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【火山転生】目覚めたら火山そのものだった〜マグマの力で最強の聖地を作ったら、麓に国ができていました〜  作者: 尾の長い虎(てぃが)
第一章:建国編

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46.祭りの火も絶やさない

 誰も、すぐには動かなかった。


 洞窟の入口に張られた縄だけが風に揺れ、岩肌をかすかに擦っている。


 スワイスの警告が正しくても、約束を破った事実は消えない。


 けれど、その警告を聞かなかったことにもできなかった。


「もう一つ、確かめていいか」


 村長が口を開くより先に、スワイスが言った。


「何だ」


「俺と一緒に入った者がいないと、誰か確かめたか?」


 村長の手にある長槍が、わずかに持ち上がる。


「仲間がいるのか」


「いない。今回は一人だ」


「なら、何を――」


「俺に仲間がいたなら、どうなっていた?」


 スワイスの視線が、洞窟から広場へ向けられる。


「俺が見つかり、火山様の巫女が声を上げた。戦える者は揃ってここへ来た。その間、広場と荷車を誰が見ていた?」


 俺の意識が、洞窟の前から広場へ戻る。


 祭りの料理が並び、ネスたちが運んできた荷車が置かれている。家々にも、食料や道具が残されていた。


 俺まで、スワイス一人に意識を引きつけられていた。


(コロ、広場と荷車の周りを見てくれ)


 祭壇の近くに残っていたコロが、ぴょんと飛び上がる。


「ぷる!」


 赤橙色の身体が地面を跳ね、荷車へ向かっていった。


 俺自身も、火守村の地面へ意識を広げる。歩く足の重さ、土を踏む速さ、家々の中にある熱を一つずつ確かめていく。


 荷車の下。


 積み荷の陰。


 広場から離れた家の裏。


 動かずに息を殺しているような、不自然な熱はない。隊商の者たちの足取りも、昨日から覚えているものと一致していた。


『仲間、いない』


 神託を受け取ったヒナノが、すぐに顔を上げる。


「火山様が、スワイスさんのほかに潜んでいる者はいないと仰っています」


 村人たちの間から、安堵の息が漏れた。


 だが、スワイスの表情は変わらない。


「今回は一人だった。だが、二人なら、一人が騒ぎを起こしている間に、もう一人が好きに動ける」


 村長が周囲を見回す。


「ここに全員で残る必要はない。戦える者の半分は広場へ戻れ。荷車と家々も見て回るんだ」


 レンの父親が数人へ声をかける。足音が二手に分かれ、広場と家々へ戻っていった。


 守るべきものは、もう洞窟だけではない。


 村が豊かになるほど、狙われるものも増えていく。それなのに俺たちは、危険が一つ起きれば、全員でそこへ集まる癖が抜けていなかった。


「ほかにもあるのか」


 村長の問いに、スワイスが頷く。


「まず、洞窟の入口に見張りがいない。次に、異変が起きた時、誰がどこを守るのか決まっていない」


 スワイスが、村長の持つ長槍へ目を向ける。


「客人がどんな武器を持ち、どこへ行くかも管理されていない。俺が祭りの途中で消えても、火山様が知らせるまで、誰も気づかなかった」


「契約書には、立ち入りを禁じると書いてありました」


 ネスの冷たい声が飛ぶ。


「読んだ。だから、俺が悪い」


「ずいぶん簡単に言いますね」


「長く言っても、破った約束は元に戻らない」


 ネスは何も答えなかった。


 スワイスは村の中へ視線を移す。


「洞窟、荷車、食料、家、子供。全部を同じ場所へ集めて守ることはできない。異変が起きる前に、誰が何を守るのか決めておく必要がある」


「それで全部か」


「いや、もう一つある」


 スワイスの顔が、ヒナノへ向く。


 その瞬間、レンが反射的に前へ出た。ヒナノを背中へ隠すように立ち、スワイスを睨みつける。


「鉱石だけが、この村の価値じゃない」


 スワイスは、レンではなくヒナノを見ていた。


「火山様の言葉を聞ける巫女。その価値に気づく人間もいる」


 地中深くで、マグマが大きく波打った。


 洞窟の周囲にある岩の温度が上がり、ヴァルの喉元へ赤い光が集まる。


(ヴァル、まだだ)


 赤い光は消えなかったが、それ以上強くなることもなかった。


 スワイスが山を見上げる。


「怒らせるために言ったんじゃない。だが、いつか誰かに狙われてからでは遅い」


 レンが、さらに一歩前へ出る。


「ヒナノには、俺がいる」


「今の動きは悪くなかった」


「褒められても、嬉しくない」


「なら、忘れないだろう」


 スワイスが淡々と答える。


「だが、お前一人なら、別の場所で騒ぎを起こせば引き離せる。守る者は、一人では足りない」


 レンが言葉に詰まる。


「聞いておけ」


 広場へ戻る者たちを送り出したレンの父親が、息子へ告げた。


「腹が立っても、役に立つ話まで捨てるな」


「……分かった」


 レンは悔しそうに答えたが、ヒナノの前から退かなかった。


 スワイスは、そんな二人から村長へ視線を戻す。


「俺が見つけたのは、今のところそれだけだ」


「今のところ、か」


「ああ。だが、穴があったことと、俺が約束を破っていいことは別だ」


 村長の眉間に、深い皺が寄る。


「村の役に立つ話をすれば、許されるとでも思っているのか」


「思っていない」


「なら、どう責任を取る」


「それを決めるのは、俺じゃない」


 スワイスは逃げずに村長を見返した。


 ネスが一歩前へ出る。


「私との護衛契約については、すでに結論が出ています。報酬は契約書の条項に従って減額し、護衛契約は解除します」


「承知している」


「村で何を命じられようと、その決定は変わりません」


「ああ」


 ネスにとって、スワイスは腕の立つ護衛だった。


 同時に、契約を違えないという信用まで含めて雇った相手でもある。


 その信用を破った責任は、村で働いたからといって消えるものではない。


 村長が槍を地面へつく。


「警告が正しかろうと、破った約束は消えん。お前をどうするか、今ここで皆の意見を聞く」


「なら、一つ申し出がある」


 スワイスが言った。


「三十日、俺をこの村で働かせてくれ」


 周囲がざわめく。


「俺が見つけた穴は、俺の手で塞ぐ。門と見張り所を作るだけなら、数日で足りる。だが、見張りの交代、異変が起きた時の役割、客人を受け入れる決まりまで村に根づかせるなら、三十日は必要だ」


「無報酬で働けば、それで済むと思っているのか」


 村長が問い詰める。


「済むとは言っていない」


 スワイスは首を横へ振る。


「三十日後、まだ追い出すべきだと思うなら従う。俺が申し出られるのは、それだけだ」


 村長は、すぐには答えなかった。


「皆は、どう思う」


 それから短いながらも、村人たちの間で意見が交わされた。


 信用できないという声。


 それでも、見つかった穴は塞がなければならないという声。


 武器を持たせるな。勝手に洞窟へ近づけるな。一人で行動させるな。


 怒りを隠さない声もあった。それでも、村の者が監視しながら働かせるというところへ、少しずつ意見がまとまっていく。


 村長が再び槍を握る。


「三十日間、食事と寝床以外の報酬は出さん。武器はすべて村で預かる。訓練で武器を使う時も、必ず許可を得ろ」


「分かった」


「洞窟へは、誰かが同行していようと、わしの許可なしには入るな」


「ああ」


「三十日働いたからといって、失った信用が元に戻るとは思うな」


「承知した」


 村長がヒナノを見る。


「火山様は、何と仰っておられる」


 ヒナノが両手を胸の前で組み、山へ顔を向けた。


 俺は、スワイスの姿を意識する。


 祭りを利用されたことへの怒りは、まだ残っている。


 それでも、スワイスは何も盗まず、誰も傷つけず、見つかった時には武器を置いた。逃げることも、警告の正しさを盾にすることもせず、自分から責任を負おうとしている。


 ならば、今すぐ許すのではなく、これからの行いを見る。


 俺は、言葉を短く削った。


『行いで示せ』


 ヒナノの瞼が開く。


「火山様より、スワイスさんへお言葉です」


 全員の視線が、ヒナノへ集まる。


「『行いで示せ』と」


 スワイスが、初めて深く山へ頭を下げた。


「承知した。三十日後、もう一度判断してほしい」


「判断するのは、火山様だけではない」


 村長が言う。


「この村も、お前の行いを見る」


 スワイスは頭を上げた。


「ああ。両方に示す」


「ならば、最初の仕事だ」


 村長が洞窟の入口を指す。


「祭りが終わるまで、ここで見張りをしろ。武器は持たせん。こちらからも一人つける」


 レンの父親が無言で前へ出た。


 スワイスが、風に揺れる縄を見る。


「今度は、縄の外側でな」


「分かった。今度はくぐらない」


 あまりにも真面目な顔で答えたせいか、村人の間から小さな笑いが漏れた。


 村長が睨むと、すぐに消えたが、張り詰めていた空気はほんの少しだけ緩んでいた。


     ◇


 裁定が終わり、村人たちは広場へ戻った。


 だが、祭りは止まったままだ。


 冷めかけた料理が並び、消えそうになった焚き火から細い煙が上がっている。子供たちも大人の顔を窺い、黙って座っていた。


 ぐうう。


 静かな広場に、大きな音が響く。


 村人たちが一斉に振り返ると、一人の子供が腹を押さえて俯いた。


 その時、鼓を担いだガンゾウが前へ出る。


「どうやら、止められん鼓が一つ残っておるようじゃな」


 子供の顔が真っ赤になり、周囲から今度こそ笑い声が上がった。


 ガンゾウが本物の鼓を構える。


「話は終わったんじゃろう?」


「終わったが……」


 村長が洞窟の方を振り返る。


「こんなことがあった直後に、祭りを続けるのか」


「こんなことがあったからじゃ」


 ガンゾウは迷わず答えた。


「火山様が侵入者を見つけてくださった。誰も怪我をせず、何も盗まれずに済んだ。それで感謝するのをやめて、どうする」


 村長も頷く。


「今日の過ちを忘れてはならん。だが、過ちがあったからといって、感謝までなかったことにする必要はない」


 ガンゾウが腕を振り下ろす。


 どん。


 止まっていた鼓の音が、再び火守村へ響いた。


 すぐに続く音はない。


 ガンゾウがもう一度叩く。


 どん。


 腹を鳴らした子供が、おそるおそる手を叩いた。


 一度。


 二度。


 隣の子供も加わり、やがて大人たちの手拍子が重なっていく。


 消えかけていた焚き火へ薪が足され、冷めた鍋が温め直された。串焼きから脂の弾ける音がして、香ばしい匂いが広場へ戻ってくる。


 そこへ、コロが戻ってきた。


 荷車の下まで調べたらしく、赤橙色の身体には枯れ草が一本くっついている。


(コロ、何もなかったか?)


「ぷる!」


 元気な返事とともに、身体が縦に伸びる。


 その先は俺ではなく、温め直された料理へ向いていた。


(……そっちの報告じゃないぞ)


「ぷるる!」


 コロは今度こそ、料理を載せた皿へ向かって跳ね始める。


 村人たちから姿を隠したまま、フランがその前へ回り込み、両腕を広げた。


「始原の眷属たるコロ様が、祭りの再開をお認めになられました!」


 大仰な宣言が聞こえているのは、俺と眷属たちだけだ。


(いや、たぶん腹が減っただけだ)


 フランを包む炎が、一瞬だけ小さくなる。


「かしこみかしこみ。食事とは、大地より授かりし命を受け入れ、明日を生きる力へ変える神聖なる――」


(つまり?)


「コロ様が、たいへんお腹を空かせておられます」


(最初からそう言ってくれ)


 近くにいた子供が、焼いた芋を一つ差し出した。


 コロは嬉しそうに飛びつくと、身体の中へ芋を抱え込む。


「ぷるぅ」


「ご覧ください。コロ様も大変お喜びです!」


(それは合ってる)


 祭りの音を聞きながらも、ヴァルは洞窟の前から動こうとしなかった。


 スワイスとレンの父親を交互に見張り、黒曜の尾を岩の上へ伸ばしている。自分が最初に侵入者を追った以上、最後まで見届けるつもりらしい。


(ヴァル、そこは任せていい。祭りへ戻ってくれ)


 ヴァルの金色の目が、洞窟と広場の間を往復する。


 まだ心配だという感情が、眷属の繋がりを通して伝わってきた。


(皆のところへ戻るまでが仕事だ。これは命令)


 ようやくヴァルが立ち上がる。


 洞窟の前にいる二人をもう一度だけ振り返ると、広場へ向かって駆け出した。


 その姿を見つけたコロが、焼き芋を抱えたまま跳び上がる。


「ぷる!」


 狙いどおり、ヴァルの頭へ着地した。


 その拍子に、半分だけ残っていた焼き芋がヴァルの鼻先へ転がる。


 ヴァルが驚いて息を吐いた。


 ぼっ。


 小さな炎が芋の表面を炙り、焦げ目がつく。


「おおっ!」


 子供たちから歓声が上がった。


 コロが焦げた芋を身体へ取り込み、さっきよりも激しく跳ね始める。


「ぷる! ぷる!」


「さすがは偉大なる守護竜ヴァル様!」


 姿の見えないフランが、両手を広げる。


「冷めかけた神饌へ、再び命の炎をお与えになりました!」


 ヴァルが、ものすごく嫌そうな顔でフランを見る。


(偶然だよな)


 ヴァルの首が、何度も縦に動いた。


 それを見たガンゾウが、冷めた串焼きを一本掲げる。


「こっちもお願いできるかのう?」


 ヴァルの翼が固まった。


(ヴァル、逃げていいぞ)


 許可を出すと、ヴァルはコロを頭に載せたまま祭壇の裏へ逃げ込んだ。


 広場に、久しぶりの大きな笑い声が広がった。


 完全に元どおりではない。


 洞窟の前には見張りが立ち、荷車の周囲にも村人が残っている。ヒナノのそばにも、レンだけでなく、戦える大人が交代でつくことになった。


 それでも、鼓は鳴り続けた。


 笑い声と足音が地面を伝い、俺の身体の中へ戻ってくる。


     ◇


 祭りの途中、村長が料理を盛った深い器を持ち、洞窟へ向かった。


 スワイスは縄の前に立ち、広場と洞窟の入口を交互に見張っている。隣には、武器を持ったレンの父親がいた。


「食え」


 村長が器を差し出す。


 スワイスが、少しだけ目を見開いた。


「祭りへ戻らなくていいのか」


「戻る。だが、お前と洞窟を二人きりにするほど、こっちは物覚えが悪くない」


「それもそうだ」


 スワイスは器を受け取る。


 肉と野菜が山のように盛られ、今にもこぼれそうになっていた。


「ずいぶん多いな」


「三十日働くんだろう。最初の日に腹を空かせて倒れられたら迷惑だ」


「まだ、ほとんど何もしていないが」


「立って見張れと言われたはずだ」


「食べながらか?」


「お前ならできるだろう」


 村長は不機嫌そうに言い捨てる。


「勘違いするな。許したわけじゃない」


「ああ」


「食事と寝床は与える。それが村で決めたことだ」


「分かっている」


「それから、残すな。食べ物に罪はない」


 スワイスが、器の中に積まれた料理を見下ろす。


「この量を残さず食うのも、奉仕に入るのか?」


「それくらい自分で判断しろ」


 村長が背を向ける。


 その肩が、ほんの少しだけ揺れていた。


 許したわけではない。


 それでも、腹を空かせたまま立たせるつもりもない。


 破った約束への責任と、人としてどう扱うかを、村人たちは分けて考えようとしていた。


 それはきっと、俺が地面を隆起させるよりも難しいことだった。


     ◇


 太陽が山の向こうへ傾き始めると、火神祭は最後の祈りを迎えた。


 村人たちが祭壇の前へ並ぶ。


 ただし、全員ではない。


 洞窟や荷車の見張りを任された者は、それぞれの場所に残っている。祭壇まで来られない者も、祈りの時刻だけは山へ向かって頭を下げることになった。


 祭壇には、畑で採れた作物が置かれていた。


 温泉の湯を満たした器。


 洞窟で得た火トカゲの鱗と魔石。


 どれも、この山と村人たちが力を合わせて得たものだ。


 俺はヴァルの目を借り、祭壇の前へ進むヒナノを見つめる。


 その少し後ろには、レンが立っていた。


 ただ隣に並ぶのではなく、周囲を見渡せる位置を選んでいる。さっきのスワイスの言葉を、もう行動に変えようとしていた。


 ヒナノが祭壇の前で膝をつく。


「火山様」


 広場から、最後の話し声が消えた。


「今日まで、私たちをお守りくださり、ありがとうございます」


 ヒナノの声が、静かに山へ届く。


「この山からいただいた恵みも、助けていただいた命も、決して当たり前だとは思いません」


 祭壇の脇で、フランが両手を持ち上げた。


 その姿は、村人たちには見えていない。


 だが、フランが生み出した炎だけは別だ。


 小さな炎が幾重にも枝分かれし、背後で大輪の赤い花となって咲く。


 広場のあちこちから、息を呑む音が聞こえた。


「私たちはこれから、守っていただくだけではなく、自分たちの手でも、この村と、この火を守ってまいります」


 ヒナノが深く頭を下げる。


 フランも炎の花を揺らしながら、俺へ向かって一礼した。


「かしこみかしこみ、カザン様。麓に生きる者たちの感謝と誓い、どうかお受け取りくださいませ」


 村人たちが、一斉に頭を下げた。


 荷車を見張る者も。


 祭壇から離れた家の前にいる者も。


 洞窟の前に立つスワイスも、山へ深く頭を下げている。


 火守村で生きる人々の祈りが、地面を通して流れ込んでくる。


 熱い。


 けれど、マグマのように焼き尽くす熱ではない。


 朝日を浴びた岩のような、穏やかな温かさだった。


《信仰値:増加》


《信仰感応:安定》


 俺は、この村を守りたいと思ってきた。


 だが、守っていたのは俺だけではない。


 村人たちは自分で家を建て、食料を蓄え、武器を取り、仲間を助けてきた。今日も、祭りを途中で終わらせるのではなく、自分たちの手で再び始めた。


 俺のほうこそ、何度も助けられている。


 だから、俺はヒナノへ言葉を送った。


『受け取った。ありがとう』


 ヒナノが顔を上げる。


 驚きに見開かれた目が、すぐに細められた。


「火山様から、お言葉です」


 村人たちが顔を上げる。


「『受け取った。ありがとう』と、仰っています」


 一瞬の静寂。


 次の瞬間、大きな歓声が火守村へ響いた。


 ガンゾウが、力いっぱい鼓を叩く。


 どん。


 どん。


 どん。


 コロも皆の真似をして頭を下げようとした。


 だが、ヴァルの頭の上で勢いよく身体を傾けすぎ、そのまま前へ転がり落ちる。


 ヴァルが慌てて翼を広げ、地面へ落ちる直前で受け止めた。


「おお! 始原の眷属たるコロ様が、全身全霊の感謝を――」


(落ちただけだ)


「かしこみかしこみ、そのようにも見受けられます」


 フランは素直に認めた。


 その間にも、ヴァルの翼の上でぷるぷる震えるコロを見て、子供たちの笑い声が広がっていく。


 ヴァルは呆れたように息を吐きながら、コロを頭の上へ戻した。


     ◇


 夜が深まり、最後の料理が片づけられた。


 鼓の音が止まり、眠くなった子供たちが家へ運ばれていく。大人たちは焚き火へ水をかけ、一つずつ祭りの火を消していった。


 最後に残った祭壇の火だけは、ヒナノが小さな灯皿へ移した。


 明日の朝も、その火を前に祈るためだ。


 祭りが終わっても、火を絶やさないために。


 洞窟の前では、スワイスが空になった器を脇へ置き、見張りを続けている。


 そのそばには村人が一人残り、少し離れた広場では、次の見張りを務める者が準備を始めていた。


 今日の祭りは、途中で止まった。


 怒りも、不安も持ち込まれた。


 それでも、誰も怪我をせず、何も失わず、祭りは再び始まった。


 守られるだけだった村は今日、自分たちの手でも火を守ると誓った。


(村の備えだけじゃない。俺も、異変をもっと早く拾い、皆へ伝えられる仕組みを作らないとな)


 祭壇に残された小さな火が、夜の中で静かに揺れている。


 そうして、火守村で初めての火神祭は終わった。


 祭りは終わっても、その火は絶えなかった。

読んでいただきありがとうございます。


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