12.火山の心臓
ガレスの視線が、洞窟のさらに奥へ向いた。
赤く脈打つ光。
暗い空間の中で、それだけが異様な存在感を放っていた。まるで生き物の心臓のように、どくん、どくんと一定のリズムで脈動している。
熱を帯びた結晶。
俺のコア。
(まずい)
背筋が凍った気がした。
ガレスの目が細くなる。
「……あれか」
確信に満ちていた。
部下たちも奥の光に気づく。
「あれ……なんだ?」
「団長、あれが……?」
ガレスは赤い結晶を睨み据えたまま口を開く。
「あそこだ」
短い一言。
「あれが、この山の中心だ」
(やばいやばいやばい!!)
完全にバレた。
まずいなんてもんじゃない。
ガレスの視線が鋭くなる。
「あれを壊せば終わる」
洞窟の空気が張り詰めた。
部下の一人が息を呑む。
「じゃあ、俺たちで――」
「いや」
ガレスが遮った。
「俺が行く」
全員が目を見開く。
「団長!?」
「何言ってる!」
当然、反対の声が上がる。
「ふざけんな!」
「団長を一人で行かせるか!」
だがガレスは振り返らない。
視線はコアだけを見ていた。
「お前らは退路を確保しろ」
「でも――」
「行け!!」
怒声が洞窟を震わせた。
部下たちが息を呑む。
初めてだった。
この男が、ここまで感情を露わにするのは。
「ここで全滅したら意味がねぇ!」
焼け焦げた服から煙が立ち上っている。赤く爛れた腕からは痛みが走っているはずだ。それでも、ガレスの目は死んでいなかった。
「誰か一人でも生きて帰れ」
低い声だった。
「この山のことを伝えろ」
部下たちの顔が歪む。
これは命令だ。
団長は、自分を捨てるつもりだ。
(なんでそこまで……)
嫌になるほど理解できた。
守ろうとしているんだ。
こいつも。
仲間を。
ガレスが踏み込む。
爆発的な加速だった。
地面が砕け、大柄な体が信じられない速度でコアへ向かう。
(速すぎる!!)
今までで最速だった。
俺は反射的に迎撃し天井を崩す。
轟音とともに岩塊が落下する。
だが、ガレスは止まらない。
大剣が唸る。
轟ッ!!
振り抜かれた一撃で巨大岩が粉砕された。
破片が飛び散る中、体を切り裂きそのまま突っ込んでくる。
(嘘だろ!?)
左壁から灼熱が吹き荒れる。
だがガレスは身を低くし、最小限の動きで突破した。服がさらに焼け、肩口が弾ける。それでも止まらない。
(止まれ!!)
マグマを流す。
赤い激流が進路を塞ぐ。
ガレスが飛んだ。
マグマを飛び越える。
(なんだそれは!?)
化け物かこいつ。
コアまで、あと数歩。
間に合わない。
砕かれる。
そう思った瞬間だった。
「ぷるるるるるるっ!!」
コロが飛び出した。
(コロ!?)
小さな体で、俺の前へ。
コアとガレスの間に立つ。
ガレスが一瞬目を見開いた。
(魔物……?)
だが止まらない。
剣が振り下ろされる。
その瞬間。
コロの体が膨らんだ。
ぷくっ。
さらに膨らむ。
ぷくくくくっ!!
一瞬だった。
手のひらサイズの小さなスライムが、巨大な球体へと変貌する。赤橙色の半透明な体が大きく膨れ上がり、コア全体を覆い隠した。
(でっか!?)
ガレスの剣がコロへ直撃する。
だが、斬れない。
刺さらない。
ずぶっ。
刀身がコロの体に沈み込んだ。
柔らかく、底がない。
剣圧も衝撃も、全て吸収されていく。
ガレスの目が大きく見開かれた。
(腕が……沈むっ!?)
次の瞬間。
ぼよんっっっ!!!
圧縮されていた衝撃が、一気に解放された。
「ぐっ――!?」
ガレスの巨体が大剣ごと吹き飛ぶ。
どごぉぉん!!
壁に激突し、そのままめり込む。
「団長!!」
「なんだ今の!?」
盗賊たちが絶句する。
コロは着地した。
ぷるぷると大きく揺れながら、少しふらつくが倒れずコアの前に、立っていた。
「ぷるっ!!」
誇らしげだった。
俺は完全に固まっていた。
(……え?)
数秒、思考停止。
そして。
(コロおおおおおおおおお!?)
何した今!?
何その能力!?
いやそんなことより――
守った。
コロが、俺を守った。
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