1. 火山転生
熱っ!
意識が浮かび上がるより先に、それを感じた。焼けるような熱ではない。むしろ逆だ。
その熱は自分自身の一部だった。
どくん。
どくん。
巨大な鼓動が響いている。
心臓の音ではない。もっと大きく、もっと深い場所から伝わってくる振動だった。
(……生きてるのか?)
目が開かない。
手も足も動かない。
というか、体そのものの感覚がおかしい。
(いや待て。なんだこれ)
焦りながら周囲を見ようとしてーー見えた
森、川、岩場。遠くに連なる山々と空を流れる雲。
高い場所から世界を見下ろしているような感覚だった。
(……夢か?)
夢にしては妙にリアルだ。
頬をつねろうとして、そこで気付く。
頬がない。
(終わったな)
人生どころか、種族まで終わった気がする。
その時、頭の中に機械的な声が響く。
《個体認証完了》
《管理システム起動》
《種族:火山 名称:未設定》
数秒、思考が停止した。
(火山?)
《種族:火山》
(火山!?)
聞き間違いではなかった。
俺はーー
火山になっていた。
人間でもない。
魔物でもない。
ドラゴンでもない。
火山だった。
(いや普通もっとあるだろ……)
転生といえば勇者とか賢者とか、せめてスライムだ。
なぜ火山なのか。
選考基準を聞きたい。
できれば苦情も入れたい。
(まあ……なったものは仕方ないか)
意外なほど冷静に受け入れている自分がいた。
死んだことは事実だ。
そして今も意識はある。
なら嘆いていても始まらない。
いや…見方を変えればかなりいいかも?
(大地主だこれ)
広大な土地を手に入れるどころかそのものになってしまったな。
(ガハハ、勝ったな)
と、そんなことを思ったところで活用する術がないんだけどな。
そういったレベルの文明があるかもわからないし。
ポジティブポジティブ。
とりあえず、自分に何ができるのか調べるべきだろう。
意識を地中へ向ける。
すると、熱の流れがはっきりと感じ取れた。
まるで血管だ。
灼熱の液体が大地の奥を巡っている。
(これ、動かせるのか?)
試しに押してみる。
ほんの少し。
ほんの少しだけ。
ごうっ。
山肌の一角から白い蒸気が噴き上がった。
(うおっ!?)
自分でやっておいて驚いた。
積もっていた雪が溶ける。
湯気が立ち上る。
やがてそこには小さな湯だまりができていた。
(温泉かこれ)
どうやら熱を操れるらしい。
もう一度試してみる。
熱を送る。
蒸気が増える。
止める。
蒸気が弱まる。
(おお……)
少しだけ感動した。
手も足もない。
歩けない。
だが何もできないわけではなかった。
むしろ普通の人間にはできないことができる。
火山らしいことしかできないが。
(いや、火山らしいことってなんだよ)
自分で考えて少し笑った。
火山一年生なので分からない。
そんなことを考えていると、新たな表示が現れた。
《火山領域を確認》
(火山領域?)
意味は分からない。
(この大地主様の土地の範囲か?どれどれ見せたまえよ)
だが、その瞬間だった。
森の一角に違和感を覚えた。
何かが動いている。
意識を向ける。
人間だった。
二人組の男が山へ向かって歩いている。
革鎧に剣。
無精髭。
あまり品の良さそうな格好ではない。
「だから言っただろ。この辺なら鹿くらいいるって」
「お前な……。団長に見つかったら絶対怒鳴られるぞ」
「平気平気。干し肉ばっか食わされてるんだ。たまには新鮮な肉が食いたいだろ?」
「俺は付き合わされてるだけなんだが」
「一人で行くなって言ったのお前だろ」
「仕留めた肉を一人で運びたかったみたいだな?」
「へいへーい。すみませーん。」
二人は軽口を叩きながら森を進む。
どうやら仲間同士らしい。
その足取りに緊張感はない。
狩りに来たのだろう。
だが気になることが一つあった。
なぜか、その二人の位置が妙にはっきり分かる。
距離。
方向。
動き。
全てが感覚として伝わってくる。
まるで自分の縄張りの中にいる生き物を感じているような感覚だった。
すると再び表示が現れる。
《生命反応:二》
《火山領域へ侵入》
(侵入?)
狩りしてるだけじゃないのか。
そんな物騒な言い方をしなくてもいいだろう。
だが表示は変わらない。
侵入。
その文字を見た瞬間、不思議な感覚が胸をよぎった。
あの二人が、自分の領域に入ってきた。
ただそれだけのことなのに、妙に気になる。
嫌な予感がした。
根拠はない。
だがこういう予感は大抵当たる。
(……なんか面倒なことになりそうだな)
二人の男は何も知らないまま山へ近づいてくる。
そして主人公もまだ知らない。
この出会いが、火山としての最初の試練になることを。
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