13.逆鱗
どごぉぉん!!
ガレスの巨体が洞窟の壁に激突した。
岩壁が砕け、衝撃で周囲に亀裂が走る。そのまま半ば埋まるように壁へめり込み、ようやく動きが止まった。
「団長!!」
盗賊たちの悲鳴が響く。
土煙が舞う。
やがて、その中から鈍い音が聞こえた。
ごとっ。
大剣が地面に落ちる。
ガレスの右腕が、不自然な方向へ曲がっていた。
(折れた……!)
肩から先が完全に死んでいる。
ぶらりと垂れ下がり、指一本動いていない。
片腕はもう使えない。
(今だ……!)
俺の中で迷いなく判断が下る。
(ここでたたみかける!!)
今を逃せば、また立ち上がる。
この男はそういう化け物だ。
俺は即座に熱を巡らせた。洞窟全体に走る熱流が、一気にガレスのいる場所へ集まる。
天井に亀裂が走る。
壁が赤熱する。
地面の下でマグマが唸る。
全部まとめて叩き込む。
その時だった。
「……っ、がはっ」
土煙の中から血を吐く音がした。
ガレスが、立った。
(は!?)
左腕だけで壁を押し、無理やり体を引き剥がしている。口元から血を流し、服は焼け焦げ、全身傷だらけ。それでも、その目だけは死んでいなかった。
(まだ立つのかよ!!)
化け物か。
だがその動きは、さっきまでとは明らかに違う。遅い。重い。片腕を失った影響は大きかった。
その間に、コロの体がしゅるしゅると縮み始める。
巨大化が解除されていく。
ぷしゅうう……。
数秒で元の手のひらサイズに戻った。
「ぷ……」
炎が小さい。
さっきまで元気に揺れていた炎が、今はか細く震えていた。
(コロ!?)
コロがふらりとよろける。
慌てて熱を送るが、反応が鈍い。
(大丈夫か!?)
「ぷる……」
弱々しい返事だった。
胸の奥がざわつく。
さっきまでただの眷属だと思っていた。
こいつはもう、そんな存在じゃない。
俺のことを守ったんだ、命を張って。
ガレスが荒い息を吐きながら、こちらを見た。
その視線が、コロ、コア、そして洞窟全体をゆっくりと繋いでいく。
「……そういうことか」
低い声だった。
「山が生きてるんじゃねぇ」
血を吐きながら、ガレスは笑った。
「お前が、生きてるんだな」
(……っ)
見抜かれた。
ガレスは確信していた。
この山には意思がある。
この山には心臓がある。
この山は、生きている。
「団長!!」
部下たちが駆け寄る。
全員満身創痍だった。
だが、その目はまだ折れていない。
「道を開けろ」
ガレスが低く言った。
「俺が終わらせる」
部下たちが息を呑む。
次の瞬間。
七人が一斉に動いた。
弓兵が矢を放つ。
剣士が突撃する。
斧使いが前へ出る。
盗賊団、最後の総力戦だった。
(くっ……!)
全方向から来る。
迎撃が追いつかない。
落盤で一人止める。
熱風で二人足止め。
だが全部は無理だ。
一本の矢が、コアを避けるように軌道を変えた。
狙いは――コロ。
(まずい!!)
「ぷるっ!?」
矢がコロの体を貫いた。
小さな体が吹き飛ぶ。
岩肌へ叩きつけられた。
「ぷる……」
炎が、弱々しく揺れた。
その瞬間。
何かが切れた。
(……おい)
低い声が、自分の中で響く。
洞窟全体の熱が止まる。
一瞬の静寂。
誰もが異変を感じた。
(コロに)
どくん。
山の奥で、巨大な鼓動が鳴る。
熱が、怒りに変わる。
(触るな)
地面が震え、壁が赤く染まる。
洞窟全体が、真紅に発光し始める。
盗賊たちの顔が凍りついた。
「なんだ……?」
「おい、まずいぞ……」
ガレスの表情も変わる。
「全員下がれ!!」
だが、遅い。
俺の中で、感情が爆ぜた。
(俺の仲間に)
熱が暴れる。
マグマが咆哮する。
火山そのものが怒り狂う。
(触るなぁぁぁぁぁぁぁ!!!!)
《臨海到達》
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