チーノの魔法
拉致された人々がいる、という驚愕の事実を知ったアレイだったが、確かに初めに抱いたのは驚きであった。しかしそんなものは一瞬で、次にアレイの中に芽生えたのは納得であった
「え、あぁ、なるほど。それで魔領域の一部を侵略しようと踏み込めたわけですね」
チーノはアレイがすんなりと納得したのを見て、本で知っていただけであったエルフの賢さを認識する
「うん、その事実があれば初めに相互不干渉を破ったのは魔族側だって言い張れるからね。あ、今アレイさんは多分、どうして拉致された人々がいるという事が分かったのか、でしょ」
今、アレイの中にある二つの疑問のうち、一つは正しくその通りであり、感服と同時にチーノに頷く。アレイの首が縦に振られるのをみたチーノは、その見た目からは予想できない自慢気であどけない表情をし、言葉を続ける
「それはね、」
そこまで言ったところで、チーノの自慢気であどけない表情は姿を隠し、気まずそうな不安そうな表情に変わる
「ごめん。僕は知らないんだ。多分お父さんも知らないんじゃないかな」
チーノの自白に言い訳がましく付け加えられた、お父さんも知らないという情報でアレイは二つ目の疑問を聞く契機となることを知覚する
「そうですか。それは流石に権力者達の秘匿情報なんですね」
アレイの言葉にチーノは大きく頷く。そして、何かを言おうとするがその前にアレイが強引に話を続ける
「ところで、チーノ君は確か、魔王が死んだという話を独り言で知ったんですよね。でも、それ以外の様々な詳しい情報をどうやって知ったのですか?お父さんがまだ若いチーノ君に話すとは思えませんし」
チーノが今回の二十魔族討伐の事について知りすぎている事に対し不審に思ったアレイは、ある一つの仮説を立てていた
(もしかしたらチーノ君はこの町の領主、ガルシュなんじゃないか?)
アレイの問いを受けたチーノは一つ大きく呼吸をし、覚悟を決めた表情で話し始める
「やっぱそこを変に思うよね。うん、あんまり話したくないけどアレイさんだから話すよ。、、、僕はね」
アレイの喉仏は上へ大きく上げられる
「実は音魔法が使えるんだ」
「本当ですか!、、、うん音魔法?」
アレイは全く予想していなかったチーノの言葉に毒気を抜かれる
「そうなるよね。音魔法なんてやっぱりエルフのアレイさんでも聞いたことがないよね」
チーノは強張った表情を柔らかくして言う
「チーノ君が実は領主でした、とかではないんですか?」
その言葉を聞いたチーノは一瞬首を傾げた後、すぐに声を上げて笑い出す
「アレイさんはそんなことを考えていたのか~。でも確かに知りすぎてるもんね。それを疑われてもおかしくないか」
「しかし、音魔法?が使えるからと言って、どうしてそこまでの事を知ることが出来たのですか?」
アレイは自分の推理が外れていた事に恥じらいを覚えながら、音魔法なんて言う聞いたことのない魔法で、どうして様々な情報を入手することが可能だったのかを問う
「それはね、音魔法、まあ僕が勝手にそう呼んでいるだけなんだけど、はどうやら音を動かせる魔法なんだ。それで、この家に王家や五大貴族の使いがお父さんと話をしに来た時に、その内容を僕の下に移動させたんだ。だからその内容を僕は知っていたというわけだよ」
チーノの説明を聞いたアレイは少しの間、目をつぶり、その説明を整理する。整理し終えたアレイは自分の中に、未知の魔法に対する膨大な好奇心が存在することに軽く恐怖を覚える
「なるほど、音を移動させる魔法、、、あ、でも音を移動させるんだったら会話が成り立たないのではないですか?」
「ん?どういうこと?」
「だって音を移動させていたら、どちらかの発した言葉はもう一方に届かないではないですか。しかし、どうやら命令者とお父さんとの連携は上手く取れている」
「あぁ確かに。じゃあどういうことなんだろう」
真らしい魔法論理に頭を支配されていたチーノは、アレイから提案された矛盾に困惑する
、、、、、!
しばらく沈黙が続いたあと、遂にアレイの瞳孔が大きくなった
「チーノ君、もしかしたらあなたは空間魔法が使えるのかもしれません」
アレイの発言はチーノを更なる困惑へと移行させるものであった
「僕が空間魔法を使える?そんな馬鹿な。だって空間魔法使いは100年に一度生まれるかどうかっていう存在だよ。さっきのお婆さんの話で少し身近に感じちゃてるけど、、、でも、それに空間魔法でどうやって音魔法を説明するんだよ?」
チーノの、もちろん本人はそんな事を意図してはいないのだが、その挑発とも取れそうな問いに、アレイは自分の立てた論理が話したくて仕方がないといった様子で話し始める
「チーノ君は、例えば声の小さい人と話す時、聞き取りずらいなと思ったらどうしますか?」
「顔を突き出すかな」
チーノはアレイの質問の意図を上手く汲み取れないまま、眉をひそめながら答える
「そう、すなわち、自分と発音者の距離を近づけていますよね」
その言葉を聞いたチーノは「あ!」という声を出す
「分かりましたか。そう、チーノ君は空間魔法を使ってそれをしているのです」




