チーノのお願い2
「王家の誰かの命令ではなく、王家の命令ってことは、国自体が魔王が死んだために、条約を破るという選択を取ったということですか」
「そういうことになるね」
アレイの確認にどういうわけかチーノは反省したような表情で頷く。チーノの反省した様子をアレイは、自分が目の前のエルフよりも王家に近い存在であるにもかかわらず、王家の暴挙を止められなかったことに責任を感じているからであろうか、と考える
「そんな顔をしないでください。チーノ君は一切悪くありません。悪いのは王家です。いや、王家の命令とは言っても、恐らく五大貴族との会談で決めたことでしょうから、悪いのが王家とは一概には言えませんが、とはいえ何にしてもチーノ君は悪くありません」
アレイの言葉に、チーノの無数の皺はまだ眉間に引っ張られているものの、表情は柔らかくなる。そして、アレイは続ける
「しかし、クラストロ家がそれを依頼されるのは、魔領域にほぼ隣接しているからでしょうか?」
アレイの質問にチーノは少し考えてから、話し始める
「うん。それももちろん正しいんだけど、それだけじゃなくて、詳しくは言えないんだけど、クラストロ家は王家から高く信頼されているからなんだ」
「王家からの信頼ですか。それはやはり、毎年行っているという魔領域とポルカ村の境界付近の調査の実績からなのでしょうか?」
王国の命運を左右するであろう、二十魔族の討伐という重大依頼を、辺境の町の領主に依頼する理由について、アレイはそう考える
魔領域とポルカ村の境界付近の調査とは、クラストロ家が毎年冒険者ギルドに出す、境界付近の魔物の状態を調査するという依頼であり、多くの上級冒険者が参加する。アレイがその依頼のことを知っていたのは、ポルカ村がリーズ地方の一つの村で、アレイの過ごした家からそう離れておらず、ポルカ村の人から話を聞いていたからである
「うん。そういうのも含めてね」
アレイの探るような質問を、チーノは取ってつけたような笑みを浮かべて受け流す
「、、、なるほど。事情は分かりました」
腑に落ちない様子はあるものの、同情を貰えていそうなエルフの様子を見て、チーノはもう一度依頼をしてみることにする
「それで、、、僕の依頼、受けてくれないかな?もちろん、アレイさんの正体が「エルフ」だってバレない様にするし、それに報酬も弾むよ」
実のところ、アレイは初めからこの依頼を魅力的に感じていた。なぜなら、ナーシャの下へ行くための許可証が与えられそうな依頼であったからだ
「正直、非常に魅力的な依頼です」
「じゃあ!」
「けれど、私にその依頼を受けることはできません」
「え、どうして!?」
受領しそうだったアレイの突然の依頼拒否に、チーノは声を大きくする
「申し訳ございません。私は人間の果てしない欲望に付き合いたくはないのです。ましてや今回は、その欲望が魔族の殺生、もしくは殺生によってもたらされる土地や財産なので、どうしても関わりたくないのです」
確固たるアレイの決意にチーノは諦めざる負えないことを悟る
「そっか、、、。分かったよ。こちらこそごめんね、アレイさんからしたらそんなことを知りたくもなかったよね」
「いえ、謝らないでください。チーノ君はお父さんが心配だったのでしょう?」
アレイのその言葉にチーノは弱弱しく頷く
「そのお父さんへの思いがあれば、お父さんはきっと大丈夫です。それに、国の命運が懸かっていますから、この町の冒険者と騎士だけでなく、きっと超一流の冒険者と騎士が帯同するんですよね?」
「うん。実は、シンダイヤ王国の全土の冒険者ギルドに「セリアッソの討伐及び、拉致された人々救出の協力要請」っていう依頼が張り出されていて、この依頼が魔族討伐の依頼なんだ」
アレイは「セリアッソ」という聞いたことの無い個体名に疑問を覚える
「セリアッソ?」
「セリアッソというのは架空の人型魔物です」
「架空の人型魔物?」
チーノは目の奥に怯臆を宿しながら、腹をくくったようにアレイの質問に答える
「うん。設定としてはその力は強大で、ローゼスト級。だから、1級20名以上を含む3級以上が100人以上必要な冒険者パーティー、まあ、もうパーティーというより小さな軍隊だけど、それと、指揮系統が確立された集団の大規模参加が必要だよ」
「えぇ、いえ」
口を挟もうとしたアレイだったが、「話し切る」という揺るぎない信念を怯臆と伴に宿したチーノの目を見て、掌をチーノに送り、話を続けさせる。一瞬話を止めてアレイの動作を見たチーノは小さく頷き、話を続ける
「それで、もう分かってると思うけど、冒険者達を騙して二十魔族の討伐に向かおうとしているんだ。もちろん、そんなことを企んだのは五大貴族と王家の人達だよ。でも、お父さんも僕もそれに何の反対もしなかったんだから同罪だよ」
アレイはチーノの話を聞いて、まず、自分の保身をしなかったチーノに感服した。しかし、それと同時に、計り知れない欲を持つ人間に対する呆れと追加の疑問が生まれた
「お話して頂きありがとうございます。質問漬けで本当に申し訳ありませんが、また一つお尋ねしたいです。セリアッソが架空なのだとしたら、やはり「拉致された人々」というのも架空なのですか?」
チーノはアレイから投げかけられた何度目かも分からない問いに、今までの怯えを孕んだ表情を一変させこれまでにない自信で答える
「それは本当の事だよ」




