9.熱風
コロが見つめる先、左壁の奥で灼熱が脈打っていた。
細い亀裂の向こう。圧縮された高熱の流れ。マグマだ。
(使える)
俺は意識を集中させた。ほんの少しだけ壁を押し、流れをずらして出口を作る。
盗賊団がさらに一歩踏み込む。先頭のガレスは剣先ひとつ揺らさず、土煙の向こうを鋭く見据えていた。
「団長、進むのか?」
「……進む」
短く答えたあと、ガレスは即座に指示を飛ばす。
「隊列変更だ。前衛三、中衛四、後衛四。間隔を取れ。頭上、足元、壁面、全部警戒しろ」
(えっ)
思わず固まった。
さっきの崩落を見て、もう対応してきた。密集すればまとめてやられると理解している。
(対応早すぎない?)
部下たちも迷わない。指示が飛んだ瞬間、全員が配置を変えた。
ただの盗賊じゃない。統率された戦闘集団だ。
(聞いてないって、こんな精鋭集団)
ガレスが一歩踏み込む。
今だ。
俺は左壁へ熱を流し込んだ。
ごうっ!!
轟音とともに、壁の亀裂から超高温の熱風が噴き出した。
「来るぞ!!」
(はっ!?)
気付いた!?
岩すら焼ける灼熱が、洞窟内を一気に吹き抜ける。
「散開!! 壁から離れろ!!」
ガレスの怒声で全員が動いた。
速い。
だが、今回は間に合わない。
「ぐあぁぁっ!!」
「熱っ!!」
二人が熱風に飲まれ、そのまま絶叫とともに倒れ込んだ。皮膚が焼け、鎧が赤く変色している。
《侵入者の生命反応消失:二》
(……っ)
また二人死んだ。
胸が重い。
だが止まれない。
「怪我人を下げろ! 前衛維持!」
混乱しかけた空気を、ガレスの声が一瞬で立て直す。
恐怖で崩れない。
むしろ統率が増していた。
(なんだこいつら……)
ガレスが熱風の吹き出した壁を睨む。
「……そういうことか」
低い声だった。
だが、その一言で空気が変わった。
ガレスが大剣を構える。
「この山は生きている」
洞窟が静まり返った。
「団長……何言ってる」
「見ただろ」
ガレスの目は壁を見ていた。
「崩落も熱風も偶然じゃねぇ。俺たちを狙っている」
(バレた!?)
心臓が跳ねる。
ガレスの鋭い視線が洞窟全体を射抜いた。
「敵はこの山そのものだ」
部下たちの顔が強張る。
当然だ。山が敵など普通なら信じない。
だがガレスの声に迷いはなかった。
「慌てるな」
低い声が響く。
「相手が何だろうと関係ねぇ。殺される前に、生きて帰るぞ」
その言葉で、部下たちの目が変わった。
恐怖が消えたわけじゃない。
それでも覚悟が宿る。
強い。
戦闘力だけじゃない。人をまとめる力もある。
極限でも仲間を折らせない統率力が、この男にはあった。
(なんなんだ、この団長……)
厄介なんてもんじゃない。
下手をすれば、ここまで来る。
コアまで。
ガレスがゆっくり一歩踏み出した。
「いるんだろ」
低い声が洞窟に響く。
「姿を見せろ」
当然、返事はない。
沈黙だけが流れる。
「……なら、こっちから行く」
その瞬間、コロが大きく震えた。
「ぷるっ!!」
炎が激しく揺れる。
(どうした!?)
コロが見ていたのは洞窟のさらに奥。
そこから、今までとは比べものにならない巨大な熱が脈動していた。
どくん。
どくん。
(……なんだ、これ)
嫌な予感と、巨大な力の気配。
山の奥深くで、何かが目を覚まそうとしていた。
次の一手は、今までとは次元が違う。
火山の真の恐怖が、牙を剥こうとしていた。
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