3.俺の心臓を壊すな
「ぶっ壊そうぜ」
男が剣を振り上げる。
(待て待て待て待て待て!!)
《最重要器官の危機を確認》
だから確認じゃない。助けろ。危機なのは見れば分かる。
《防衛行動を推奨》
(推奨じゃなくて何かしろ!)
お役所仕事か。そんなツッコミを入れている間にも、男の剣は振り下ろされようとしていた。
本気でまずい。
そう思った瞬間、俺は反射的に地中へ意識を伸ばしていた。今の俺に使えるのは熱しかない。とにかく止まれ。それだけを願い、地中を流れる灼熱を押し上げる。
ごうっ!!
洞窟の壁面から猛烈な熱風が噴き出した。
「うおっ!?」
剣を振り下ろそうとしていた男が慌てて飛び退く。刃はコアを掠めることなく空を切った。
(っっう!)
本当に紙一重だった。心臓を包丁で刺されそうになっている人間は、たぶんこんな気分なんだろう。こんな気分を知ることになるとは。できれば知らない日々を過ごしたい。
「なんだ今の!?」
「熱風だ!」
二人が周囲を警戒する。だが、逃げる気配はない。むしろ目の色が変わった。
「やっぱりダンジョンだ!」
「当たりだな!」
(帰れよ!!アポなし訪問お断り!!)
普通は帰るだろ。なんでテンション上がってるんだ。俺なら全力で逃げる。だが盗賊たちは違った。危険より欲が勝っている。
「一気にやるぞ!」
「ああ!」
二人が再びコアへ向かう。
俺は必死に周囲へ意識を巡らせた。何かないのか。使えるもの。守れるもの。
その時だった。
洞窟全体の構造が、感覚として伝わってきた。
ひび割れた岩盤。熱で脆くなった天井。支えを失えば崩れそうな地層。
(……あれ?)
分かる。
なぜか分かる。
そこに少し熱を流し込めばどうなるか。たぶん火山だからだ。
(便利だな火山。いや感心してる場合じゃない)
意識を集中する。
ほんの少し。
本当に、ほんの少しだけ熱を送り込む。
ぱきっ。
小さな音が響いた。
「ん?」
盗賊の一人が顔を上げる。
次の瞬間。
どごぉぉん!!
洞窟全体を揺らす轟音が響いた。
「なっ――」
「うわぁぁっ!?」
天井が崩落した。巨大な岩塊が雨のように降り注ぎ、二人は慌てて逃げようとする。
だが、間に合わなかった。
轟音。
悲鳴。
土煙。
そして、静寂。
(……え?)
俺はしばらく何も考えられなかった。この後の状況を理解したくなかったのかもしれない。
土煙が少しずつ晴れていく。
崩れた岩の下から、人の気配は感じられない。
《侵入者の生命反応消失》
表示は短く、淡々としていた。
(死んだ……?)
返事はない。
けれど分かってしまった。さっきまで喋っていた二人は、もういない。
俺がやった。
殺すつもりなんてなかった。追い払いたかっただけだった。コアを守りたかっただけだった。
でも、結果は変わらない。
(……そうか)
あるはずのない胸の奥が重かった。
人を助けて死んだはずの自分が、今度は人を死なせた。相手が盗賊でも。俺の命を奪おうとしていた相手でも。
気分の良いものではなかった。
しばらく、洞窟の中に沈黙が落ちる。
(でも……止めなかったら、死んでたのは俺だ)
そう言い聞かせる。
完全に納得できたわけじゃない。それでも、受け入れるしかなかった。俺はもう人間じゃない。火山だ。守るものも、守り方も、きっと前とは違う。
(せっかくの新しい命、そう簡単に死んでたまるか!)
《生存意思を確認》
《火山の権能が成長しました》
そう思った瞬間。淡々と告げられた言葉と共に、崩落した岩の向こう側、洞窟のさらに奥から微かな鼓動のようなものを感じた。
どくん。
それは自分の鼓動とは違う。もっと細く、けれど確かに大地の奥を流れている熱と魔力の気配。
《新たな地脈反応を確認》
表示が浮かぶ。
俺はまだ知らない。
この小さな反応が、やがて山を育て、眷属を生み、村を呼び、信仰の始まりへと繋がっていくことを。
ただ、その時の俺に分かったのは一つだけだった。
(……次に誰かが来る前に、ちゃんと守れるようにならないとな)
面倒なことになった。
でも、しょうがない。
ここはもう、俺の山なのだから。
改行の密度を変えてみました。
どちらが読みやすいでしょうか?
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