11. 迎撃
ドンッッ――!!
洞窟全体が大きく揺れた。
地面が震え、壁が軋み、天井から砂や小石がぱらぱらと落ちてくる。洞窟内の温度が一気に上昇し、空気そのものが熱を帯びていくのが分かった。壁に埋まった赤い鉱石も一斉に赤く輝き始め、まるで山そのものが鼓動しているように明滅している。
「な、なんだ!?」
「揺れてるぞ!」
盗賊たちの顔色が変わる。
《火山領域・防衛機構起動》
(そんな機能あったんだ!?)
初めて見る表示だった。
山全体を巡る熱が、一つの意思を持ったように動き始める。どこに熱が集まり、どこから噴き出すのか、全部感覚として伝わってきた。
(うわ……)
俺がやっている。
いや、違う。山そのものが俺の覚悟に応えて、本気で侵入者を排除しようとしていた。
ガレスが低く唸る。
「総員、撤退準備」
部下たちが息を呑んだ。
「団長!?」
「帰るのか!?」
ガレスは洞窟全体を鋭く睨みつけていた。壁、地面、天井、その全てを高速で確認している。異常の兆候を一つも見逃さないために。
「ここはまずい」
低い声だった。
「仲間を見つけられなくても、ここにいれば全員死ぬ」
空気が凍りつく。
部下たちにも分かった。団長が、本気で危険だと判断したのだと。
ガレスは歯を食いしばる。本当は戻りたくない。消えた仲間を置いていきたくない。ここで引けば、死んだ仲間たちの命は無駄になる。
それでも、長年の経験が叫んでいた。
(ここで全滅すれば終わる)
この山にいてはいけない。これは人が挑んでいい相手じゃない。
「全員生きて帰るぞ!!」
怒声が洞窟に響く。
「走れ!!」
その瞬間だった。
ごうっ!!
右側の壁が爆ぜた。
亀裂の奥から灼熱のマグマが激流となって噴き出す。赤く流動する液体が岩肌を溶かしながら一気に洞窟へ流れ込んだ。
「うわあああっ!!」
二人が巻き込まれた。
一瞬だった。悲鳴すら最後まで続かなかった。鎧が焼け、肉が灼け、命が呑み込まれる。
《侵入者の生命反応消失:二》
(……っ)
また二人。
残り七人。
だが、終わらない。
天井に無数の亀裂が走った。細い線が一瞬で広がり、嫌な音が連鎖する。
ぱきっ。
ぱきぱきっ。
「まだ来るぞ!!」
ガレスが叫んだ。
直後。
どごぉぉん!!
巨大な岩塊が降り注いだ。
「散れ!!」
盗賊たちが飛び退く。だが一人、足がもつれた。
「しまっ――」
間に合わない。
その瞬間、ガレスが動いた。
一歩踏み込む。
地面を砕くような踏み込みだった。大柄な体からは想像できない速度で距離を詰める。両手で握った大剣が唸りを上げた。
轟ッ!!
振り抜かれた一撃が、落下してきた巨大岩を正面から叩き砕く。
硬い岩がまるで脆い氷のように砕け散った。破片が周囲へ弾け飛び、激しい衝撃音が洞窟に響く。
「走れ!!」
男は転がるように退避した。
間一髪だった。
(強っ……!)
思わず息を呑む。
なんだ今の。
人間の力か?
だが次の瞬間、左壁から超高温の熱風が噴き出した。
至近距離。
避けきれない。
ガレスの目が鋭く細まる。瞬時に判断した。
避けられないなら、防ぐ。
大剣を盾のように構える。
ごおおおおっ!!
灼熱が直撃した。
熱波が洞窟を薙ぎ払う。岩肌すら赤く染まり、空気が歪む。部下たちが顔を庇いながら悲鳴を上げた。
「団長!!」
熱風が収まる。
そこにいたガレスは片膝をついていた。
大剣の刀身は赤熱し、金属がじりじりと焼ける音を立てている。握る手から煙が上がっていた。服の袖は焼け焦げ、肩口から胸元にかけて黒く焦げている。露出した腕の皮膚は赤く爛れ、熱傷の跡が痛々しく浮かび上がっていた。
普通なら、立てない。
それでも。
ガレスは荒い息を吐きながら立ち上がった。
「……止まるな」
低い声だった。
「走れ」
その姿に、部下たちの顔が引き締まる。
(なんなんだ、この男……)
強い。
強すぎる。
だがそれ以上に、絶対に仲間を見捨てない。その執念が恐ろしかった。
ガレスが火山を睨む。
鋭い目に恐怖はない。
あるのは確信だった。
「これは災害だ」
低く呟く。
次いで、静かに言った。
「……いや、違う。ただの災害じゃねぇ」
大剣を握る手に力がこもる。
「意思がある」
(……っ)
見抜かれた。
ガレスは確信していた。この山は生きている。そして、自分たちを殺そうとしている。
コロが震える。
「ぷる……」
俺も息を呑んだ。
まずい。
この男は、想像以上に危険だ。
その時、ガレスの視線が洞窟のさらに奥へ向いた。
赤く脈打つ光。
俺のコアがある方向だった。
(まずい)
背筋が凍った気がした。
この男、気づく。
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