チーノの依頼5
「老夫婦の娘さんに会ったり、その息子のアレンさんに会ったり、そんなことが色々あって、お爺さんの家に住まわせてもらえるようになりました」
アレイはもっとお爺さんとの思い出について話したい気持ちをグッと抑えて、そろそろ話を終わらせることにする
「お爺さんの家に住み始めて、数日経ったある日の夜、私は再び野蛮な連中に襲われました。老夫婦はその日、隣町の娘さんの家にお邪魔してくると言って、家にいませんでした。そしてその日の夜は、そのままそこで泊めてもらったようです。だから家には私一人でした。煌球は完全に落ち切り、冥星を真正面に捉えるには頭を後ろに倒さないといけない時刻、私はむさ苦しい気配を感じ目を覚ましました。どうやらその気配は、欲望、狂気、恐怖がこの家の隙間という隙間から入り込んで、中で飽和しているようでした。私は心が蝕まれる錯覚に襲われ、慌てて家を飛び出しました。家を出た瞬間、私は再び狂気的な視線に全身を射抜かれました。ただ今回のものは以前感じたその視線よりも明らかに強烈で、その視線は物理的な力を持たないのにも関わらず、私は肉体的損傷を受けたのかと思うほどでした。視線のすぐ後に、誰かがスキル「狙的」でも持っていたのでしょうか、私の脛裏目掛けて矢が飛んできました。私は射貫くような視線を感じた時から、空気の変化には過敏になっていました。生物はどうしても、他者に傷害を与えるとき大概が恐れですが、喜びなどの感情が湧きおこります。そういう時、その者が出す雰囲気は変化します。そのため私はその矢を間一髪股の下をくぐらせる事が出来ました。しかし、チクチクとした痛みが脛横からしましたので完全には避けきれなかったようです。ただ、その傷は私の動きに障害を来すようなものではなかったので、次の攻撃に全意識を向けました。もう一発同じ方向から矢が飛んできましたが、次は容易に回避することが出来ました。矢が外れた途端、もともとかなり暴力的な雰囲気でしたが、その暴力性は凶暴性を孕み、今にも飛び掛かってきそうでした。それで案の定、一斉に攻撃しないと私を無力化できないと思ったのか、私の真向かいにいる男の指示で、飛び掛かってきました。ただ、私の住ませて貰っていた場所は、玄関前に人が二人寝そべることができるくらいの空間があるだけで、その向かいも、家の裏もほかの家々が立ち並んでいます。私を襲う人達は人の家の屋根上におそらく無断で立ち入り、私を円状に囲っているたので、飛び掛かるときに何人かはぶつかり合い、着地に失敗して、勝手に行動不能になっていました。着地が上手くできた人達も、明かりとなるのは冥星の冷たく優しい光だけなので、仲間を私と勘違いして、仲間内で戦闘している人が大勢でした。「俺は仲間だ」という声がたくさん聞こえてきましたから。運良く私を捉えられた人達は私に拳や鈍器を振りかざしてきましたが、私も周りを習って「俺は仲間だ」と叫びました。その場は混沌とし、凶暴性は居場所を探して彷徨っていました。そんな中私は、以前に私に網を投げてきた人を発見しました。自慢ではないですが、私はかなり目が良いのです。その人はその混沌を秩序づけようとしていましたが、彷徨う暴力を治めることに苦難していました。その様子から私はやはりこの男はリーダーであると確信しました。それも、無能なリーダーであると。これは利用できると踏みました。私は攻撃をいなす、声を出す、というのを繰り返しながら無能なリーダーのすぐ傍に移動しました。そして、そこを中心に四方八方に風魔法を撃ち、すぐにその場を離れました。もはやその場に私を私だと認識できる人はおらず、魔法が飛んできた方向にいる人物、すなわち、リーダーである男が私であると誤認されていました。彷徨う暴力はようやく行き場を見つけたようで、リーダーが殴られるのは一瞬でした。まだ、意識のあったリーダーである男は必死に「俺はマンザンだ!」と叫んでいましたが、そんな叫びは密度の高い暴力に入り込む力などなく、リーダーは意識を失うまで殴られ続けました。その間に私は家と家の間の隙間に逃げ込み、息を潜めていました。そして、私であると推測させる人物が気絶したのを確認した連中達は、ようやく冷静になったようです。冷静になった彼らが目の当たりにしたのは、白目を向いて、血と涎を垂れ流している自分たちのリーダーでした。そういう時、組織的でない組織が辿る結末は、自然解体です。その組織の意識のある者達は、一斉にその場から駆け逃げました。その場に残ったのは足を怪我して動けない方と、リーダーも含め、もはや気を失っている方だけでした」
ほとんど話終わり、アレイはチーノの表情を見てみると、先ほどの眠たそうなどこへやら、満足したような表情をしている
「私は意識がある人にこの組織が私を襲わないことを約束させ、まあ、おそらくそんなことを約束しなくても、もう私を襲う気力はこの組織にはないと思いますが、そして生命魔法を施し、倒れ伏しているしている人達のお世話を任せました。それから私は家に戻り、まだ煌球が顔を出す気配はありませんでしたので寝ました。締めますが、私は一連の冒険で確かに村の人達が言っていたような人もいることが分かりました。しかし、そんな人達ばかりではなく、心優しい方々も多くいることを確認できました」
チーノはアレイの話を聞き終わり、満足そうに頷き、拍手した。そして、開口一番、
「ありがとう!すごい面白かった!!。で、なんだけど、、、アレイさんごめんね。アレイさんってエルフだよね?」




