称号へ
自分でも「数学の天才」までとはいかなくても、「数学が出来る」とは思っていた
しかし2回目のテストの後、いざ少し数学的思考が必要な問題に足を踏み入れた途端にその自信はポロポロと崩れていった。その感覚は俺の背筋を不気味な手つきでなで、俺に「みんなの俺を見る目が変わってしまう」という焦燥を与えた。そういった焦りを感じたのは、俺が周りの目を気にしてしまうタイプの平凡で矮小な人間だからだ
そしてついに、俺の周りの人達に別に俺が天才なんかじゃない、という事が露呈したのは4回目のテストの後だった
周りの人たちは決して言葉には出さない。でも、自分への対応が明らかに変化したように感じたのだ。例えば先生は、俺に話を前ほど振らないようになったと感じたし、親は、俺に勉学に関する期待をしなくなったように感じたし、友達は、以前ほど俺と話さなくなったように感じた
きっと俺への対応は以前とさほど変わっていないのだろう。しかし、俺の頭は強迫観念のようにそういう想像をしてしまう。そして勝手に憂鬱な気分を味わうのだ
だから、周りに一瞬でも「天才だ」と言われたくもないし、思って欲しくもないのだ。俺が天才じゃないってことがばれた時、憂鬱な気分を味わう羽目になるから
何はともあれ、もう今回のことはどうしようもできない。俺は両親に「魔法の才能がある」というレッテルを張られたわけだ。俺には2つの選択肢がある。そのレッテルを徐々に徐々に俺が憂鬱さを感じない程度にはがしていくか、それとも、そのレッテルが自分の称号となるように必死に努力するかだ
俺は前世で周りの誘惑に負け、楽な方へと体を委ねていた。でもこの世界で、今のところ最も俺を誘惑するものは魔法だ。それなら魔法に取り組む過程は苦ではない
とりあえず自分の可能性を信じて頑張ってみよう。あんまり期待してないけど、この体が本当に才能を持った体だという可能性もあるしね
「じゃあ父さん、母さん、魔法頑張ってみるね」
俺は強く決心しその日を終えた
翌朝、
「痛って~!!!!」
俺は起床してすぐに全身をスプーンで無理やりえぐろうとしているかのような激痛に襲われた。あまりの痛さに思わず叫んでしまった。
「おんぎゃー!!」
「シュン大丈夫?」
俺の横で寝ていたフランは俺の叫び声で驚いて起きてしまったようで、泣き声をあげる
そして、朝ご飯にするキャベツによく似た野菜であるキャベピーを切っていたメアリは、慌てて俺のもとへ駆け寄ってくる
「母さん、全身が痛いよ」
俺は顔を苦痛で歪め、必死に痛みを訴えかける
「ちょっと待っててね。薬草を持ってくるから。」
「うん」
「フランちゃん~大丈夫だからね~」
メアリはフランを再び寝かしつけてから、家にストックしてあるのであろう薬草を取りに行った。しかし、しばらくしても「がそごそ」という音が聞こえてくるだけで「あった」という歓喜の言葉が聞こえてこない
俺は永遠に続くかのように思える痛みと、薬草をいつまでも見つけてくれないメアリに苛立ちを覚える。必死に探してくれていることは理解しているはずだが人間は緊急時、理解していても感情をコントロールできないものである。
「母さん、まだー!?」
俺は、怒りに身を任せて、という子供じみた行動は流石に謹み、けれど今の薬草探しの進捗状況が知りたくて、大声を飛ばす。奇跡的にフランは起きなかったようだ。こういう時に小さな存在に気を使えるような人間になりたい、とつくづく思う
「お父さんに聞いてみるからもう少し待ってね」
メアリの慌てたような声が聞こえてくる。
メアリ~頼むよ~
俺は心細さで泣きそうになりながら声にならない声をあげる
メアリは外で雑草抜きをしているマッシュのもとへ大慌てで行く
「あなた、薬草が、どこにあるか、知らない?」
メアリは少し息を切らしてマッシュに薬草の位置を尋ねる
「今は切らしているんじゃ無かったか?もしかしてシュンか?」
「そうなの。全身が痛いって」
「やっぱりか。まあ俺に任せて、メアリは朝ごはんの準備を続けといて」
「わかったわ。頼んだわね」
「おう!」
マッシュは、待ってました、と言わんばかりに小走りで家の横に乱暴に植えてある、およそ30cmくらいのサイズのごぼうのような見た目の物体を丁寧に抜いて、土を落とし、シュンのもとへ向かう。
「シュン、全身が痛いんだろ?」
俺は懸命に頷き、肯定する
「これをかじるんだ」
マッシュはごぼうのような物体の表面を擦り、ぽろぽろとそれの欠片が落ちなくなってから、俺に渡す。
俺ははあまりの痛みに何の抵抗も、躊躇も、疑問もなくマッシュから渡されたものを握りしめ、勢いよくかじる。その瞬間、とまではいかないが1分ほどして痛みが和らいだ。
「痛みは引いてきたか?」
「うん。父さんありがとう。それで、、、これは何?」
痛みが和らいだおかげで、思考が回るようになった俺は恐る恐る、俺を痛みから救い出した物体について聞いてみる。マッシュはシュンの問いかけに対し即答する
「ディーのうんちだ」
「父さん冗談はやめてよ~確かにうんちに見えなくもないけど、臭くも変な味もしないよ」
「いや冗談じゃないぞ。正真正銘ディーのうんちだ」
なんちゅうもん食わせてくれとんじゃい!!腹痛なったらどないすんねん!
うんこをかじらされた屈辱と気色悪さに、うんこを渡した張本人に悪態をつきたくなるが、一応そのうんこのおかげで俺の全身のえぐられるような痛みは和らいだわけだから心の中で突っ込むことにする。しかし、こういう心をとにかく晴れさせたい時は似非関西弁に限る。
「父さん。おなか壊したりしないよね?」
これだけはやっぱり聞いておきたい
「昨日、土の中に埋めておいたから大丈夫だ。」
「どうしてそれだけで大丈夫になるの?」
土の中に埋めとくだけで無毒化されるなんて思えないため、安心できる理由が知りたい
「う~ん。どうしてだろうな?実は父さんもわからない。でも昔からの知恵というやつだ。これまで誰もそれでお腹が痛くなった奴はいないから安心してくれ」
マッシュは自信満々に答える
「これまでに何人くらいがうんちをかじってきたの?」
俺は前世の時から食中毒とかが怖くて仕方なかった。しかも、ここは異世界。ろくな医療もないのだ。いくら安心できる、と言われても念には念を押して確認したいのだ
「俺の知る限りこの村の全員がうんちのお世話になったぞ」
おいおいメアリもかよ
まあそれなら安心できるっちゃできるか
「それならちょっとは安心できるよ。ところで、昨日森に行ったときに採ってきたの?」
「そうだぞ。だから鮮度は抜群だ!」
どうでもええわ!




