2.最初の侵入者
森の中を二人の男が歩いていた。
「だから言っただろ。この辺なら鹿くらいいるって」
「いねぇじゃねぇか」
無精髭の男が盛大にため息を吐く。
もう一人の男は気にした様子もない。
「まだ探してねぇだろ」
「だから俺は戻ろうって言ったんだ。団長に見つかったら面倒なんだよ」
「大丈夫だって。干し肉ばっかじゃ飽きるだろ? たまには新鮮な肉が食いたいじゃねぇか」
「俺はお前に付き合わされてるだけなんだが」
「何かあった時に困るから一緒に行くって言ったのお前だろ」
「一人で鹿運んだらもっと遅くなるじゃねぇか!」
「優しいなぁ」
「うるせぇ」
二人は軽口を叩きながら山を登る。
その様子を、俺は見ていた。
(仲良いなこいつら)
盗賊っぽい見た目だったので勝手に殺伐とした連中を想像していたが、案外普通だった。
いや、普通の人間は盗賊なんてやらないのかもしれないが。
そんなことを考えていると、先頭を歩いていた男が足を止めた。
「……おい」
「ん?」
「あれ見ろ」
男が指差した先には、湯気が立ち上っていた。
俺がさっき作った温泉だった。
(あ)
なんだか少し気まずい。
自分が掘った穴を見られた気分である。
二人は警戒しながら近づいていく。
「温泉……か?」
「こんな山の中に?」
「天然じゃねぇのか?」
「だとしても妙だろ」
男がしゃがみ込み、湯に手を入れる。
「温かいな」
「入るか?」
「入るわけねぇだろ」
残念。
少し見てみたかった。
(温泉って見つけたら入りたくならない?)
ならないらしい。
俺だったら入る。
効能とかよくわからないけど、健康になっていく感じがするよね。
二人は周囲を調べ始めた。
すると、温泉の少し先にある岩場で再び足を止める。
「なんだこれ」
「どうした?」
「隙間がある」
岩壁の奥に小さな裂け目が見えた。
人が一人通れるかどうかという程度の幅しかない。
だが、その奥から熱気が漏れていた。
「洞窟か?」
「自然にしては妙だな」
男たちは顔を見合わせる。
そして当然のように入っていった。
(入るの!?)
(温泉には入らないのに!?)
俺は驚いた。
普通知らない洞窟なんて入るだろうか。
俺だったら入らない。
いや、盗賊だからか。
宝とか好きそうだし。
裂け目の先には空洞があった。
広くはない。
だが自然洞窟とも少し違う。
壁のあちこちに赤い鉱石が埋まっている。
熱を帯びた岩肌が薄く光を放っていた。
俺も初めて見る光景だった。
(なんだここ)
俺の中なのか?
俺の中だよな。
なんか思ったよりファンタジーだった。
「おい……」
「なんだ」
「これ、ダンジョンじゃねぇか?」
その言葉に俺も固まる。
(ダンジョン?)
男は周囲を見回している。
「魔力が濃い」
「確かに……」
「しかも形成されたばっかりだ」
もう一人の男も目を見開く。
「おいおいおい」
「当たりか?」
「大当たりだろ」
二人の顔に笑みが浮かぶ。
嫌な笑顔だった。
宝を見つけた人間の顔だ。
(待て待て)
なんか嫌な予感がする。
すごくする。
すると突然、視界の端に表示が現れた。
《火山領域内部を確認》
《ダンジョン形成開始》
(今!?」
いやもっと早く教えてほしかった。
俺、自分がダンジョンだって今知ったんだけど。
説明書とかないの?
大地主なんだから管理会社をつけてくれよ。
そんな俺の困惑を無視するように、男たちは奥へ進んでいく。
そして空洞の最深部。
そこにあったものを見つけた。
「……なんだこれ」
赤く脈打つ結晶。
人の頭ほどの大きさ。
熱を帯びたそれは、生き物のようにゆっくりと脈動していた。
見た瞬間に分かった。
あれは特別なものだ。
そしてなぜか。
あれが傷ついたらまずい気がした。
ものすごくまずい気がした。
そして表示が現れる。
《ダンジョンコアを確認》
《最重要器官》
嫌な予感が確信へ変わった。
(あー……)
理解した。
(俺の心臓かこれ)
男たちも理解したらしい。
「ダンジョンコアだ」
「ああ」
二人の顔に興奮が浮かぶ。
俺の顔色は青ざめていた。
顔はないんだけどね。、
「売れば大金だな」
「いや」
もう一人が剣を抜いた。
「壊した方が早い」
(ん?)
「ダンジョン攻略扱いになる」
(んん?)
「報酬も出る」
(ちょーーーっと待て)
男は剣先を結晶へ向ける。
「どうせできたばっかの雑魚ダンジョンだ」
「それもそうだな」
やめろ。
ものすごく嫌な予感がする。
たぶんそれ俺だ。
(絶対!俺だよね!?)
だが二人は気付かない。
目の前のダンジョンが生きていることに。
剣がゆっくりと振り上げられる。
「ぶっ壊そうぜ」
(待て待て待て待て待て!!)
《最重要器官の危機を確認》
人生どころか火山生まで終わる気がした。
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