チーノの依頼2
「生命魔法と風魔法を併用し逃走したので追手は全員振り切ったようでしたが、私は誰かに追われている感覚を拭えず、息が上がり心臓が痛むのも気にせずにそのまま一心不乱に川に沿って逃げました。その間、私には常に尋常でない恐怖が纏わり付いていました。なぜなら、なぜ私の名前を知っているか、それとどうして村の外の人々と少し違う存在であると認識されたのか、が分からなかったからです。原因が分からずに危機を迎えるのは恐ろしい事です」
もしかしたら既にエルフだと見破られているかもしれないが、アレイは一応、言い訳程度に外見的特徴が無いことを述べておく。それに、アレイの一言一句に様々な純粋な表情を見せるチーノにならエルフだと知られても何も構わないのではないか、と今やアレイは考えている
「それで、川を沿って進んだ私が辿り着いたのは、静かな灯りが点々とする町でした。走りながら私は、村の考えに反発していたことを愚かに思い、そして、村の外の人々は信用できないという考えになりつつありました。そのため、町になど辿り着きたくなかったのですが、その町に辿り着いた途端、マナ切れを起こし、倒れてしまいました。その時私は、このまま捕まえられて売り飛ばされるか、もしくは殺されるんだ、と考えました。そんな絶望のどん底にいる私の目の前に一人の老女がとぼとぼと現れました。そしてその老女はこう言いました。「あら、アレンちゃんじゃないのこんな所でどうしたんだい?」。私はマナ切れによる苦痛を感じていたためか、単に老女の言い方が悪かったためか、アレンがアレイに聞こえました。ただ、酷く乱れた心中だった私にとって、その聞き間違えは救いでした。まさか村の外の全くの害意が感じない人間に名前を呼んでもらえるなんて思っていなかったからです。だから私は、直ぐに老女の質問に必死な様子で答えました。「そうです。アレイです。今マナ切れを起こしていて、助けてくれませんか?」。今考えると相当馬鹿なことをしていると思います。しかし、何度も言いますが私は心身ともに限界だったのです。だから、そこにある様々な危険を考えることが出来ませんでした。ただ、それが功を奏しました。私の言葉を聞いた老女は「マナ切れ?なんだいそれは?でも、アレンちゃんが困っているなら助けてあげないとねえ」と言って、もともと少し虚ろだった目をさらに空虚なものにして、なにやらぶつぶつと呟くと、私と老女は老女の家に一瞬で移動しました。それから老女は、寝室で寝ている頂点ハゲの夫を叩き起こし、その夫に力尽きている私を運ばせて、カビの匂いのするベッドに寝かせてくれました。ベッドに横になるや、私は事切れたように眠りに着きました」
あまりに突然な展開にチーノは少し混乱した表情を見せる
「少し休憩にしますか」
チーノのそんな表情を見たアレイは、チーノに休憩を提案する。アレイの提案にチーノは申し訳なさそうな顔をして頷く。そして、2回手を叩き、先程の執事を呼び、「何か飲み物を僕とアレイさんに頂戴」と頼む。それからすぐに執事はテキラのジュースを持ってきて、対面する二人に挟まれたテーブルに丁寧に置き、静かに部屋を立ち去る
チーノは執事が持ってきたジュースを一口飲むと、幸せそうな顔をするが、すぐにハッとした表情をしてアレイの方を見る
「あ、テキラのジュースで良かった?」
「はい、私の好きな飲み物です」
そのアレイの言葉に心底安心した表情をする
「なら良かった。それで、一つ質問して良い?」
「はい。なんでしょうか?」
(アレイさんはエルフなの?とかって聞かれたらどうしよう)
アレイはチーノの言葉に身構え、少し声質が固くなってしまう
「そのおばあさんって、もしかしたら迷忘の呪い?」
「おぉ、良く分かりましたね。そうです、私を助けてくれた老婆は知能が著しく低下する代わりに、一種の魔法の才能が開花する、発生条件不明の呪い、迷忘の呪いの被呪者でした」
思わぬチーノの鋭い質問に、アレイは瞳孔を広げ、称賛する
「やっぱりか」とチーノはカサカサでシワシワの鼻の下を擦りながら自慢げに言う
「あんまりそう思ってると思われないかもしれないけど、僕はこの呪いを解きたいんだ。だから、呪いについて色々調べているうちに呪いの知識が人より豊富についたんだ。だから、アレイさんの話を聞いて、それを整理してる時におばあさんも呪いなんじゃないかって思ったんだ」
「そうでしたか。では、こんなことを聞いたら失礼かもしれませんが、チーノ君はどんな呪いなんですか?」
今度はアレイが質問する。チーノはアレイの質問に顔を暗くする、なんてことはなく、むしろ顔を明るくする
「僕が、というか僕のお父さんが受けた呪いは、次の子供の体は老いた外見を身に纏うという呪いなんだ。だから、外見はこんなんでも、運動能力とか頭脳とかは13歳のそれだよ」
「チーノ君は他の13歳に比べて随分と賢そうですが、、、あ、もしかして代償として与えられたギフトは知能の優良化ですか?」
チーノはアレイに賢そうと言われて嬉しそうだが、アレイの推測には横に首を振る
「ありがとう。でもアレイさんの推測は残念ながら違う。僕にはギフトが与えられなかったんだ」




