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【火山転生】目覚めたら火山そのものだった〜マグマの力で最強の聖地を作ったら、麓に国ができていました〜  作者: 尾の長い虎(てぃが)
第一章:建国編

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32.噴火ってうんこみたい

 噴火する。


 そう理解したところで、俺の身体は待ってくれなかった。


 新たに繋がった地脈から、熱と魔力が流れ込み続けている。接続部を岩で塞ごうとしても、膨れ上がった力が内側から押し返してきた。


 深層ではマグマが大きくうねり、山頂へ向かって上昇している。地下水の一部も急激に温められ、複数の場所で圧力が高まり始めていた。


《火山内部圧力:上昇継続》


《複数の岩盤層に亀裂を確認》


(落ち着け)


(まず、何が起きてるか確かめる)


 焦って山全体を動かせば、それだけで村へ大きな揺れを起こしてしまう。


 俺は上昇するマグマを何層もの岩盤で押さえながら、新しい地脈との接続部へ意識を伸ばした。


 流れ込んでくる力は、最初よりわずかに弱まっている。それでも、今の俺が受け入れられる量を大きく超えていた。


「かしこみかしこみ、恐れながら申し上げます。接続部の完全な遮断は、現時点では困難かと存じます」


 フランが岩壁へ炎文字を描く。


 火山の深層。


 二本の地脈。


 膨れ上がるマグマ。


 そのすべてが、赤金色の線となって浮かび上がった。


「新たな地脈のみを塞ごうとすれば、押し戻された力が岩盤の隙間へ流れ込みます。このままでは、カザン様の御身のどこから噴き出すか予測できません」


(やっぱり、止めるのは無理か)


 流れ込んだ力そのものを消すことはできない。


 マグマへ変わった熱を、永遠に深層へ閉じ込めておくこともできない。押さえ込めば、その分だけ圧力が高まり、限界を超えれば最も弱い場所を勝手に突き破る。


 フランの炎文字には、マグマが進もうとしている複数の流れが描かれていた。


 一つは山頂。


 一つは、浅層ダンジョンに近い岩盤。


 もう一つは、麓側へ伸びている。


(麓側はまずい)


 その先には村がある。


 家。


 畑。


 古井戸。


 魔物の襲撃を生き延び、ようやく復旧を始めたばかりの人々がいる。


 今までなら、噴火はただ起きるものだった。


 だが、今の俺は自分の身体を動かせる。


 岩を削り、通路を作り、マグマの流れを変えられる。


(止められないなら、出すしかない)


 問題は、どこから出すかだ。


 俺は火山の外側へ意識を広げた。


 眠りについた村人たちの体温。


 地面へ並ぶ家々の重み。


 柵の内側で身を寄せ合う家畜。


 植え直された畑。


 浅層ダンジョンの入口。


 そこから大きく横へ外れた山裾に、草木の少ない岩場がある。


 家も畑もない。


 村人が普段使う道からも離れている。


 中央は浅く窪み、周囲を硬い岩に囲まれていた。


 あそこへマグマを導き、さらに村側へ岩壁を作れば、流れをある程度閉じ込められるかもしれない。


(噴火を止めるのは無理でも、噴火する場所なら選べる)


「新たな流路をお作りになるのですか?」


(ああ。村から外れた岩場まで、マグマの逃げ道を作る)


 フランの赤金色の瞳が細められた。


「その経路を開かれれば、カザン様の御身にも大きな損傷が生じます」


(村の近くで勝手に破裂するよりはいい)


「ですが――」


(それに、俺だって山ごと吹き飛びたくない。村を守るついでに、俺も助かる方法だ)


 自分だけが犠牲になればいいとは思っていない。


 俺だって死にたくない。


 コアを壊されれば終わるのは、今も変わらない。


 だからこそ、村も俺も守れる場所を選ぶ。


(ただ、先に村へ知らせないとな)


 岩場を避けても、揺れや火山灰までは完全に防げない。噴き上がった岩が、どこまで飛ぶかも分からない。


 何も知らずに眠っているところへ、噴火を起こすわけにはいかなかった。


(ヒナノは……眠ってるな)


 巫女との繋がりを辿ると、村の一角から穏やかな意識が伝わってくる。


 夢の中なら、詳しい話ができる。


(フラン。俺がヒナノへ警告する間、地脈の流れを見ていてくれ)


「承知いたしました。異常があれば、直ちにお伝えします」


(コロは、接続部から漏れた熱だけを食べてくれ。無理はするなよ)


「ぷる!」


(ヴァルは二人を頼む)


「グル……!」


 ヴァルが岩へ黒い爪を立て、フランとコロの近くへ身を置く。


 俺は上昇するマグマを押さえたまま、意識の一部をヒナノとの繋がりへ流した。


 ◇ ◇ ◇


 暗い夢の中へ、赤い光が走った。


 地面の奥を巡る、幾本もの熱。


 その中央で、ヒナノが振り返る。


 顎の辺りで揃えられた黒髪が、吹いていないはずの風に揺れていた。


『ヒナノ、起きろ』


「カザン様……?」


『今から、山が噴火する』


 ヒナノの目が見開かれた。


「……噴火?」


『新しい地脈から、想像以上の力が流れ込んだ。もう全部を止めるのは難しい』


「村は……皆は、どうなるのですか?」


 自分のことではなく、真っ先に村人たちを案じる。


 やはりヒナノらしい。


『村には向けない』


 夢の地面へ、火山の形が浮かび上がる。


 麓には、村人たちの命を表す小さな光。


 村と畑から横へ外れた場所には、草木の少ない岩場。


 深層から伸びる赤い線が、その岩場へ向かって進んでいく。


『人のいない岩場へマグマを逃がす。ただ、地面は揺れる。火や石、灰も出るかもしれない』


 ヒナノは、浮かび上がった場所を真剣な表情で見つめた。


「この岩場へ、誰も近づけなければよいのですね?」


『ああ。それと、洞窟にも入れるな。皆を起こして、壊れかけた家から離れさせろ。細かい判断は村長に任せる』


「分かりました」


 夢の中で、地面が大きく揺れた。


 赤い線の一部が太くなり、村へ向かって枝分かれしようとする。


 俺は意識を身体へ戻し、その流れを岩盤で押し返した。


「カザン様」


『どうした?』


「カザン様は、大丈夫なのですか?」


『俺は火山だ。噴火くらい……まあ、初めてだけど、何とかする』


「それでは安心できません」


『正直だな』


「どうか、御無事で」


『噴火する火山に言う言葉か、それ』


「カザン様は、ただの火山ではありません」


 迷いのない声だった。


「私たちのことを考え、噴火する場所まで選んでくださる方です」


『……そうだったな』


 今も深層では、マグマが俺の身体を押し上げている。


 長く話している余裕はない。


 それでも、ヒナノの言葉へ返事をせずに夢を終わらせる気にはなれなかった。


『ありがとう。行ってくれ』


「はい」


 ヒナノの姿が光へ溶ける。


 夢が終わる直前。


「必ず、またお話ししてください」


 その言葉が、最後まで俺の意識へ残った。


 ◇ ◇ ◇


 ヒナノは、揺れる寝床の上で目を覚ました。


 家の柱が軋んでいる。


 壁へ掛けられた籠が揺れ、中に入っていた小物が触れ合っていた。


 胸元の神器では、赤い結晶が脈打つように輝いている。


「ヒナノ?」


 隣で眠っていた母親が、身を起こした。


「お母さん、すぐ外へ出て。近くの人たちも起こして」


「何があったの?」


「山が噴火します」


 母親の表情が凍りついた。


「でも、カザン様が村から離れた場所へ、マグマを逃がしてくださいます」


 再び、地面が揺れる。


 先ほどよりも強い。


 ヒナノは寝間着の上へ外套を羽織り、家を飛び出した。短い黒髪が、夜の冷たい風に煽られる。


 村はまだ暗い。


 だが、揺れに気づいた家から、少しずつ明かりが漏れ始めていた。


 ヒナノは村長の家へ向かって走る。


「村長さん!」


 扉を叩く前に、中から村長が出てきた。


 すでに上着を身につけ、片手には杖を持っている。


「今の揺れは、山か?」


「はい。カザン様から神託がありました。間もなく噴火します」


「場所は?」


「村と畑から外れた岩場です。カザン様が、そこへマグマを逃がしてくださいます」


 村長は一瞬だけ山へ目を向けた。


「ほかにお言葉は?」


「洞窟へ入らないこと。岩場へ近づかないこと。全員を起こし、壊れかけた家から離れさせるようにと」


「分かった」


 噴火するという言葉を疑うことも、理由を問い詰めることもしなかった。


 今必要なのは原因を知ることではなく、全員を守ることだと理解している。


「ガンゾウを起こせ! 鼓を鳴らさせろ! 全員を村の中央へ集める!」


 村長の声が、夜の村へ響いた。


 間もなく。


 どんっ、どんっ、と腹へ響く鼓の音が鳴り始める。


 祭りの時とは違う。


 短く、強く、眠っている者を叩き起こす音だった。


「起きよ! 皆、家から出るのじゃ!」


 ガンゾウが鼓を鳴らしながら、村の道を歩いていく。


「カザン様より警告があった! 子どもと怪我人を先に中央へ集めよ!」


 家々の扉が開く。


 子どもを抱いた母親。


 足を引きずる負傷者。


 槍や弓を手にした男たち。


 何が起きているのか分からず、不安そうに山を見上げる者もいる。


 レンも、父親と一緒に家から飛び出してきた。


 短い亜麻色の髪には寝癖が残り、片腕にはまだ傷を覆う布が巻かれている。


「父さん、槍は?」


「いらん」


「でも、何か起きるんだろ?」


「今日は魔物と戦うんじゃない。動けない者を運べ」


 レンは一瞬だけ、槍へ視線を向けた。


 それでも反論せず、近くにいた老人へ肩を貸す。


「こっち。広場まで行こう」


「慌てるな!」


 村長が、集まった者たちへ指示を出す。


「竈と松明の火を消せ! 水桶は広場へ運べ! 井戸と食料には、灰が入らぬよう布を掛けろ!」


 村人たちが一斉に動き出す。


 魔物の襲撃を経験していたこともあり、混乱しながらも、それぞれが自分の役目を探していた。


 その中で、一人の男が震える声を漏らす。


「火山様が、お怒りになったのか……?」


 周囲の動きが、一瞬止まった。


 魔物から守ってくれた山。


 水と鉱石を与えてくれた山。


 だが同時に、村そのものを焼き尽くせる火山でもある。


 その事実を、村人たちは初めて目の前へ突きつけられていた。


「違います」


 ヒナノは、はっきりと否定した。


「カザン様は、私たちへ怒っているのではありません」


 胸元の神器を、両手で包む。


「今も、噴火が村へ来ないように戦ってくださっています」


「火山様が、自分の噴火と……?」


「はい」


 ヒナノは、闇の中にそびえる山を見上げた。


「だから私たちも、いただいた警告を無駄にしてはいけません」


 村長が、杖で地面を強く叩く。


「話は聞いたな! 頭を下げるのは、全員が助かった後だ! 今は動け!」


 止まっていた村人たちが、再び走り始めた。


 ◇ ◇ ◇


 鼓の振動が、地面を通じて俺まで届く。


 続いて、村中を行き交う無数の足音。


 家から広場へ。


 井戸から水桶へ。


 ばらばらだった動きが、少しずつ一つへまとまっていく。


(伝わったな)


 ヒナノが起き、村長へ知らせてくれた。


 正確な会話は聞こえない。


 それでも、村人たちが避難を始めたことは分かる。


「カザン様、村側の岩盤へ新たな亀裂が生じております!」


(分かった。そっちは塞ぐ!)


 意識を深層へ戻す。


 細い亀裂が、上昇するマグマの圧力によって広げられようとしていた。


 俺は周囲の岩を押し込み、亀裂を両側から圧縮する。


 熱で膨張した岩が抵抗した。


 さらに外側から圧力を加え、村へ向かう流れを押し戻す。


《村落方面へのマグマ流入を検知》


《岩盤圧力が上昇しています》


(そっちには行かせない)


 岩が軋む。


 亀裂は一度閉じたが、流れを失ったマグマが別の場所へ押し寄せる。


 完全に止めることはできない。


 やはり、別の出口が必要だ。


(フラン、岩場までの流れをもう一度出してくれ)


「はい!」


 岩壁へ炎文字が走る。


 深層から村の外れにある岩場まで、赤金色の線が伸びていく。


 最短の道を通せば、途中で地下水脈とぶつかる。


 高温のマグマが大量の地下水へ触れれば、一気に蒸気が生まれる。地中で爆発すれば、どこまで岩盤が吹き飛ぶか分からない。


(ここは避ける)


 俺は予定していた流路を曲げ、地下水脈より深い場所へ通すことにした。


 距離は長くなる。


 その分、完成までに時間もかかる。


《火山内部圧力:危険域へ接近》


(急げ)


 深層の岩盤を削る。


 一度に広げすぎれば、作ったばかりの通路が圧力へ耐えられない。


 まず細い穴を通し、その周囲を熱で柔らかくする。外側の岩へ均等に圧力を加え、マグマが通れる幅まで少しずつ押し広げていった。


 その間にも、村側の岩盤へ新しい亀裂が生まれる。


 塞ぐ。


 別の場所が割れる。


 また塞ぐ。


(面倒だな……!)


 一つを押さえれば、別の場所が膨らむ。


 火山になってから初めて、自分の身体がここまで言うことを聞かない。


「ぷる!」


 コロが、新しい地脈との接続部へ近づいた。


 岩の隙間から漏れ出す熱へ体を重ね、そのまま吸い込み始める。


 半透明の赤橙色の体が、内側から強く輝いた。


(コロ、無理するなよ!)


「ぷるる!」


 漏れ出す熱が減り、接続部周辺の膨張が一時的に弱まる。


 ほんのわずかだが、流路を作るための時間が生まれた。


(助かる。そのまま少しだけ頼む)


「ぷる!」


 コロは体を震わせながら、熱を食べ続ける。


 だが、中心の炎が、いつもの倍近くまで膨らんでいた。


(もういい。離れろ!)


「ぷる……!」


 まだ続けようとするコロの前へ、ヴァルが回り込む。


 ぷるぷるした体の端をそっと咥え、接続部から引き離した。


「ぷるるっ!」


 コロは不満そうに揺れたが、ヴァルは離さない。


(ヴァル、そのまま頼む)


 ヴァルが小さく喉を鳴らし、コロを安全な場所へ運んでいった。


「カザン様、流路の先端が岩場の地下へ到達しました!」


(地表の状態は?)


「人の気配はございません。周辺にいた小動物も、揺れを察知して離れております」


(よし)


 あとは、マグマを受け止める場所を作る。


 俺は岩場の周囲へ意識を伸ばした。


 中央の窪地を、さらに深くする。


 村側の地面を隆起させ、厚い岩壁を作る。万が一マグマが窪地から溢れても、村とは反対側へ流れるよう、地面の高低を調整した。


 噴き上がった岩を、すべて防ぐことは難しい。


 それでも、流れ出すマグマの方向だけは選べる。


(あとは、地表まで繋げるだけだ)


 岩場の地下。


 流路の先には、まだ厚い岩盤が残っている。


 ここを破れば、噴火が始まる。


 自分で作った通路へ、自分の手でマグマを流し込む。


 失敗すれば、岩場だけでは済まない。


 噴火の衝撃で別の亀裂が開き、村側からもマグマが噴き出す可能性がある。


「カザン様」


 フランの声が、炎文字の向こうから届く。


「御身の判断に、すべてを委ねます」


 村から、幾つもの祈りが流れ込んできた。


 恐怖。


 不安。


 それでも、俺の警告を信じようとする思い。


 子どもを抱く者。


 怪我人へ肩を貸す者。


 水を運び、火を消し、互いの名前を呼ぶ者。


 何も知らなかった頃なら、噴火の被害がどこへ向かおうと気にしなかった。


 今は違う。


 あそこには、俺が守ると決めた者たちがいる。


(しょうがない)


 岩場の地表へ意識を集中させる。


(噴火するなら、俺が選んだ場所で噴火しろ)


 最後の岩盤を、内側から突き破った。


 ◇ ◇ ◇


 最初に響いたのは、地面そのものが裂けるような轟音だった。


 村から外れた岩場に、一本の赤い亀裂が走る。


 亀裂は枝分かれしながら広がり、暗い地面を内側から照らしていった。


 次の瞬間。


 赤熱した岩と火の粉が、夜空へ噴き上がった。


 炎の柱が立ち昇る。


 砕けた黒い岩が赤い尾を引き、岩場の周囲へ降り注ぐ。


 亀裂から溢れたマグマは、新たに作られた窪地へ流れ込み、夜の山裾を真紅に染め上げた。


 衝撃が遅れて村へ届く。


 地面が大きく揺れ、何人かの村人がその場へ膝をついた。


「伏せろ!」


 村長の声が飛ぶ。


 大人たちは子どもを抱き込み、降ってくるものがないか空を見上げた。


 細かな火山灰が、雪のように舞い始める。


 それでも、炎の柱は村から外れていた。


 マグマも村へ向かってこない。


 隆起した岩壁へぶつかり、家や畑とは反対側の窪地へ流れ込んでいく。


 ヒナノは、赤く照らされた山を見つめた。


 胸元の神器が、噴火の光へ応えるように脈打っている。


「本当に……」


 村の誰かが、掠れた声を漏らした。


「本当に、火が俺たちを避けている……」


 噴き上がる炎。


 焼け落ちる木々。


 赤く溶けていく岩場。


 それは間違いなく、人間を容易に呑み込む災害だった。


 だが、その災害は村を避けている。


 地形へ沿って流れているのではない。


 村へ向かうはずの低い土地が、岩壁によって塞がれている。


 炎の進む道そのものを、何者かが選んでいた。


「カザン様が、導いてくださっています」


 ヒナノの声は震えていた。


 怖くないわけではない。


 噴火の光景を前に、恐怖を覚えない人間などいない。


 それでも、彼女は山から目を逸らさなかった。


「私たちのところへ、炎が来ないように」


 村人たちも、次第に理解し始める。


 自分たちは、偶然助かっているのではない。


 火山そのものが、自らの噴火を別の場所へ導いている。


 ガンゾウが鼓を抱えたまま、山へ頭を下げようとする。


「まだ終わっておらん!」


 村長が止めた。


「祈るなら、手を動かしながら祈れ! 灰が増える前に、井戸と食料を守れ!」


「分かっておる!」


 ガンゾウは顔を上げ、再び鼓を鳴らした。


 今度の音は、人々を落ち着かせ、作業の動きを揃えるためのものだった。


 村人たちは赤く染まった夜の中で、互いを支えながら動き続けた。


 ◇ ◇ ◇


 マグマが地表へ噴き出した瞬間、俺の身体を押し広げていた圧力が、一気に出口へ向かった。


(ぐっ……!)


 岩場まで作った流路を、膨大な熱が駆け抜ける。


 通路の壁が削られ、岩の一部が溶けてマグマへ混ざった。


 自分の身体を、内側から抉られるような感覚。


 痛みとは少し違う。


 それでも、決して気持ちのよいものではなかった。


《噴火の発生を確認》


《形成済み流路へのマグマ移動を確認》


《火山内部圧力:低下開始》


(まだだ)


 圧力が下がったからといって、すぐに手を離すわけにはいかない。


 勢いを失ったマグマが途中で固まれば、流路が塞がる。出口を失った圧力が、再び別の場所へ向かうかもしれない。


 俺は流路の温度を保ちながら、岩場の窪地へ流れる量を調整する。


 村側の岩壁へは、さらに圧力を加えた。


 地表へ出たマグマが岩壁を越えようとするたび、窪地の反対側を沈ませて流れを変える。


 疎らに生えていた木々の根が、高熱に呑まれていく。


 古い獣道も、赤い流れの下へ消えた。


(全部を守るのは無理か)


 岩場に生えていた草木まで助けることはできない。


 それでも、村へ続く土地と畑は守れている。


 家々の重みも、古井戸の水も、今までと同じ場所にある。


「カザン様、村側の圧力が低下しております!」


(新しい地脈は?)


「流入量が一定になりつつあります。現在の噴火経路を維持できれば、安定する可能性がございます!」


(よし。このまま抑える)


 時間が経つにつれ、噴き上がるマグマの勢いは弱まっていった。


 赤い火柱は低くなり、岩場へ降り注ぐ石の数も減っていく。


 最後には、窪地へ緩やかに流れ込む赤いマグマだけが残った。


《新規噴火経路の形成を確認》


《火山内部圧力:安定域へ移行》


《新規地脈接続:安定》


《新規放熱口を確認》


(……溜め込んだものを、決めた出口から外へ出したら楽になった)


(噴火って、山にとってのうんこみたいなものなのか?)


(いや、規模が違いすぎるだろ)


 命懸けの噴火を終えた直後に、何を考えているんだ、俺は。


(……終わった、か)


 気を取り直し、火山全体へ意識を広げる。


 浅層ダンジョン。


 採掘区画。


 地下水脈。


 赤い花。


 コア。


 どこにも、すぐ崩れるような損傷はない。


 採掘区画には細かな亀裂が増えているが、利用を再開する前に直せる程度だ。


 次に、村へ意識を向ける。


 一人。


 二人。


 さらに、その向こう。


 温かな命の気配を、一つずつ確かめていく。


 誰も欠けていない。


 家も畑も焼けていない。


 薄い火山灰が積もり始めているだけだ。


(よかった)


 その安堵は、繋がりを通じてフランにも伝わった。


 フランが胸へ片手を当て、俺のコアへ深く頭を下げる。


「かしこみかしこみ、申し上げます。御身を裂きながらも、一人の民も失われぬ道を選ばれた御慈悲、しかと記録いたしました」


(俺まで吹き飛びたくなかっただけだ)


「なお、ご自身の功を誇られぬとは」


(もう、好きに記録してくれ)


「ありがたきお言葉にございます」


(許可したつもりはないんだが)


 フランの背後へ、赤い炎の花が咲いた。


 危機が去ったからか、いつものやり取りへ戻れたことに、俺も少しだけ安心する。


「ぷる……」


 熱を食べすぎたコロが、いつもより重そうに体を揺らしながら近づいてきた。


 中心の炎はまだ大きいが、先ほどより落ち着いている。


 その後ろには、ヴァルもいる。


 黒曜石のような鱗へ細かな岩屑が付いていたが、怪我はない。


(コロ、ヴァル、フラン)


 三人の意識が、俺へ向く。


(助かった。ありがとう)


「ぷる!」


 コロが、疲れていたことも忘れたように跳ねた。


 ヴァルは誇らしげに胸を張り、小さく喉を鳴らす。


 フランは平静を保とうとしていた。


 だが、その背後では、今までで最も大きな炎の花が咲き誇っている。


「カザン様より賜ったお言葉、我が炎へ永遠に刻みます」


(そこまで重く受け止めなくていいぞ)


「それは承服いたしかねます」


(こういう時だけ、はっきり断るんだな)


 山になってから、ずっと一人で自分の身体を守ってきた。


 だが、今回は違った。


 フランが流れを読み。


 コロが熱を食べ。


 ヴァルが二人を守った。


 村ではヒナノが警告を伝え、村長や村人たちが自分たちの命を守るために動いた。


 噴火を導いたのは俺だ。


 それでも、一人だけで守ったわけではない。


(仲間が増えるって、こういうことなのかもな)


 山の中へ満ちた温かな繋がりを感じながら、俺は残った異常がないか確かめていった。


 ◇ ◇ ◇


 空が白み始める頃。


 岩場の窪地を満たしていたマグマは、表面から少しずつ黒く固まり始めていた。


 内部には、まだ高い熱が残っている。


 村人を近づけるには、しばらく時間が必要だろう。


 新たに作られた放熱口からは、細い煙が上がり続けている。火山内部の状態も、ようやく落ち着いていた。


(これなら、すぐにもう一度噴火することはなさそうだな)


 安心しかけた時。


 噴火した岩場の外縁で、地下水の流れが変わった。


(……ん?)


 マグマに押し出された地下水が、岩の隙間を通って地表へ向かっている。


 流れの途中で地熱に温められ、元の地下水よりも高い温度になっていた。


 やがて。


 黒い岩の割れ目から、水が湧き出す。


 同時に、白い湯気が立ち上った。


《地下水脈の変動を確認》


《新たな熱水の湧出を確認》


(噴火したら、今度は湯が湧いたんだが)

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