10.覚悟
どくん。
どくん。
山の奥深くで、巨大な熱が脈動していた。
今まで感じていたマグマや地脈とは明らかに違う。もっと重く、もっと濃い。山そのものが秘めている力の塊だった。
(なんだ、これ……)
俺が戸惑う一方で、ガレスたちは止まらない。
熱風で二人失った今も、誰一人崩れていなかった。
ガレスが静かに周囲を見渡す。
「……近いぞ」
部下たちが武器を握り直す。
「団長、どうする」
「決まってる」
ガレスは迷わなかった。
「進む」
短い言葉だった。
だが、その声に恐怖はない。あるのは覚悟だけだった。
「ここで引いても何も解決しねぇ。仲間を殺した何かがいるなら、確かめるしかない」
部下たちは無言で頷いた。
誰も逃げたいとは言わない。
誰も仲間の死を無駄にしたくないのだ。
(……なんなんだよ)
盗賊なんだろ。
もっと自分勝手で、もっと欲にまみれた連中だと思っていた。
でも違う。
少なくとも、この団長は違う。
仲間を守ろうとしている。
誰一人見捨てない。
その姿は、嫌になるほど真っ直ぐだった。
(前の俺なら、助けたいと思ったかもしれない)
放っておけなかったかもしれない。
そういう連中だった。
だが。
コロが小さく震えていた。
「ぷ……」
炎が弱々しく揺れている。
その姿を見た瞬間、嫌な未来が頭をよぎった。
ガレスたちがコアへ辿り着く。
剣が振り下ろされる。
コアが砕ける。
山が壊れる。
コロが消える。
全部、終わる。
(……っ)
さらに、その先まで見えてしまった。
もしこいつらを生かして帰したら、この山の情報が広まるだろう。
山の異常さと、ダンジョンコアにも気づかれてしまうだろう。
次に来るのは盗賊団じゃない。
冒険者や騎士団などが来て、さらに危険と判断される。
そうなると相手は国かもしれない。
もっと強く、もっと多く。
今度こそ、終わる。
(だめだ)
理解した。
ここで止めなければならない。
ガレスが悪人かどうかなんて関係ない。
事情があるかどうかも関係ない。
ここで帰せば、俺だけじゃなく殺しても死ぬ。
この先、生まれる仲間も。
この山の未来も全部消える。
コロが俺を見上げた。
「ぷる……」
不安そうだった。
でも、その小さな瞳は俺を信じていた。
守ってくれると信じていた。
(……ああ)
胸の奥で、何かが静かに固まり迷いが消えてゆく。
これは殺意じゃなく怒りでもない。
覚悟だ。
(守る)
コロを守る。
この山を守る。
ここから生まれる全部を守る。
そのためなら――
(帰すわけにはいかない)
覚悟を決めろ。
迷うな。
守りたいなら、もう躊躇するな。
(今ここで!)
熱が唸る。
(この瞬間に!)
山全体が震える。
(俺は覚悟を決めたぞ!!)
俺は意識を、山の奥深くに眠る巨大な熱へ伸ばした。
触れた瞬間、火山全体が震えた。
ドンッッ!
熱が唸る。
大地が震える。
洞窟全体が低く唸り始めた。
ガレスの顔色が変わる。
「……まずい」
大剣を握る手に力が入った。
「総員――退避しろ!!」
怒声が洞窟に響く。
だが、遅い。
山の奥で、災害そのものが目を覚ました。
火山が、本気で侵入者を排除する。
(悪いが…生きて帰すことはできない)
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