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【火山転生】目覚めたら火山そのものだった〜マグマの力で最強の聖地を作ったら、麓に国ができていました〜  作者: 尾の長い虎(てぃが)
第一章:建国編

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37.巫女は結婚できますか?

レンくんがんばれいい!

「火山様に、聞きたいことがあります」


 倉庫の裏で山へ向き直ったまま、レンは答えを待っていた。


 俺の声は、神器を持つヒナノと、眷属であるコロたちにしか届かない。それでも、こうして俺へ話しかけるからには、こちらが聞いていると信じているのだろう。


(何を聞きたいんだ?)


 先日の戦いについてだろうか。


 もっと強くなる方法か。次に魔物が襲ってきた時、自分が何をすればよいのか。それとも、村を守るための新しい武器が欲しいのか。


 レンは一度息を吸い、さらに声を潜めた。


「ヒナノが、火山様の巫女になったことについてです」


(ヒナノが?)


「巫女は……」


 そこで言葉が止まる。


 レンの身体から伝わる熱が、じわじわと上がっていく。


「巫女は、誰かと結婚してもよいのでしょうか」


(そっちか)


 村を揺るがすような相談を想像していたら、レン一人の心を揺るがす相談だった。


「かしこみかしこみ、現時点において、巫女の婚姻を禁ずる定めはございません」


(現時点って言い方をするな。これからも禁止するつもりはないぞ)


「かしこみかしこみ、では、巫女の婚姻自由を第一の教義として定めるのはいかがでしょう」


(最初の教義を恋愛相談から作るな)


 俺とフランが話している間も、レンは身じろぎせず立っていた。


「俺は、昔からヒナノのことが好きです」


 誰かに聞かれるのを恐れているのか、その告白はほとんど囁き声だった。


「いつか大人になって、もっと強くなれたら……ヒナノと家族になりたいと思っていました」


 レンの身体が、わずかに山から逸れる。


「でも、ヒナノは火山様の巫女になりました。火山様のお言葉を村へ伝えて、神器を授かって、俺たちにはできないこともできるようになって……」


 レンの声に、少しだけ迷いが混じる。


「巫女が一生を火山様へ捧げるものなら、俺がそんなことを望むのは、いけないことなのかと思ったんです」


(いや、巫女は俺の持ち物じゃないぞ)


 ヒナノが巫女になったのは、俺と村を繋ぐためだ。


 その役目を理由に、ヒナノの将来まで俺が決めてよいはずがない。


(そもそも、俺は火山だしな)


「かしこみかしこみ、御身と人との婚姻は、地理的にも相当な困難を伴うかと存じます」


(その可能性を真面目に考えるな)


「諦めなければならないのなら、今のうちに諦めます」


 レンは再び山へ向き直る。


「ヒナノが巫女として生きる邪魔だけは、したくありません」


 好きだからこそ、自分の望みを押しつけたくない。


 まだ若いのに、レンなりにヒナノのことを考えて出した言葉なのだろう。


(巫女だからって、諦める必要はない)


 ただし、巫女でも結婚してよいことと、ヒナノがレンを選ぶかどうかは別の話だ。


 そこを決めるのは俺でも、村長でもない。


 ヒナノ本人だ。


 答えを伝えようとして、問題に気づく。


(どうやって返事をすればいいんだ?)


 俺からレンへ、直接言葉を届けることはできない。


 地面を揺らせば、何かを伝えようとしていることは分かるかもしれないが、結婚してよいという意味までは伝わらないだろう。


 揺らし方を間違えれば、恋愛相談への返事どころか、噴火の前触れだと思われかねない。


 すると、レンがこちらの迷いを見透かしたように続けた。


「お答えは、ヒナノに伝えてください」


(本人を通すのか?)


「ただ、何を聞いたかは、ヒナノには言わないでほしいんです」


(本人に秘密のまま、本人に答えを運ばせるのか?)


「結婚してもよいのなら、『よい』。駄目なら、『駄目』とだけ伝えていただけませんか」


「かしこみかしこみ、想い人を伝令役とする、たいへん複雑な伝達方法にございます」


(俺もそう思う)


「お願いします」


 レンは深く頭を下げた。


 その姿勢のまま、しばらく答えを待っていたが、今の俺には何も返せない。


「……明日の朝、ヒナノからのお言葉を待ちます」


 そう言い残すと、レンは足早に倉庫の裏を離れていった。


 来た時には何度も足を止めて周囲を確かめていたのに、帰りは一度も立ち止まらない。


(魔物から退く時より速くないか?)


「かしこみかしこみ、恋心を告げた直後に、平静を保てる者は多くないものと存じます」


(お前、妙に詳しいな)


「かしこみかしこみ、先ほどの会話より得た知識をもとに申し上げました」


(ほとんど今知ったばかりじゃないか)


 生まれて間もない火精霊に恋愛を語られながら、俺は遠ざかるレンの足音を追った。


 ◇ ◇ ◇


 夜が深まり、村人たちが眠りについた頃。


 俺は村から山の内部へ意識を戻していた。


 三人の定住者を迎え、火守村では共同宿舎と新しい畑を作ることが決まった。


 村が少しずつ広がっていくなら、俺も山の中を育てていかなければならない。


 最初の攻略者たちが浅層ダンジョンへ入って以来、俺は空いた時間を使い、少しずつ内部の拡張を続けていた。


 現在の浅層は、火トカゲと戦い、小さな魔石や素材を得るための場所だ。


 だが、同じ場所から同じものを採り続ければ、いずれ何も残らなくなる。


 倒して終わり。


 掘って終わり。


 それでは、村を支え続ける場所にはならない。


 浅層の奥にある岩盤へ圧力をかけ、ゆっくりと亀裂を広げる。


 無理に砕けば、天井まで崩れかねない。周囲の岩を熱で馴染ませ、柱となる部分を残しながら、新しい通路を少しずつ延ばしていく。


 その先に、いくつかの空間を作った。


 一つは、火トカゲが身を隠し、傷を癒やしながら群れの数を戻していける温かな区画。


 一つは、地熱に含まれる魔力をゆっくりと溜め、時間をかけて小さな魔石を生み出す区画。


 もう一つは、鉱物を含んだ地下水と地熱を巡らせ、掘り削られた鉱脈が少しずつ育ち直すための区画だ。


 すぐに結果が出るわけではない。


 魔物が増えるにも、魔石や鉱石が育つにも、時間が必要になる。


 それでも、採られたものが二度と戻らない場所よりはいい。


(採るだけで終わらず、また育っていく場所にしたいな)


 浅層だけで終わらせるつもりもない。


 さらに深い場所へ続く道も掘り始めている。


 今の村人たちには危険すぎるため、入口は厚い岩で塞いだままだ。火トカゲより強い魔物を置くのも、その先の環境が整ってからになる。


 村人たちが強くなれば、少しずつ先へ進める。


 進んだ先では、新しい魔物や資源と出会える。


 そうやって村と一緒に成長するダンジョンにできれば、いずれ外から人を呼ぶ理由にもなるかもしれない。


 新しい通路へコロを送り込むと、小さな身体が岩の間を弾んでいく振動が返ってきた。


 その後ろを、ヴァルが慎重に歩いている。


 コロは分かれ道へ着くたび、迷うことなく右へ進んだ。


 次も右。


 その次も右。


(コロ、そっちは排熱用の穴だぞ)


「ぷる?」


 コロが細い穴へ身体を押し込もうとする。


 後ろからヴァルが前脚で止めると、コロは一度潰れ、そのまま元の丸い形へ戻った。


「ぷるる」


 抗議するような振動に、ヴァルが小さく翼を広げる。


(安全確認を頼んだのに、どうして一番危ない道へ入ろうとするんだ)


「かしこみかしこみ、コロ殿は、未知へ挑むことを恐れぬ御方にございます」


(道を覚えていないだけじゃないか?)


「かしこみかしこみ、その可能性も否定できません」


 ヴァルに連れ戻されたコロは、今度は左の通路へ弾んでいった。


 少し不安は残るが、新しく作った区画に崩れそうな場所はないようだ。


 地熱の流れを整えた頃、ヒナノが眠りについた気配が神器を通じて伝わってきた。


 俺は山の内部へ意識の一部を残したまま、ヒナノの夢へ繋がる。


『ヒナノ』


「カザン様」


『頼みがある』


「はい。なんでしょうか」


『明日の朝、レンに「よい」と伝えてほしい』


 ヒナノが少し黙る。


「『よい』、だけでよろしいのですか?」


『それだけで分かる』


「何がよいのでしょうか」


『それは言えない』


「私に関係することですか?」


 いきなり核心へ近づかれた。


『レンが自分で話すまで、秘密だ』


 ヒナノはしばらく黙った後、困ったように尋ねてくる。


「私は内容を知らないのに、秘密にするのですか?」


(言われてみればそうだな)


『そうなる』


「……神託とは、不思議なものなのですね」


(今回だけは、俺もそう思う)


 それでもヒナノは素直に頷いた。


 答えを預けた俺は、彼女の夢から意識を戻し、夜の間も山の内部を少しずつ育て続けた。


 ◇ ◇ ◇


 翌朝。


 ヒナノはいつものように山へ挨拶を済ませると、そのまま訓練場へ向かった。


 俺も胸元の神器との繋がりへ意識を重ね、二人の声を拾う。


 レンは朝から槍を振っていた。


 ヒナノの足音に気づいた瞬間、槍の動きが止まる。身体から伝わる熱も、昨日と同じように上がり始めた。


「レン。昨夜、カザン様より、お言葉を預かりました」


「……なんて?」


「『よい』とのことです」


「本当に?」


「はい。私が、カザン様のお言葉を偽って伝えると思いますか?」


「いや、そういう意味じゃない」


 レンの声から力が抜け、張り詰めていた呼吸がゆるんだ。


「よかった……」


 小さく漏れた声を、ヒナノは聞き逃さなかった。


「ところで、何がよいのですか?」


「それは、まだ言えない」


「では、どうして私が伝えるのですか?」


「火山様のお言葉を聞けるのは、ヒナノだけだから」


「私には言えないことなのに?」


「今すぐ、ヒナノが困る話じゃない」


「今すぐ?」


「……言い方を間違えた」


「では、いつかは困るのですか?」


「困らせたいわけじゃない!」


 レンの声が裏返る。


 近くで訓練していた大人たちの動きが止まり、レンは慌てて声を落とした。


「とにかく、今は言えないんだ」


「危ないことではありませんか?」


「違う」


「一人で魔物を倒しに行く相談でも?」


「それも違う」


「レンのお父様に隠れて、夜の訓練を増やす相談でも?」


「違うって」


「でしたら、教えてくれてもよいと思います」


「それができないから、火山様に相談したんだ」


 ヒナノは納得していないようだったが、やがて小さく息を吐いた。


「分かりました。レンが自分で話すまで、聞かないことにします」


「ありがとう」


「でも、隠れて危ないことをしたら、カザン様へすぐにお伝えします」


「だから、危ないことじゃない」


 最後まで疑いを残したまま、ヒナノは訓練場を離れていった。


 その足音が遠ざかるのを待ち、レンが山へ身体を向ける。


「火山様、ありがとうございます」


 昨日とは違い、その声に迷いはなかった。


「今すぐ、ヒナノに何かを言うつもりはありません」


 レンは槍を握り直す。


「俺がもっと強くなって、ヒナノの隣でこの村を守れるようになったら……その時は、自分で伝えます」


(頑張れよ)


 この声は届かない。


 それでも、今まで以上に力強く槍を振り始めたレンを、しばらく見守る。


「かしこみかしこみ、若き決意、まことに尊きものにございます」


(そうだな)


「かしこみかしこみ、将来の神前婚へ備えるためにも、神殿の早期建立が必要かと存じます」


(今の話から神殿へ繋げるな)


「かしこみかしこみ、祭壇に加え、参列者を迎える広間も必要となりましょう」


(そもそも、ヒナノがレンを選ぶかどうかは別の話だぞ)


「かしこみかしこみ、では、婚礼以外にも使える多目的神殿として――」


(用途を増やして押し通そうとするな)


 巫女の婚姻を認めたからといって、フランの神殿まで認めた覚えはなかった。


 ◇ ◇ ◇


 その日の午後。


 共同宿舎では最初の柱を立てる作業が始まり、南の斜面では畑を広げるため、村人たちが灰と土を混ぜていた。


 村の中へ意識を向けながら、俺も地下で新しい通路を掘り進める。


 そんな時、火山領域の外側から、規則正しい振動が伝わってきた。


 地面を蹴る、四本の脚。


 その後ろで、二つの車輪が小石を踏みながら回っている。


 荷車だ。


 引いている獣とは別に、人間一人分の熱もある。


 村へ近づいてくる振動に、俺はすぐヒナノへ短い神託を送った。


『村へ、誰かが近づいている』


 先日の魔物の襲撃を経験したばかりだ。


 知らせを受けた村人たちは作業を止め、レンや戦える大人たちが武器を手に村の入口へ集まった。


 やがて、車輪の軋む音が近づいてくる。


 荷車を引く獣も、御者台に座る男も、魔物に追われている様子はない。


 荷台では大小いくつもの荷物が揺れ、金属や木箱が触れ合う音がしていた。


 村の入口へ集まった者たちに気づいたらしく、男は荷車を止めた。


「お待ちください。怪しい者ではありません」


「怪しい者は、皆そう言うものじゃ」


 ガンゾウの言葉に、男が少し間を置く。


「では、多少は怪しいかもしれませんが、皆様へ害を加えるつもりはありません」


「正直になればよいという話ではない」


 村長は警戒を解かない。


 男は困ったように笑うと、荷車からゆっくり地面へ降りた。


 その足が火守村の内側へ入った瞬間、意識の中へ新しい文字が浮かぶ。


《一時滞在者:一名》


 男は村人たちへ向け、丁寧に頭を下げた。


「私は、ここより南にある砂漠連邦から参りました。各地を巡り、品を売り買いしている旅の行商人です」


 火守村となって初めて、外の国から旅の行商人が訪れた。

読んでいただきありがとうございます。


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