14.盗賊団壊滅
《臨界到達》
赤い文字が視界に浮かぶ。
次の瞬間、洞窟全体が激しく脈打った。
どくん。
どくん。
どくん。
鼓動のたびに温度が跳ね上がっていく。壁に埋まった鉱石が真紅に染まり、岩肌がじりじりと焼け始める。空気そのものが熱を持ち、景色が揺らいだ。
(コロは……)
吹き飛ばされた先へ意識を向ける。
小さな赤橙色の体が、岩陰でかすかに震えていた。中心の炎は弱いが、消えてはいない。
(……大丈夫、生きてるな)
その確認だけで、胸の奥にわずかな安堵が生まれる。
だが、次の瞬間には怒りが全てを飲み込んだ。
洞窟の温度が、さらに上がり、岩壁が赤熱し始めた。
盗賊たちの顔色が変わる。
「熱っ……!」
「空気が……!」
ガレスだけは状況を即座に理解した。
「総員、撤退!!」
怒声が響く。
「走れぇぇ!!」
だが、もう遅い。
ごうっ――!!
洞窟の左右の壁が同時に爆ぜた。
赤熱したマグマが、濁流のような勢いで噴き出す。今までの熱風とは比較にならない。災害そのものだった。
「うわああああっ!!」
一人が飲まれる。
悲鳴は一瞬で途切れた。
続けて二人、三人。
逃げる間など与えない。
《侵入者の生命反応消失:三》
残り四人。
だが全員が理解していた。ここから全員で生きて出るのは不可能だと。
斧使いの男が、ガレスの前へ立つ。
「団長、行ってください」
ガレスが目を見開いた。
「ふざけるな」
「ふざけてません」
男は笑った。
「ここで全滅したら、誰も伝えられない」
弓兵も前へ出る。
「俺たちじゃ無理です」
「でも団長なら、生きて帰れる」
「やめろ……!」
ガレスの声が震える。
剣士の一人が叫んだ。
「俺たちは、あんたに拾われたんだ!!」
洞窟が揺れ、マグマが迫る。
それでも男たちは退かない。
「生きる場所をくれた!」
「飯もくれた!」
「見捨てなかった!」
誰も逃げない。
全員が、ガレスを見ていた。
「最後くらい、守らせてください」
ガレスの顔が歪み、歯を食いしばる。
片腕は動かず、全身傷だらけだ。
それでも、仲間を置いていけない。
「団長ォォォ!!」
最後の男が絶叫した。
「行けぇぇぇぇぇぇぇ!!!!」
その瞬間。
マグマが来る。
四人が一斉に前へ出てガレスを守り、迫る災害に立ち向かう。
「うおおおおおお!!」
叫びとともに、赤い濁流が全てを飲み込んだ。
《侵入者の生命反応消失:四》
残るは、ガレス一人。
(……)
胸が重い。
だが止まらない。
止まれない。
ガレスが血の滲む目でこちらを睨んだ。
怒りでも、憎しみでもない。
ただ、目に焼きつけていた。
この山の恐ろしさを。
「っ……!」
ガレスが走る。
出口へ向かって。
最後のマグマが背後から迫る。
ガレスは片腕で大剣を掴んだ。
振り向く。
迫る災害に、最後の抵抗を見せる。
「ぉぉぉおおおおお!!」
剣を叩きつける。
轟音。
衝撃。
だが防ぎきれない。
マグマが刀身を飲み込む。
じゅううううう……。
分厚い鋼が、赤熱する。
刀身が溶け、崩れる。
大剣は半ばからぐにゃりと曲がり、溶解していった。
(……!)
ガレスの象徴が壊れる。
それでも。
その一瞬が、生死を分けた。
ガレスは崩れ落ちながら、出口へ転がり出る。
洞窟の外。
冷たく雪混じりの風。
そのまま地面へ倒れ込んだ。
背後で、山が唸る。
ごううううう……。
火山全体が赤く輝いていた。
山頂から噴煙が立ち昇る。
まるで巨大な生物が、怒りの咆哮を上げているようだった。
ガレスは震える体で振り返る。
焼け焦げた手には、溶けかけた大剣だけが残っていた。
仲間は誰もいない。
生き残ったのは、自分だけだった。
唇が震える。
「あれは……災害だ」
かすれた声が漏れる。
だが、すぐに首を振る。
「……いや」
血を吐きながら、ガレスは火山を見上げた。
その目に刻まれたのは、恐怖だった。
「あれは、ただの災害じゃねぇ」
震える声で、確信を口にする。
「生きている」
そして、ガレス・ヴォルグは知った。
世界で最初に。
この火山が、意思を持つ災厄であることを。
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