チーノの依頼4
「全て話し終えると、お爺さんは皺の少ない顔に多くの皺を作り、笑っていました。そして、「そういうことじゃったんか。良かったわい。わしが処理できるのは婆さんのうんことしっこだけじゃからの。あんたのゲロは処理したくなかったんじゃ」と、心底安心したように、そして可笑しそうに言いました。そして、ぼそりと「久しぶりに笑ったわい」と呟きました。私はお爺さんの反応や昨日からの私に対する態度を見て、ただ直感的にお爺さんを生まれて初めて信用できる存在だと認識しました。そして、老女、いやお爺さんって言ってるからお婆さんって言った方がいいですね。お婆さんの昨日の行動、様子、そしてお爺さんの先ほどの話から、さっきチーノ君が考えたこと、迷忘の呪いにお婆さんは掛かっていると考えました」
ここまで話したところで、アレイはチーノの顔を見ると、僅かに勝ち誇った表情をしていることに気が付いた。それで、賢者と言われるエルフのプライドが疼き、「当時は混乱していて、そんなことを考えている余裕なんてなかったんです」などと言い訳したくなるが、寛大でありたい、という昔からの願望がアレイを律し、話を続ける
「でも、お爺さんのことを信用できたはいいけれど、結局私は今から何をすれば良いか分からないままでした。そのためお爺さんに指示を仰ごうとしましたが、その前にお爺さんが「昨日婆さんはアレンちゃんと言っておったが、アレンはわしらの孫の名前なんじゃ。婆さんはきっとあんたを孫と勘違いしとるんじゃろうな。で、あんたの本当の名は何と言うんじゃ?」と私に尋ねてきました。そのため私は、「ア・レ・イです」とアレンとアレイの違いが分かりやすいように言いました。それを聞くとお爺さんは再び笑い始めました。「そりゃあんたも勘違いするわけじゃ」とお爺さんは笑いながら言うと、「わしはコンテと言う。あんたはわしらの事を警戒していたみたいじゃが、わしもあんたの事を警戒しておったんじゃ。でも、あんたの話す内容とか様子を見て、警戒するような奴じゃないって思ったわい」と続けた。お爺さんが私を認めてくれたというのは素直に嬉しかったですが、結局私は何をしたら良いのか分からなかったので、「私はどうすれば良いですか?」とじれったくなって聞きました。私の質問に、お爺さんは少し考えた後に、結局何も思い浮かばなかったのか「その椅子に座ってくつろいどってくれ」と私が絶望した扉の反対側にある小さなテーブルを指して言い、台所に行き、何か料理をし始めました。私は座るとぎしぎし鳴る椅子に座り、頭痛も倦怠感もする体では何かをする気にも考える気にもならなかったので、左斜め前に見える老人シェフの後姿をぼんやりと眺めていました。ただ、ぼんやりと眺めていると、これからのことをどうしたら良いか、嫌でも頭に浮かんできました。(ご飯をどうしよう、まあそれは近くの森とかで狩ればいっか、問題は住まいだな。「宿」という所があるらしいけど、それにはお金がいるからな。それも近くの森で野宿すればいっか。あ、でもそれじゃあ村を出てきた意味がないじゃないか。一時は村の考えを認めてしまったがけど、この老夫婦みたいに危害を加えてこない人もいるじゃないか。こういう人達ともっと関わってみたい)。そういう感じでたらたらと思考が流れてきました。私が思考に耽っていると、お爺さんが朝ご飯を運んできました。板状のパンが2枚とコボルトの燻製肉が2枚乗った皿が私の目の前にお爺さんが座ると同時に置かれました。そして、お爺さんは手を合わせるとそれを食べ始めました。私は(よく食べるお爺さんだな)という感想を抱きながら、その様子を眺めていました。お爺さんはそんな私をパンを手に持ちながら見ると、「どうしたんじゃ、あんた、もしかしてパンが食べれないんか?」と、咀嚼音を混ぜて話しかけてきました。初め、私はその意味が分かりませんでしたが、その意味を理解すると感動して、パンに手を伸ばそうとしましたが、一応確認しておいた方が良いと思い、「私も食べていいんですか?」と聞きました。そうするとお爺さんは「当たり前じゃ」と言って咀嚼を続けました。私は、村の外には危害を加えないだけでなく親切にしてくれる人もいるんだなと思うと同時に、村の考えがやはり偏っていたことを確信しました」
アレイはお爺さんとの思い出に浸りながら、まるで温泉に浸かっているかのような気持ちで話していたが、ふと我に返り、チーノの様子を見ると、眠そうにしていたので、さっさと落ちをつけることにする
(本当はそこからのお爺さんとの物語をもっと話したいけど、依頼人をがっかりさせたらいけないよな)
「あ、そんな良く分からないお爺さんとのほのぼのとした話をされても面白くないですよね」
そのアレイの言葉にチーノは眠そうな目を擦り、首を横に振り、「いやいや、面白いよ」とあくびをしそうなのを堪えている声で言う。アレイはそんな様子に「こういう所は13歳だな」と心が温かくなるのを感じた




