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【火山転生】目覚めたら火山そのものだった〜マグマの力で最強の聖地を作ったら、麓に国ができていました〜  作者: 尾の長い虎(てぃが)
第一章:建国編

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43.火神祭前日

 俺の身体の中で、レンたち三人が五体の魔物に囲まれていた。


 それでも俺は、まだ助けなかった。


 正面には、口の端から火を漏らす火トカゲ。右手の岩陰には、灰色の角を低く構えた灰角兎がいる。


 背後では岩甲虫が硬い殻を擦り合わせ、頭上には火羽コウモリが天井を旋回していた。


 そして、足元の岩盤の下には岩爪モグラが一体。


 レンたちは、まだそいつに気づいていない。


「散れ!」


 レンの父親が叫んだ。


 次の瞬間、火トカゲの口から細い炎が吐き出される。


 三人が左右へ散り、炎を避けた。その頭上から、火羽コウモリが翼を畳んで急降下する。


「上だ!」


 真っ先に気づいたのは、レンだった。


 亜麻色の髪を揺らし、構えた盾を火羽コウモリの進路へ滑り込ませる。


 半年前より少し背が伸び、肩まわりも厚くなった身体は、盾の重みに振られることもなかった。


 乾いた音とともに、吐き出された火の粉が盾の表面で弾ける。


 そこへ灰角兎が駆け出した。


 岩の間を縫うように走り、レンの横を抜けて、もう一人の村人の背後へ回ろうとする。


 レンの足が、一歩だけ灰角兎を追った。


「……いや、そっちは任せた! 後ろから来るぞ!」


 声を受けた村人が振り向き、斧の腹で灰色の角を受け流す。


 以前のレンなら、そのまま一人で追っていただろう。


 だが、今は違う。


 レンは灰角兎から視線を外し、父親の背後へ回ろうとしていた火トカゲの前に立った。


 その足元で、小さな石が一つ跳ねる。


 続いて、もう一つ。


「足元だ!」


 レンが父親の腕を引いた。


 直後、二人が立っていた場所を砕き、岩爪モグラが飛び出してくる。


 長い爪が空を切った。


 レンは体勢を崩しながらも踏みとどまり、露出した岩爪モグラの脇腹へ短槍を突き込んだ。


 穂先が深く沈み、岩爪モグラが甲高い声を上げて崩れ落ちる。


「前を任せる!」


 短槍を引き抜きながら、レンが叫んだ。


「分かった!」


 そこから、三人の動きは崩れなかった。


 体勢を立て直した父親が火トカゲを仕留める。もう一人の村人は灰角兎を岩壁へ追い込み、逃げ場を失ったところへ斧を振り下ろした。


 再び急降下してきた火羽コウモリを、レンが盾で打ち落とす。地面へ落ちたところへ駆け寄り、すぐに短槍でとどめを刺した。


 最後に残ったのは、全身を硬い殻で覆った岩甲虫だった。


 正面から何度武器を当てても、殻には傷一つつかない。


「レン、左を持ち上げろ!」


「これを持ち上げるのか!?」


「嫌なら一人で倒せ!」


「持ち上げる!」


 三人が武器を殻の下へ差し込み、同時に力を込めた。


 岩甲虫の身体が大きく傾く。


 短い脚を激しく動かして抵抗したが、ひっくり返されてしまえば、柔らかい腹が丸見えだった。


 レンの短槍が、その中心を貫く。


 しばらくして、空洞に静けさが戻った。


(危なくなれば、岩壁をせり上げて魔物を分断するつもりだった。でも、最後まで俺が助ける必要はなかったな)


「……終わった」


 レンが大きく息を吐いた。


 父親は周囲にほかの魔物がいないことを確かめてから、息子の肩を叩く。


「少しは周りが見えるようになったな」


「少しだけかよ」


「言い直してやろうか?」


「おう」


「まだまだだ」


「悪くなってるじゃねえか!」


 もう一人の村人が、声を上げて笑った。


(でも、本当に強くなったな)


 半年前なら、目の前の魔物を倒すことしか考えられなかった。


 今のレンは、仲間の位置を見て、自分が何をするべきかを選べる。まだ父親には及ばないが、もう守られているだけの少年でもなかった。


 ネスが火守村を発ってから半年。


 あの魔物たちが村を襲ってからは、ちょうど一年が過ぎていた。


 その間に変わったのは、レンだけではない。


 最初は火トカゲしかいなかった浅層ダンジョンにも、新しく四種類の魔物を増やした。


 素早い突進を繰り返す灰角兎。


 硬い殻で正面からの攻撃を弾く岩甲虫。


 頭上から火の粉を吐く火羽コウモリ。


 地中を掘り進み、足元から襲う岩爪モグラ。


 ただ強い魔物を増やしたわけではない。


 相手の動きを見て避けること。仲間と協力して弱点を狙うこと。正面以外にも注意を向けること。


 村人たちが、それぞれ違う戦い方を覚えられるように選んだ魔物だった。


 もちろん、素材にも使い道がある。


 灰角兎は肉と角。岩甲虫は殻。火羽コウモリは火を帯びた羽。岩爪モグラの爪は、石を削る道具へ加工できる。


 村人たちが強くなり、そのうえ暮らしも豊かになる。


(完璧なダンジョン運営じゃないか?)


「かしこみかしこみ。先日、岩爪モグラの一体が休憩所の壁まで掘り抜きました」


(完璧に近いダンジョン運営だな)


 フランの指摘を受け、心の中で少しだけ訂正した。


 レンたちが素材と魔石を回収し、戦闘空洞を出る。


 その先には、本来なら魔物が入ってこない休憩所が作られていた。掘り抜かれた壁は、すでに修復してある。


「ぷる!」


 浅い岩のくぼみから、コロが飛び出してくる。


 火羽コウモリの攻撃で熱を持ったレンの盾へ触れると、表面に残っていた余分な熱だけを吸い取った。


「助かったよ、コロ」


「ぷるる!」


 コロが得意げに身体を揺らす。


 以前は周囲の熱を手当たり次第に吸収していたが、今では必要な場所から、必要な量だけを取り込めるようになった。


 コロが先に進み、レンたちを洞窟の出口へ案内する。


 外へ出たところで、黒い影が空から降りてきた。


 ヴァルだ。


 黒曜石のような鱗に覆われた身体は、大型犬ほどに育っている。まだ長く飛び続けることはできないが、山の斜面から飛び立てば、村の周囲を一回りできるようになった。


 コロが当然のようにヴァルの背中へ跳び乗る。


「グル……」


 ヴァルが不満そうに首を振った。


「ぷる!」


 だが、コロは翼の間から動こうとしない。


「かしこみかしこみ。コロ様は、空路での帰還をご希望のようです」


(ヴァルは嫌がってないか?)


「グルル……」


「かしこみかしこみ。先輩を敬う後輩として、快く承諾なさいました」


(今の鳴き声のどこに快さがあったんだ?)


 それでもヴァルはコロを振り落とさず、翼を広げた。


 地面を蹴り、二体の身体が宙へ浮かぶ。


「ぷるるる!」


 コロの弾んだ声が、山の斜面へ遠ざかっていった。


 ヴァルも成長した。


 コロも成長した。


 フランは魔物の数や熱の偏りを把握し、俺よりも細かいところに気づくことが増えている。


 俺だって、この半年間、何もしていなかったわけではない。


 地下深くでは、黒銀色の鉱脈が少しずつ育ち直していた。限定的に繋いだ火の主地脈から必要な分だけ力を引き出し、北側の岩盤を少しずつ押し上げ、小さかった稜線もさらに育てている。


 しかも、村を一度も揺らさずに。


(俺も少し、背が伸びたようなものだな)


 誰にもそう言ってもらえないが、成長は成長だ。


 山の麓にある火守村も、半年前とは姿を変えていた。


 家屋が増え、以前より大きな倉庫も建てられている。畑はさらに広がり、赤葉草を育てるための区画まで作られていた。


 村の広場では、大勢の村人たちが明日の準備に追われている。


 中央に作られた祭壇へ赤い花が飾られ、その周囲には何本もの松明が並べられていた。


「そっちの樽は日陰へ運べ! 祭りの前に酒を駄目にするな!」


 村長のダンが、広場の端から指示を飛ばしている。


 六十近いはずだが、その声は若い村人たちにも負けていない。


 その近くで、鼓が大きな音を立てた。


 どん。


「ガンゾウ!」


「なんじゃ?」


「鼓を叩く暇があるなら、その縄を結べ!」


「暇つぶしではない。祭りの前触れじゃ」


「朝から六度目だ。祭りが六回始まったのか?」


「多い方が、めでたいじゃろう」


「明日までに腕が動かなくなっても知らんぞ」


 ダンに睨まれ、ガンゾウが渋々、撥を置く。


(祭りの前触れって、そんなに何度も必要なのか?)


「かしこみかしこみ。ガンゾウ殿の心は、すでに明日へ到達しているものと存じます」


(身体は今日に置いてきてくれ)


 ヒナノも、ほかの女たちと一緒に祭壇を整えていた。


 供えるための赤い花を一輪ずつ確かめ、傷んだ花が混ざっていれば取り除いていく。その横には、明日身につける白と赤の祭装束が、大切そうに置かれていた。


 明日は、火神祭だ。


 半年前にヒナノから聞かされて以来、村人たちが少しずつ準備を重ねてきた、俺へ感謝を捧げる初めての祭り。


 村中が浮き足立つ中、俺は何度も南へ感知を伸ばしていた。


「かしこみかしこみ。カザン様、先ほどから南の道ばかりをお確かめになっております」


(警戒だよ、警戒)


「かしこみかしこみ。ネス殿をお待ちなのでは?」


(……それも、少しはある)


「かしこみかしこみ。承知いたしました。では、十四度目の警戒として記録いたします」


(数えてたのか)


 ネスが戻ると言ったのは、火神祭の前日だった。


 砂漠連邦で品物を集めるには時間がかかる。道中で何か起きれば、予定どおりに戻れない可能性もある。


 分かってはいても、気になってしまうものは仕方がない。


 もう一度、南へ意識を伸ばす。


 その時だった。


 山道の向こうから、規則正しい振動が伝わってきた。


 馬の蹄。


 軋む車輪。


 一台ではない。


 二台分の荷車が、ゆっくりと火守村へ近づいている。


(……来た)


「かしこみかしこみ。十五度目の警戒にて、無事発見なさいました」


(十五度目って言うな)


 俺はすぐに、ヴァルへ迎えに行くよう頼んだ。


 ヴァルが翼を広げると、コロが再びその背中へ飛び乗る。


「グル……」


「ぷる!」


(帰ってきたばかりだぞ。コロはここで待っていてもいいんじゃないか?)


「ぷるる!」


 どうやら、先輩として同行するつもりらしい。


 諦めたヴァルが斜面を駆け、勢いよく空へ飛び出した。


 眷属の繋がりを通じて、俺はヴァルの感覚を借りる。


 南の山道を、二台の荷車が進んでいた。


 先頭の荷車で手綱を握っているのは、見慣れた商人だ。


(ネスだ)


 後ろの荷車の御者台には、見知らぬ男が座っている。


 日に焼けた顔。使い込まれた革鎧。荷台の脇には、長い槍が立てかけられていた。


 ヴァルが荷車の前方へ降りる。


 二頭の馬が驚いて足を止めた。


 ネスが手綱を引くよりも早く、後ろの男が荷車から飛び降りる。槍を手に取り、ネスとヴァルの間へ立った。


 だが、穂先を向ける直前で動きを止める。


「槍を下ろしてください。あの方は、この村の守り手です」


 ネスの言葉を聞き、男がヴァルから目を離さないまま答えた。


「先に言ってくれ。火竜が迎えに来る村なんて聞いていない」


「聞かれませんでしたので」


「聞く項目に入っていない」


 男はしばらくヴァルを見つめたあと、ゆっくりと槍を下ろした。


 ネスが荷車から降り、ヴァルへ頭を下げる。


「お久しぶりです、ヴァル様。ずいぶん大きくなりましたね」


 ヴァルが誇らしげに胸を張った。


 その背中で、コロも同じように身体を反らす。


「そちらの丸いのも、守り手なのか?」


「コロ様です。ヴァル様の先輩にあたります」


「……あれが?」


「ぷるっ!」


 コロが抗議するように跳ねた。


「小さく見えても、コロ様はこの山で最初に生まれた眷属です」


「分かった。大きさで判断しないようにする」


 男は真面目な顔で頷いた。


 冗談を言っている様子はない。


 ヴァルを前にしても逃げず、反射的にネスを守ろうとした。それでいて、止められれば勝手に攻撃しない。


(悪い護衛じゃなさそうだな)


 二台の荷車が村へ到着すると、広場から歓声が上がった。


「ネス!」


「本当に戻ってきたぞ!」


 村人たちが一斉に集まってくる。


 その先頭に立ったダンが、荷車から降りたネスの肩を強く掴んだ。


「よく戻った、ネス」


「お待たせしました、ダン村長」


「祭りには間に合った。なら、待ったうちには入らん」


 ネスが笑い、ヒナノたちも安堵したように顔を綻ばせる。


 荷車には、塩、布、油、針、農具、傷薬が隙間なく積まれていた。


 さらに、祭りのための乾燥果実や香辛料まである。


 荷台を覗き込んだガンゾウが、乾燥果実へ手を伸ばした。


「これは、祭壇へ供える物か?」


「はい。その予定です」


「なら、味を確かめておかんとな」


 ガンゾウの手を、ダンが横から叩いた。


「まだ供えてもいないだろう」


「毒見じゃ」


「供える前の味見を、毒見とは言わん」


「祭りの安全に関わる、大事な役目なんじゃが」


「なら、祭りが終わってから安全を確かめろ」


「それでは手遅れではないか?」


「お前が食べられないだけで、誰も困らん」


 周囲から笑い声が上がる。


 見知らぬ護衛の男も、槍を荷車へ戻しながら小さく笑っていた。


「紹介します。こちらはスワイス。砂漠連邦から、私と荷を守ってくれた冒険者です」


「スワイスだ。祭りが終わるまで世話になる」


 そう名乗った男は、長旅の直後にもかかわらず、村人たちと一緒に荷を下ろし始めた。


 勝手に村を歩き回ることもない。荷車を置く場所も、馬へ水を飲ませる場所も、必ずネスやダンへ確かめている。


 少なくとも、信用できない人間には見えなかった。


 こうして、半年かけて育てた俺の山へ。


 初めて、一人の冒険者がやってきた。


     ◇


 その夜。


 夜になっても、火守村から人の気配が途切れることはなかった。


 眠れずに家の中を歩く子供。何度も供え物を確かめに来る大人。祭り用に隠しておいた酒が無事か見回るダン。


 そして、ダンがいなくなるのを待って酒樽へ近づき、すぐに見つかるガンゾウ。


 明日の祭りを前に、誰もが落ち着かないらしい。


 夜も深くなった頃、ヒナノが一人で祭壇を訪れた。


 最後の赤い花を一輪供え、俺の山へ向かって両手を合わせる。


「カザン様。ネスさんも、無事に帰ってきました」


 小さな声が、夜の広場へ落ちる。


「明日は、みんなでたくさんお礼を言います。楽しみにしていてください」


(礼を言うのは、俺の方なんだけどな)


 誰かに感謝されたくて、村を守ってきたわけではない。


 それでも、自分のしたことを覚えていてくれるのは、悪くなかった。


 俺は祭壇の下へ、ごくわずかな熱を送った。


 夜風に冷えていた赤い花が、淡い温もりを帯びる。


 それに気づいたヒナノが、嬉しそうに笑った。


「はい。また明日です、カザン様」


「かしこみかしこみ。カザン様がお喜びである旨、皆様へお伝えいたしましょうか」


(恥ずかしいからやめてくれ)


「かしこみかしこみ。承知いたしました。たいへんお喜びである件は、胸の内へ納めます」


(たいへんとまでは言ってない)


 やがて、東の空が白み始めた。


 村人たちが家から出て、広場へ集まってくる。


 祭装束に着替えたヒナノが祭壇の正面に立ち、その隣にはダンが並ぶ。ネスとスワイスも、少し離れた場所から山を見上げていた。


 コロとヴァルは祭壇の両脇に並び、フランは赤い炎をまとって、祭壇の背後に静かに控えている。


 広場の中央では、ガンゾウが鼓の前に立っていた。


 撥を握る両手が、ゆっくりと頭上へ持ち上がる。


 村人たちが息を止めた。


 ヒナノが祭壇の前へ一歩進み、俺の山をまっすぐに見上げる。


(よし。始めよう)


 村人たちだけが、今日を待っていたわけじゃない。


 俺も、この日のために用意してきたものがある。


 朝日が、火守村と俺の山を赤く照らした。


 ガンゾウの両腕が、振り下ろされる。


 次の一音で――俺を祀る、初めての火神祭が始まる。

読んでいただきありがとうございます。


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