31.小さな執事の初仕事
フランの報告は、俺が想像していたより、ずっと細かかった。
浅層西側の水路に溜まり始めた土砂。
戦闘空洞を巡る魔力の偏り。
村人たちが露出した鉱石を採ったことで生じた、採掘場所の小さな亀裂。
どれも、今すぐ危険になるものではないらしい。それでも放っておけば水の流れが悪くなり、生成される魔物の強さにも、ばらつきが出る可能性があるという。
(生まれたばかりなのに、よくそこまで分かるな)
「かしこみかしこみ、カザン様の御身に生じた変化を把握し、整えることこそ、私の――」
(フラン、ちょっといいか?)
報告を遮る。
フランは言葉を止め、赤金色の瞳を俺のコアへ向けた。
頭の上には、まだコロが乗っている。
「かしこみかしこみ、何なりとお尋ねくださいませ」
(さっきから言ってる、その『かしこみかしこみ』って、どういう意味なんだ?)
フランは一度、瞬いた。
俺が言葉の意味を知らないとは、考えていなかったらしい。
「『かしこみ』とは、相手を深く畏れ敬うことにございます。それを重ねることで、畏れ多くも身を慎んで申し上げます、という意を表しております」
(ほーん)
意味を聞けば、いかにもフランらしい言葉ではある。
カザン様。
御身。
御心。
生まれてから口にした言葉を聞く限り、こいつの俺に対する評価は、すでに天井を突き破っている。
(意味は分かった。でも、普通の話にまで毎回つけなくていいぞ)
「それは……」
フランの髪先で揺れていた炎が、わずかに小さくなった。
「カザン様へ言葉を申し上げるにあたり、敬意を省くなど、私には到底――」
(いや、禁止するわけじゃない)
命令すれば、やめさせることはできるのだろう。
けれど、生まれたばかりのフランが大切にしているものを、俺の都合だけで取り上げる必要もない。
少し信仰が重いだけで、困るようなことをしたわけでもないのだ。
(重要な報告とか、正式に何かを申し出る時につけてくれればいい。普段の返事にまで、毎回つけなくていいぞ)
フランはしばらく黙っていた。
やがて胸へ片手を当て、深く頭を下げる。
「……かしこみかしこみ、カザン様の御心、謹んで承知いたしました」
(今のは重要だったのか?)
「私の今後すべてに関わる、極めて重要なご下命にございます」
(そうか。なら、しょうがない)
フランの背後で、赤い炎の花が大きく咲いた。
どうやら納得してくれたらしい。
その炎へ興味を持ったコロが、フランの頭から身を乗り出す。
「ぷる……」
「コロ様。そちらは食物ではございません」
「ぷる?」
「赤く燃えておりますが、食物ではございません」
(それで諦めてくれるかな)
コロは炎の花とフランの顔へ交互に体を向け、やがて名残惜しそうに元の位置へ戻った。
話を理解したのかは分からない。
ひとまず、フランから出ている炎を食べることは諦めたようだ。
(それじゃあ、報告にあった場所を見に行くか)
「承知いたしました」
今度は、かしこみかしこみがつかなかった。
(ちゃんと伝わってるな)
フランは、頭へコロを乗せたまま歩き出した。その後ろを、ヴァルが静かについていく。
俺自身が移動する必要はない。
山全体へ意識を広げれば、どこに何があるのか感じ取れる。それでも、フランが問題のある場所へ向かうのに合わせ、俺も意識を動かしていく。
誰かと一緒に、自分の中を巡る。
それは不思議で、少しくすぐったいような感覚だった。
◇ ◇ ◇
フランが足を止めた浅層西側の水路には、確かに細かな土砂が溜まっていた。
量は多くない。
岩の隙間から湧き出した水は、今も浅い溝を通って窪みへ流れている。ただ、曲がり角の一つで流れがわずかに弱くなっていた。
(これくらいなら、すぐ直せるな)
「原因は、入山者の履物や採掘道具から落ちた土砂と思われます。利用者が増えれば、堆積も早まるかと」
(なるほど。作って終わりじゃないわけか)
人が使えば、通路は削れる。
水路には泥が溜まり、鉱石を掘れば石屑も落ちる。俺の体だからといって、何もしなくても綺麗な状態が保たれるわけではないらしい。
(要するに、俺の中の排水溝が詰まりかけてるんだな)
「排水溝、でございますか?」
(前の世界にあったものだ。水と一緒に、泥や細かいゴミを流すための溝だな)
「なるほど。カザン様がかつて過ごされた世界にも、同様の知恵がございましたか」
フランが水路の前へ片膝をつく。
右手の人差し指を岩壁へ向けると、その先から赤金色の火が伸びた。
炎は岩を焼かず、細い線となって壁面へ残っていく。
現在の水路。
水の流れる方向。
土砂が溜まっている曲がり角。
そして、そこから新たな排水先へ繋がる線。
文字とも図ともつかない形だったが、フランとの繋がりを通じ、その意味ははっきりと伝わってきた。
《神火精霊固有技能の発現を確認》
《固有技能:炎文字》
(便利だな、それ)
「カザン様の御身へ印を残す以上、許可なく使用すべきではないかとも考えましたが――」
(壁に書くくらいなら、いちいち確認しなくていいぞ。俺も分かりやすい)
「ありがたきお言葉にございます」
フランの示した場所へ意識を集中させる。
水路の曲がり角を少し広げ、底へ一段深い窪みを作った。流されてきた土砂は、まずここへ沈み、水だけが上側の溝を通って先へ流れる構造だ。
窪みの横には、人間が通れないほど細い排砂路を作る。その先へ小さな空洞を設け、溜まった土砂だけを移せるようにした。
岩盤を削り終えると、淀んでいた水が動き始めた。
細かな砂が窪みへ沈み、澄んだ水だけが次の溝へ流れていく。
続いて、報告されていた採掘場所の亀裂にも意識を伸ばす。
周囲の岩を内側から温め、わずかに膨張させる。亀裂の両側へゆっくりと圧力を加え、そのまま時間をかけて冷やし固めた。
赤く熱を帯びた細い亀裂が閉じ、黒い岩壁が再び一つに繋がる。
「見事にございます。今後はこちらの窪みを定期的に確認することで、主水路の閉塞を防げるものと存じます」
(場所を教えてくれたのはフランだろ)
「私をお生みになり、その働きを御身の営みへ組み込まれたのは、カザン様にございます」
(何をしても俺の功績になるな、これ)
訂正しようとしたが、フランの背後には小さな炎の花が咲いている。
嬉しそうなので、そのままにしておくことにした。
◇ ◇ ◇
続いて、戦闘空洞の魔力を確認する。
火トカゲが倒されるたび、その肉体を形作っていた魔力の大部分は地面へ戻ってくる。
戻った力は浅層を巡り、次の火トカゲを生成する時に再利用される。これまでは問題なく循環していると思っていた。
しかし細かく辿ってみると、戦闘空洞の一角だけ、周囲より熱と魔力が濃くなっている。
(倒された火トカゲの魔力が、ここに集まってるのか?)
「その影響もございます。ですが、それだけではございません」
フランが、先ほどと同じように岩壁へ炎文字を描く。
太い赤色の線が、深層から浅層へ伸びている。
現在、俺が接続している地脈から流れ込む熱と魔力だ。
そこへ、戦闘空洞から戻ってきた複数の細い線が合流する。ここまでは、俺が把握していた流れと変わらない。
だが、空洞の端に、もう一本。
赤金色の細い線が描き足された。
それは既存の流れへ繋がらず、浅層の外へ伸びたところで途切れている。
「こちらの力が、岩盤の細かな隙間を通じて、戦闘空洞へ流入しております」
(今繋がってる地脈とは別なのか?)
「流れの向きと脈動が異なります。ですが、あまりに微弱なため、現時点では正体まで判断いたしかねます」
俺も意識を細く伸ばしてみる。
確かに、今まで感じていた地脈とは違う。
地脈の流れが大地の血管なら、これはどこか遠くから伝わってくる、かすかな鼓動に近かった。
一度感じ取っても、すぐ岩盤の熱へ紛れてしまう。
(ひとまず、ここに溜まらないようにしておくか)
戦闘空洞の床へ、細い魔力の通り道を増やす。
一角へ集まっていた力を空洞全体へ広げ、余った分は既存の循環へ戻るようにした。これで、生成される火トカゲの一部だけが急に強くなる危険は減る。
ただし、外から流れ込んでいる力の正体までは分からない。
(また変化があったら、教えてくれ)
「承知いたしました」
フランは岩壁へ残した炎文字の大半を消し、正体不明の流れを示す細い赤金色の線だけを残した。
それは、この山に記された最初の記録だった。
◇ ◇ ◇
水路と戦闘空洞の確認を終えたフランは、浅層全体へ意識を向けた。
村人たちが使う環状の通路。
鉱石が露出している採取場所。
火トカゲを配置する戦闘空洞。
浅層の最奥には赤い進入禁止線があり、その先は岩壁で塞いである。
何か考えているらしく、フランの眉がわずかに寄った。
(ほかにも問題があるのか?)
「問題と申しますより、一つご提案がございます」
フランは姿勢を正し、俺のコアへ向けて深く頭を下げる。
「かしこみかしこみ、申し上げます。攻略を目的とする者と、資源の採取を目的とする者とでは、利用する通路を分けられてはいかがでしょうか」
(通路を分ける?)
「はい。現在は、魔物との戦いを望む者も、鉱石のみを求める者も、同じ道を使用しております」
村人たちが浅層へ入るようになってから、俺も足音の違いには気づいていた。
槍や弓を持ち、軽い荷物で進む者。
採掘用の槌や袋を持ち、ゆっくり歩く者。
入る時は同じような足取りでも、鉱石を持ち帰る者は、帰りの振動が重くなる。
「鉱石を背負った者は、魔物と遭遇した際の退避が遅れます。また、採掘中の者が通路を塞げば、攻略者の退路を妨げる危険もございます」
(確かにな)
「何より、攻略者と採掘者では、望む危険が異なります」
その言葉に、浅層へ入った村人たちを思い出す。
魔物と戦い、自分を鍛えるために入る者もいる。
だが、鉱石を求める全員が、命懸けの戦いを望んでいるわけではない。
鍛冶師が鉄を欲しがるのは、強さを証明したいからではない。
折れた槍を直すため。
農具を作るため。
壊された家や柵を、以前より丈夫にするためだ。
その材料を持ち帰るためだけに、火を吐くトカゲと戦わせる必要はない。
(採掘だけできる場所を作った方がいい、ってことか)
「ご賢察のとおりにございます」
(いや、提案したのはフランだろ)
「私の考えを一言で理解なされた御慧眼、感服いたしました」
(だから話が大きいって)
俺の言葉を聞き、フランの口元がわずかに緩む。
その背後では、また小さな炎の花が咲いていた。
(でも、いい案だ。作るか、採掘専用の区画)
「はい。微力ながら、お手伝いさせていただきます」
(生まれたばかりで、もう十分働いてると思うけどな)
「カザン様のお役に立つことこそ、私の喜びにございます」
どうやら休ませようとしても、素直には休んでくれそうにない。
(じゃあ、まずは誰もいなくなるまで待とう。人が入ってる時に、通路を動かすわけにはいかないからな)
「承知いたしました」
その日の利用者が全員戻り、村から最後の祈りが届くまで待つ。
浅層から人間の体温と足音が消えた頃、フランが正式に報告した。
「かしこみかしこみ、申し上げます。浅層内部に、入山者の気配はございません」
(よし。始めるか)
◇ ◇ ◇
新しい採掘区画は、既存の洞窟入口をそのまま利用することにした。
入口を増やせば、それだけ俺の内部へ侵入できる場所も増える。そこで外から少し進んだ場所に分岐を作り、一方を攻略用の環状通路、もう一方を魔物のいない採掘専用通路へ繋げる。
俺は地中へ圧力を加え、黒い岩盤をゆっくりと左右へ押し広げた。
ごごご、と低い振動が山の中へ広がる。
地表の村へ大きな揺れが届かないよう、力を一度に加えず、岩盤の負担を別の層へ逃がしていく。
フランは炎文字を使い、地下水の流れや、崩れやすい岩の位置を壁面へ示した。俺はその印を避けながら、少しずつ通路を延ばしていく。
新しく生まれた通路の天井は、攻略区画より少し低い。
槍を振り回す必要はないが、鉱石を背負った大人が屈まずに歩ける高さは確保する。両側には岩柱を残し、天井を緩やかな弧へ整えた。
木材で支えるより、俺の体である岩そのものを柱にした方が強い。
床の端には排水溝を作る。
空気が淀まないよう、人間が通れない細さの通気路を、幾度も折り曲げながら外側へ繋いだ。
さらに奥では、すでに見つけていた赤褐色の鉱脈の一部を露出させる。
鉱石は、無限に湧いてくるわけではない。
一か所だけを掘り続ければ、いずれ採り尽くされる。そこで採掘場所を複数に分け、一度に露出させる鉱石の量を少なくした。
まだ掘られていない場所には、地脈の熱と圧力を少しずつ流しておく。すぐに増えるわけではないが、長い時間をかければ、新しい鉱物が育つ可能性がある。
(使い切って終わりよりは、いいだろ)
「必要な恵みを与えながら、未来の民の分まで残されるとは。カザン様の御心は、時の先にまで及んでおられます」
(採り尽くされたら、俺も困るだけだぞ)
「御身と民の未来を同時に守られていることに、変わりはございません」
(そういうことにしておくか)
否定しても、さらに評価が上がるだけだ。
最近、俺も少しずつ学んできた。
「ぷる!」
露出した鉱石を感じ取ったコロが、フランの頭から飛び降りた。
(待て、コロ!)
しかし俺が止めるより早く、ヴァルが前脚を伸ばす。
鉱石へ飛び込もうとしたコロは、黒い鱗に覆われた前脚へぶつかり、柔らかな体を平たく潰した。
「ぷるっ!?」
潰れた体は、すぐに丸い形へ戻った。
コロは目の前の鉱石と、それを塞ぐヴァルの前脚へ、交互に体を向ける。
「コロ様。こちらは村人の皆様へ残す鉱石にございます」
「ぷる……」
「赤く輝いておりますが、コロ様の御食事ではございません」
コロの中心で燃える炎が、小さくなった。
(お前の分は、別の場所に出してやるから)
「ぷる!」
炎が一気に大きくなり、コロは元気よく跳ねた。
その様子を見ていたフランが、わずかに眉を寄せる。
「カザン様の慈愛に甘え、鉱石を求めすぎてはなりませんよ、コロ様」
「ぷる?」
(まあ、食べすぎないようには気をつけるか)
「ぷるる!」
分かっているのか、いないのか。
コロはヴァルの前脚へ飛び乗ると、そのまま背中へ登っていった。
ヴァルは振り落とそうともせず、採掘区画の奥へ顔を向けている。
(ヴァル、何か気になるのか?)
「グル……」
伝わってくるのは、警戒というほど強い感情ではなかった。
ただ、奥の岩盤から感じる熱が、少し気になるらしい。
(さっきの魔力の偏りと、関係があるのかもしれないな)
俺は作業を続けながら、その熱にも意識を向けておく。
最後に、採掘区画の最奥へ赤い鉱物の線を埋め込んだ。
この先は、まだ村人へ開放しない。
安全を確認し、夢の中でヒナノへ使い方を伝えるまでは、分岐そのものも岩壁で塞いでおく。
《浅層区画の拡張を確認》
《新規区画:採掘区画》
《資源循環経路が形成されました》
(よし。ひとまず完成だな)
攻略区画では、魔物と戦いながら自分を鍛える。
採掘区画では、戦いを避けながら、暮らしに必要な資源を得る。
これなら戦える者だけでなく、鍛冶師や採掘を手伝う村人も、山の恵みを利用できる。
「魔物へ立ち向かう者のみならず、土を耕す者、家を建てる者にまで道を開かれるとは。まこと、カザン様の御慈悲には限りがございません」
(事故が起きにくいように分けただけだ)
「力を持たぬ者へ、無理に勇敢さを求めず、生きる道を与えられました」
俺は、すぐには言い返さなかった。
鉱石を取りに来た村人が、魔物に襲われずに済む。
それで家を直せる。
畑を耕す道具を作れる。
折れた槍を、今度は折れにくいものへ変えられる。
(……まあ、危なくないに越したことはないか)
そう考えた瞬間、フランの背後に、これまでで一番大きな炎の花が咲いた。
(口に出してないのに、何で分かるんだよ)
「カザン様の御心が、たいへん温かく感じられましたので」
(繋がりが強すぎるのも、考えものだな)
それでも、不快ではなかった。
今まで一人で感じ取り、一人で考えていた山の中に、俺の思いを受け取り、言葉を返してくれる存在がいる。
それだけで、自分の中にあった暗い空洞が、少しだけ狭くなったような気がした。
◇ ◇ ◇
完成した採掘区画の状態を、もう一度確かめる。
天井。
岩柱。
排水溝。
通気路。
露出させた鉱脈。
今のところ、大きな問題はない。
ただ、最奥の岩盤だけが、周囲よりわずかに熱い。
ヴァルが気にしていた場所だ。
俺は意識を細く絞り、岩の奥へ伸ばしていく。
幾重にも重なる黒い岩盤。
その間を通る、かすかな熱。
最初は、浅層に残った魔力だと思った。
だが、奥へ進むほど脈動が強くなっていく。
どくん。
地の底から、遠い鼓動が伝わった。
(……これ)
今まで接続していた地脈とは違う。
既存の地脈は、広く、重く、一定の速さで大地の奥を流れている。
目の前にある流れは、それよりも細い。
その代わり、速く、荒々しい。
何かに押し込められているように、岩盤の向こうで何度も強く脈打っている。
コロがヴァルの背中から飛び降りた。
普段のように跳ね回らず、岩壁の前で半透明の体を低くする。中心の炎が、脈動に合わせるように揺れていた。
ヴァルも小さな翼を開き、喉の奥で低く唸る。
フランの髪先から舞っていた火の粉が、一斉に同じ方向へ流れた。
風はない。
それでも炎だけが、岩壁の奥へ引かれている。
フランが、以前描いた炎文字を呼び出す。
戦闘空洞へ流れ込んでいた、細い赤金色の線。
その先へ新たな線が伸び、目の前の岩盤へ繋がった。
「かしこみかしこみ、申し上げます。戦闘空洞へ生じていた魔力の偏流。その源と思われる大地の脈動を確認いたしました」
(やっぱり、これが原因か)
さらに意識を伸ばす。
岩盤の奥にあるのは、地下水でも、マグマの流路でもない。
熱と魔力が、一つの方向へ流れている。
《未接続の地脈を検知しました》
《既存接続部とは異なる流れを確認》
(新しい地脈……)
最初に地脈へ繋がった時、俺の感知範囲と、できることは大きく増えた。
魔物の生成。
鉱石の育成。
聖域や、新しい眷属の誕生。
もう一本へ接続できれば、俺の山はさらに成長するかもしれない。
だが、この流れは今までのものより不安定だった。
「現在も、岩盤の隙間を通じて、少量の力が漏れ出しております」
(このまま放っておいたら、どうなる?)
「浅層への流入が続く可能性がございます。いずれ別の場所へ力が溜まることも考えられますが、正確な予測は困難にございます」
塞げば済むとも限らない。
すでに力は、岩盤の隙間を抜けて浅層まで届いている。出口だけを塞げば、俺の感知できない場所へ流れ込み、そこで圧力を高めるかもしれない。
いつ、どこで岩盤を破るか分からない状態にしておくより、細い流れを作り、自分の管理下へ置いた方がいい。
(繋いでみる)
フランの赤金色の瞳が、わずかに見開かれた。
「すべてを一度に、でございますか?」
(いや。まずは細くだ)
人間が浅層に残っていないことは、すでに確認してある。
接続予定の周囲へ厚い岩壁を重ね、流れを止めるための岩塊も用意する。
余分な魔力を逃がす通路を作り、熱を受け止める空洞も広げた。異常が起きれば、すぐに接続部を潰すつもりだ。
(コロとヴァルは、少し下がってろ)
「ぷる……」
「グル……」
二体は岩壁を気にしながらも、俺の言葉に従って距離を取った。
(フランもだ)
「私は、流れの変化をお伝えいたします」
(危なくなったら、すぐ下がれよ)
「承知いたしました」
止めても残りそうなので、無理に遠ざけることはしなかった。
俺は新しい地脈との間にある岩盤へ、意識を集中させる。
いきなり大きな穴は開けない。
針を通すように、ほんのわずかな隙間だけを作る。
熱と魔力が少しずつ流れ込んでくれば、その量を確かめながら通路を広げるつもりだった。
(ゆっくりだ)
岩盤を削る。
残りは、わずか。
向こう側の脈動が、これまでより強く伝わってくる。
どくん。
最後の薄い岩を削り取った。
その瞬間。
向こう側から、何かに掴まれた。
(なっ――)
俺が作ったのは、針の先ほどの細い通路だった。
だが、新たな地脈から押し寄せた熱と魔力が、その隙間へ一気に流れ込む。
細かったはずの通路が、内側から押し広げられた。
岩盤へ亀裂が走る。
《新たな地脈との接触を確認》
《地脈接続を開始します》
(待て。まだ全部は繋ぐつもりじゃない!)
接続部を閉じるため、用意していた岩塊を動かす。
しかし、押し寄せる力が岩を押し返した。
既存の地脈まで、新たな流れへ応えるように強く脈打つ。二つの流れが俺の山の中で重なり、熱と魔力が急激に膨れ上がった。
「カザン様!」
フランの声から、初めて平静が消えた。
「流入が止まりません!」
浅層の岩壁が震える。
採掘区画の鉱脈が、内側から赤く輝き始めた。
地下水へ一気に熱が流れ込み、複数の場所で細かな泡が生まれる。
深層では、安定していたマグマの流れが大きくうねった。
《警告:流入熱量が許容値を超過》
《火山内部圧力:急上昇》
(いや、待て)
俺は、ほんの少しだけ繋ぐつもりだった。
それなのに、深層へ溜まった熱が行き場を求め、山の上へ向かって動き始めている。
《マグマ流路に変動を確認》
《警告:噴火兆候を確認》
俺の身体の奥で、マグマが火口へ向かって押し上げられた。
火山になってから初めて、自分の体が本気で噴き上がろうとしているのが分かった。
(……まずい)
(俺、噴火する)
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