狩りごっこ
デリシア村では家々が密集しているのではなく散らばって建立している。しかし、畑は村の東に密集しており、その理由としては肥沃な土壌が広がっているというのと、この村では村人共同で農作業を営んでおり、てんでばらばらだと意思の疎通が取りにくいためだ。得られた農作物は家族構成などを考慮し分配される。共産主義的な村だ
一応各村々を通る道のようなものがあるがそれでも何もない大きな空間が所々にある。そういう空間は村人の憩いの場として大きな意味を持つ。よく俺と同年代の子供たちが親たちに見守られながらそこで追いかけっこなどをして遊んでいる
俺は正直、同年代の子達と遊んでもまったく楽しくないため、よく父親のマッシュと遊んでいる。マッシュも俺を年相応の子として扱うため遊びとしての面白さはないが、感覚的に父親と遊んでいた方がましであるというわけだ
別にイキっているというわけではない。俺の精神年齢はこの世界に来ても大して変わっていないと思う。なんなら、赤ちゃんを経験したことにより少しオトナになった気もする。(精神が肉体に依拠する世界というわけでは無いようだ)俺は別に子供好きというわけでもなかったし、こういう振る舞いになってしまうのは仕方がないのだ
それなら「遊ばなくていいんじゃないか?」とか「一人で遊べば?」と思うかもしれないが、それは絶対に無理だ。俺の気持ち的に、外に出て異世界を堪能したい
しかし、うちの親はめちゃくちゃ過保護で「一人で遊びに行かせるのは心配だから」と言って必ず一緒でないと外に出れないのだ。
というわけで、今日も今日とて父親と遊んでいるのだが俺は体力を付けたい。
「パピーちょっくらハードな遊びをしようぜ」的なニュアンスのことを4歳児言葉で言い、今日は狩りごっこをすることになった。先ほど、遊びとしては面白くないと宣言したばかりだが、恥ずかしながら「狩り」という言葉にワクワクしてしまう
「じゃあ父さんが逃げ回るディー役をやるからシュンはこの棒で父さんを突いたり、叩いたり、何でもいいから当ててみろ。そうしたらシュンの勝ちな!」
そう言って俺に先の丸くなった腕の長さくらいの棒を俺に渡す。
「分かったよ父さん!」
ディーというのはシカのような動物のことだ。鹿との違いは尻尾が極端に長いことくらいだ。残念ながら実物はまだ見たことが無い。離乳食が終わり、初めてディーの肉を食べたときに父さんに教えてもらったのだ。もちろん本に図付きで書いてあったため知っていたが異世界人の声で、異世界の動物について聞けるのは、本に載っているファンタジーの存在確認が取れた気がして、妙にうれしかった
「じゃあいくぞ~」
四つん這いになったマッシュはそれを合図に駆け始める。それはもう滑稽な姿だが、俺のために全力でやってくれていることだから、笑いそうになるのを必死にこらえて(そのせいで俺の顔の方が滑稽だろう)心の中で感謝する
(自分のためにもマッシュのためにも本気で殺しにいく)
そんなことを思いながら(さすがに「殺しにいく」は冗談だが)強く棒を握りしめマッシュめがけて二足歩行で全力で走る。
はあ、はあ、はあ、はあ
俺は棒を放り投げ、膝に手をつき、むさぼるように空気を吸い、そして吐く。
10分くらい追いかけ続けたが、俺は四足歩行マッシュにちっとも追いつけなかった。速すぎる。四足歩行で出せるスピードじゃない
「シュン。俺の勝ちだな!」
マッシュがどや顔で俺に勝利宣言をする
(さすがに大人げなさすぎないか?てか息切れ一つしてないし)
「負けた~!父さん、速すぎるよ!」
俺は文句と称賛を込めて(文句が9割を占めるが)敗北宣言をする。
「シュンも速かったぞ!少し本気になってしまったよ」
マッシュは俺の機嫌を保つためか、俺が速かったなんていうお世辞を言い、なんだか嬉しそうに俺の頭を撫で俺を褒める
お世辞は癪に障るが、そんなことより、あれで少ししか本気を出していないのがヤバい
「また明日もやろうね!」
強敵マッシュとの追いかけっこは良いトレーニングになりそうだし、何より、意外と楽しかったため、明日の約束をする
「おう!父さんが暇なときはいつでも遊んでやるぞ~!」
その日から俺の体力づくりは始まった。初めの方は10分くらいでギブアップしていたが1ヶ月後には20分くらいは(もちろんずっと走り続けているいるわけではないが)、四足歩行マッシュを追いかけられるようになった。子供の成長速度はつくづく感心する。そして成長を実感できるのがとても楽しい。でも、マッシュには一向に追いつかない。足の速さは大して変わっていないようだ。筋肉の付き方とかも問題があると思うが、まあ成長とともに速くなるだろう
そんなこんなでまた一ヶ月が経った。俺の体力は指数関数的に上がり、、、というわけではなかった。どちらかというと対数関数的に上がった。大体25分で体力の限界が来てしまう。そもそも、始めたての頃にグーンと走れるようになったのは体力の上昇ではなく「体を動かすということに慣れてきた」ということが理由だろう。だから、体力の上昇でいえば「傾きの弱い直線的な上がり方をしている」と言えるだろうな
そんなちょっぴり悲しいニュースはさておき、ビッグニュースがある
なんと妹が生まれた。夜中、親たちは毎晩のように愛の共同作業をしていたため、いずれは弟か妹ができるだろうと思っていたが、案の定、妹が生まれた。俺は両親と同じ部屋で寝ており、両親にそっぽを向くように寝るようにしたとしても、親の愛ゆえの音が聞こえてくる
正直、それは想像以上にしんどかった。これでしばらくはおとなしくなるだろう。
さて、妹の名前だがフランに決まった。俺は前世でも妹がいたから分かるが妹は可愛くない。「顔が」とか、「性格が」とか関係なしになんか可愛くない生き物なのだ。それもあって前世では妹とうまく接することができなかった。それを俺は少しだけ後悔している。だから、この世界ではちゃんとお兄ちゃんをしようと、フランが生まれた時、俺は決心した




