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【火山転生】目覚めたら火山そのものだった〜マグマの力で最強の聖地を作ったら、麓に国ができていました〜  作者: 尾の長い虎(てぃが)
第一章:建国編

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45.謎の侵入者

 かつ。


 長槍の石突が、浅層ダンジョンの床を叩く。


 一歩、また一歩。


 スワイスは足を止めることなく、俺の身体の奥へ進んでいた。


(止めるだけなら、簡単だ)


 前後の岩盤を一気にせり上げれば、逃げ道を塞げる。足元を崩し、動けなくすることもできる。


 だが、狭い通路で人間を岩に挟むやり方は、少しのずれが命取りになる。逃げ場を失ったスワイスが槍を振るえば、火トカゲや、あとから追ってくる村人が傷つくかもしれない。


 何かを盗んだわけでも、誰かを傷つけたわけでもない。目的が分からないまま力ずくで押さえ込むには、危険すぎた。


 だからといって、このまま好きに歩かせるつもりもない。


(ヴァル、洞窟へ向かってくれ。スワイスが中に入った)


 祭壇の脇にいたヴァルが、弾かれたように顔を上げる。


 同時に、俺は意識の一部をヒナノへ集中させた。今、届けられる限界まで言葉を短く削る。


『洞窟。スワイス。止めて』


 神託を受け取ったヒナノの肩が、大きく揺れた。


「ダンさん! スワイスさんが、洞窟の中に!」


 その声と同時に、ヴァルが広場から駆け出す。


 祭りの鼓が止まった。


 少し遅れて、何人もの足音が洞窟へ向かい始める。


 だが、スワイスは止まらない。


 村人たちが到着するより先に、浅層ダンジョンの最初の空間へ入った。


 壁際の岩陰から、小さな熱が這い出す。


 火トカゲだ。


 侵入者の熱に反応し、低く身を伏せる。細かな爪が岩床を蹴り、スワイスへ向かって走り出した。


 長槍が動く。


(まずい!)


 俺が火トカゲを退かせようとした時には、すでに硬い柄が床を擦っていた。


 直後、火トカゲの小さな熱が横へ弾かれ、何度か床を転がる。


 だが、すぐに起き上がった。


 再び威嚇の声を上げている。熱も動きも弱まっていない。怪我をした様子はなかった。


 追撃の振動はない。


 スワイスは火トカゲと距離を取り、その脇を通り抜けると、再び奥へ歩き始めた。


(倒すつもりもないのか?)


 しばらく進んだ先には、黒銀色の鉱石がわずかに露出した壁がある。


 スワイスの足音が、そこで止まった。


 片手分の熱が壁へ触れる。指先が鉱石の表面をなぞり、小さく岩肌を擦った。


 だが、それだけだった。


 昨日見たスワイスの腰には、短剣も小さな道具袋もあった。欠片を削り取ろうと思えば、できたはずだ。


 それなのに、壁から何一つ剥がれ落ちない。


 スワイスは何も持ち去らず、再び歩き始めた。


(鉱石が目的じゃない?)


 火トカゲも殺さない。


 鉱石も盗まない。


 それなら、こいつは何を探している。


 かつ。


 石突が床を叩く。


 三歩進む。


 また、かつ、と鳴る。


 最初は一定だったその間隔が、分かれ道へ差しかかるたびに変わっていた。


 床を叩き、壁を叩き、天井を確かめる。時折立ち止まっては、身体の向きを来た道へ戻している。


 ただ奥へ進んでいるのではない。


 通路の形と、退路を調べている。


 やがてスワイスは、浅層の先を閉ざすために作った厚い岩壁へ辿り着いた。


 その奥には、まだ村人へ開放していない空間がある。


 スワイスが壁を叩く。


 かつ。


 少し場所を変え、もう一度。


 かつ。


 今度は高さを変える。


 かつ。


 岩盤を伝わった音が、壁の奥にある空間へ響いた。


 スワイスの身体が、わずかに前へ傾く。


 気づいた。


 この壁の向こうが、ただの岩ではないと。


 だが、それ以上、槍は動かなかった。


 腰の短剣にも、道具袋にも手を伸ばさない。


(そこまでだ)


 俺は岩壁の表面へ熱を走らせた。


 スワイスの目の前に、細い赤い線が浮かび上がる。


 一本だった光が枝分かれし、岩壁を覆うように広がった。足元の温度も、ゆっくりと上げていく。


 周囲の岩陰から、火トカゲたちが次々と姿を現す。


 一匹。


 二匹。


 三匹。


 前方を赤い光と火トカゲに塞がれ、スワイスが後ろを振り返る。


 そこへ、ヴァルが到着した。


 俺はその目を借り、ようやく洞窟の中を捉える。


 腰から下げた小さな灯りに、スワイスの横顔が照らされていた。


 驚いてはいない。


 長槍を両手で握り、重心を低く落としている。穂先が、ゆっくりとヴァルへ向けられた。


 ヴァルの喉元へ、赤い光が集まり始める。


(待て、ヴァル)


 スワイスの右足が、半歩下がった。


 槍が大きく動く。


 一瞬、突き出すのかと思った。


 だが、スワイスは長槍を回転させると、穂先を床へ向けた。そのまま両手を離し、岩の上へ横たえる。


 続けて腰の短剣も外し、長槍の隣へ置いた。


「……見つかったか、火山様」


 小さく息を吐き、両手を上げる。


「俺の負けだ」


     ◇


 ヴァルに見張られながら、両手を上げたスワイスが洞窟の外へ出てくる。


 少し遅れて、長槍と短剣を回収したレンの父親が続いた。


 入口では、ネス、村長のダン、ヒナノ、レンたちが待っていた。


 少し前まで聞こえていた笑い声は消えている。


 広場から漂う料理の匂いだけが、祭りの途中だったことを伝えていた。


 レンの父親から、村長へ長槍が手渡される。


 誰も言葉を発しない。


 最初に口を開いたのは、ネスだった。


「説明してください」


 怒鳴ってはいなかった。


 それでも、これまでに聞いたどの声よりも冷たい。


「あなたは、何をしていたのですか」


「この村の警備を確かめていた」


 スワイスの答えに、村長の手が長槍を強く握り締めた。


「警備だと?」


「許可のない人間が、どこまで入れるのか。どこで止められるのかを確かめた」


「そのために、わざと約束を破ったのか!」


「ああ」


 村長が一歩前へ出る。


 レンの父親が、その肩を掴んで止めた。


 スワイスは抵抗する様子もなく、ネスだけを見ていた。


「この村には、近いうちに外の人間が集まる」


「なぜ、あなたにそのようなことが分かるのです」


「お前は半年を費やし、荷車二台分の品を運んできた。商人が、何もない村へそこまでの金と時間を使うはずがない」


 ネスの表情が、わずかに強張る。


「村には管理された洞窟があり、その中には見たことのない鉱石まである。帰りの荷車には、この村で得た何かが積まれるんだろう」


「それが、無断で山へ入った理由になると思っているのですか」


「思っていない」


 スワイスは即座に答えた。


「だが、商売が続けば道ができる。道ができれば、商人だけではなく、冒険者も、盗賊も来る。この村の価値が外へ知られるのは、時間の問題だ」


 スワイスが、洞窟の入口へ視線を向ける。


「その入口に、人の見張りはいなかった。あったのは、縄一本だけだ」


 誰も反論できなかった。


 祭りの間、村人たちは全員広場に集まっていた。


 洞窟を見張る者はいなかった。


 縄を持ち上げさえすれば、誰でも中へ入れた。


「だから、最も見つかりにくい時を選んだのですか」


「ああ。鼓の音に足音を紛れさせ、どこまで進めるか確かめた」


「なぜ、先に言わなかったのです」


「知らせてから入ったのでは、試す意味がない」


「違います」


 ネスの声が、初めて大きくなった。


「試すこと自体は、私と村長に相談できたはずです。いつ行うかだけを伏せればよかった。あなたは、試すかどうかまで一人で決めたのです」


 スワイスが黙る。


 しばらくして、その頭がわずかに下がった。


「……そのとおりだ」


「あなたは、槍の腕だけでなく、受けた依頼を違えないことで、砂漠連邦の冒険者たちにも名を知られている。だから私は、長い旅の護衛をあなたへ任せました」


「ああ」


「あなたの槍だけではありません。その信用を買ったのです」


「分かっている」


「分かっていながら、契約書で禁じたことをしたのですね」


 短い沈黙のあと、スワイスが答える。


「理由が何であれ、俺が契約を破った事実は変わらない」


 言い訳はしなかった。


 自分のしたことが正しかったとも言わない。


 ネスは目を閉じ、一度だけ深く息を吸った。


「契約書の条項どおり、報酬を減額します。そして、あなたとの護衛契約は、今ここで解除します」


「承知した」


 スワイスは静かに頭を下げた。


 そこで村長が前へ出る。


「だが、それで終わりではない」


 老いた声が、洞窟の前へ重く響く。


「ネス殿との契約は、二人の間の話だ。お前は客人として迎えられながら、この村の決まりを破った」


 村長がスワイスを見据える。


「お前をどうするかは、村で話し合って決める。それまでは武器を預け、村に残ってもらう」


「分かった。逃げるつもりはない」


 スワイスがもう一度頭を下げる。


「だが、その前に一つだけ言わせてくれ」


「何だ」


「俺は、何も盗らなかった」


 村長の眉が大きく動く。


「それを言い訳にするつもりか?」


「違う」


 スワイスは首を横へ振った。


「火トカゲも殺していない。鉱石にも手をつけなかった。壁の奥に空間があると気づいても、壊さなかった。見つかった時点で槍も置いた」


 ヴァルを通して見ていた俺には、それがすべて事実だと分かる。


「だが、次に入ってくる者も、そうするとは限らない」


 村長が黙り込む。


「俺よりうまく足音を消す者もいる。見つかれば魔物を殺し、壁を壊し、持てるだけの物を奪って逃げる者もいる。村人を人質に取る者だっているだろう」


 スワイスは、入口に張られた縄を見る。


「火山様がいつ俺に気づいたかは分からない。入った瞬間かもしれない。だが、ヴァルが来るまでに、俺はあの壁まで進めた」


 その言葉が、俺の中へ重く沈んだ。


 約束を破ったことへの怒りは消えていない。


 村人たちが俺へ感謝を伝えてくれた祭りを利用されたことも、簡単に許すつもりはなかった。


 だが、スワイスの警告まで間違っているわけではない。


 俺は、外の世界へ繋がる道を望んだ。


 交易が始まり、物が集まり、人が訪れれば、この村はもっと豊かになると思っていた。


 けれど、道は俺たちが外へ出るためだけのものではない。


 外にいる誰かが、俺たちのもとへ来るためのものでもある。


 風が吹き、洞窟の入口に張られた縄が岩肌を擦った。


 ついさっきまで境界だと思っていたそれが、今はただの縄にしか見えない。


 一本の縄で止められるのは、約束を守る者だけだ。


「この事実を、無視しないでくれ」


 スワイスは何も盗らなかった。


 だが、次の侵入者が何も盗らずに帰る保証は、どこにもなかった。

読んでいただきありがとうございます。


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この話から村長のダンとダンが別人物として急に分離していますよ。 このダンは村にたどり着いた一家のお父さんでしょうか?
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