれんぞ」
「見張りは置きます。ただ――」
ジンが焼けた見張り台を見る。
落とした橋。
水へ沈めた畑。
巨大な穴になった石材置き場。
そして、隻眼のオーガの亡骸。
「今日、俺たちが何と戦ったのか。どうして村のままではなく、一つの国になると決めたのか」
もう一度、亡骸を見る。
「忘れないための印にはなります」
ダンが、ゆっくりと頷いた。
「勝った印ではないぞ」
「はい」
「守り続けなければならん理由の印だ」
「そのつもりです」
ヴァルは亡骸を陥没地の北側へ押し出した。
火守村からは見える。
だが、門や道を塞がない場所。
そこへ横たえる。
それから、金色の目が祈りの石床へ向いた。
人々が静かになる。
ヴァルが一歩進む。
地面が揺れた。
もう一歩。
オーガより一回り大きな身体が、ゆっくり近づいてくる。
「味方……なんだよな?」
避難民の一人が呟く。
「たぶん」
ホムラが答える。
「たぶん?」
「二十年前は、もう少し小さかったから」
「どのくらい?」
「犬くらい」
「どんな育ち方をしたんだ!」
(ほとんど寝てたんだけどな)
ヴァルが祈りの石床の前で立ち止まる。
まずホムラを見た。
次に、サナに支えられているキイナへ顔を向ける。
キイナが、ゆっくりと片手を上げた。
「おかえり、ヴァル」
ヴァルが鼻先を近づけ、その手へ温かい息を落とした。
炎ではない。
ただ、赤い線の残る腕を包むような熱だった。
キイナが目を細める。
「大きくなったね」
ヴァルの喉が低く鳴った。
「かしこみかしこみ。二十年の時を越え、御山の黒き御子と巫女の再会成り、ここに神代より続く――」
(フラン)
「かしこみかしこみ。おかえりなさいませ」
(うん。それでいい)
ヴァルが顔を上げる。
祈りの石床の中央には、まだ何も書かれていない木札がある。
水門の鍵。
種袋。
石工の鑿。
警鐘の槌。
それぞれの暮らしを表すものに囲まれた、名のない国の木札。
ヴァルは、その空白の札を見た。
続いて、ジンを見る。
「……俺に決めろと?」
ヴァルは答えない。
「王にはなりませんよ」
金色の目が細くなる。
「そこは譲りません」
ホムラが笑った。
「でも、名前なら決められるでしょう?」
「簡単に言うな」
「空白だと、クライスが困るよ」
「一晩なら我慢できます」
「もう夜が明けるよ」
クライスが空白の木札を見る。
「……それは確かに困ります」
「困るんだな」
ジンが木札へ手を伸ばした。
まだ、文字は書かない。
代わりにヴァルを見る。
俺の山を見る。
そこへ集まった人々を見る。
水路集落。
畑集落。
石切り集落。
火守村。
昨日までは、違う場所で、違う暮らしをしていた者たち。
今は同じ土地に立ち、同じ朝を迎えようとしている。
ヴァルが翼を開いた。
黒曜石のような翼へ、東から朝の光が差し込む。
長かった夜が終わる。
東の空が、白み始めていた。
一度。
翼が打ち下ろされる。
風が火守村を。
祈りの石床を。
名のない木札を撫でていく。
ヴァルの巨体が地面を離れた。
黒い翼が、新しい朝の空へ広がる。
歓声が上がった。
今度は、誰も押し殺さなかった。
名もない国の空に、初めて火竜の翼が広がった。
ジンが、その姿を見上げる。
「この国の名は……」
「火竜王国」
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