チーノ君とご対面
またもや気まずさを感じつつ、右斜め下をぼんやりと見つめながら待っていると、先ほど邸宅内に入っていった門番がやはり背筋が真っ直ぐ伸びた綺麗な姿勢で戻ってきて、やはり門を開けるために姿勢を崩す
「私に付いてきてください」
門を開けた門番はそう言い、邸宅の方を向く
「分かりました」
門番はアレイに付いてくる意思があることを、ちらりとアレイの方を見て確認すると、邸宅の入り口に真っ直ぐと向かう
(チーノ君って何歳なんだろう?)
ようやく門番と二人だけの静穏な時間から解放されたアレイは、依頼相手のことを考える
(冒険者に興味を強く抱く7~10歳であろうか?それで二年前にも同じ依頼があったということは、今は9歳か10歳か)
アレイがそんなことを考えている間に門番はぐんぐん進み、すでに玄関前まで進んでいた。門番は幾何学模様が彫られた石の引き戸を開ける
(なんだかかわいい玄関だな)
アレイは邸宅の大きさに比べこじんまりとしている、まるで小顔のデブのような様子の玄関にそんな感想を抱いてしまう
門番は開けると同時に、中に入っていくことはなく、引き開けた扉を入り口の横で支え、アレイを手を差し出し中に案内する。アレイはその手に沿うように中に入り、内装を見渡す。中央に二方向に分かれる階段を構える奥行きのある広間が広がっており、その広間は天井少し手前のシャンデリアで随分と明るく照らされている。そしてその中心に、自己紹介されるまでもなく誰もが「執事だ」と分かる人物が立っていた。その人物は、白髪交じりの黒髪をオールバックにし、髭は見事に剃られ、片眼鏡を掛け、真黒なタキシードに身を包み、先ほどの門番の姿勢が劣って見えるほどの見事な姿勢で佇んでいる
「ようこそいらっしゃいました冒険者様。わたくしはこの屋敷で執事をしております、ルドと申します。では早速チーノ様のお部屋にご案内致します」
(でしょうねぇ)
アレイは分かり切った執事ルドの自己紹介に心の中でツッコミ、「よろしくお願いします」と作業的に返事をし、執事の後に付いていく
執事は二つに分かれる階段の左側を上り、玄関側に延びる廊下を進む
そして執事は、左側に合計4つある扉の階段から進んで3つ目の扉の前で止まり、アレイが付いてきているか確認し、その扉を4回ノックする
「チーノ様、冒険者様をお連れいたしました」
その執事の声に扉の奥から「入ってもらって」という子供の明るい声が返ってくる
「承知いたしました。では冒険者様、こちらへ」
そう言うと、執事は完璧な所作で扉を開け、丁寧に中に誘導する
(やっと何歳か分かるな)
アレイは案内されているほとんどの時間、チーノ君の年齢について考えていた。そのため、今アレイの心の中を占める感情は、やっと答え合わせが出来ることによる歓喜と恐怖だ。アレイは「初対面」というものを数多く経験してきたので、もう緊張はしなくなった。どういうわけか、初対面の気まずさはアレイは苦手ではない
喜びに満ち溢れたアレイだったが、部屋の中を見るやいなや歓喜の感情は純粋な驚きの感情に変化した。そして、恐怖の感情は心の中に残り続けた。なぜなら、自分の推測がこんなにも大きく外れたことは今まで無かったし、、、
部屋の中にいたのは小綺麗な服に身を包んだ年老いた男だったからだ。内心、天と地がひっくり返りそうなほど驚愕したアレイだが、必死にポーカーフェイスを保つ
アレイの顔の筋肉が形を保とうと必死になっている間に、執事は扉を閉め、老人とアレイは二人だけになる
「こんにちは、冒険者さん。どうぞ、まずは座ってください。それで、僕はチーノです。あなたは?」
見た目と声色の乖離が著しい年老いた男はアレイを部屋の真ん中にあるソファーに座らせ、対面になると簡単に名乗る。その顔はわくわくが止まらないといった様子だ
「私はアレイと言います」
アレイは顔と声をほんの少しだけ引き攣らせながら、名前を言う
「僕のこの見た目と声の違いに驚いているのかな?」
アレイの僅かなぎこちなさに気が付いたチーノは、「いつものことだ」と言わんばかりにほほえんでアレイに確認する
(しまった。私としたことが。もういいや、全部正直に言って謝ろう)
「はい。申し訳ございません。あなたが仰る通り、声と見た目のあまりの違いに驚いていました。しかもそれだけでなく、想像していたよりもずっと年老いた方であったので、それにも驚いていました。すみません」
アレイは自分への戒めとしての意味も込めて心から謝罪すると、チーノは声を上げて笑う
「大丈夫だよ。それにしても、あなたみたいな正直な冒険者は初めてだ」
「じゃあ僕も正直に話すよ。僕のこの体は呪いのせいなんだ。僕のお父さん、ガルシュが受けた呪いでね、僕の体は生まれた時からシワシワなんだ」
ひとしきり笑い終えるとチーノは突然の告白をする。それを聞いたアレイは、チーノの境遇に心を痛めるとともに、「じゃあ、今何歳なんだろう?」という疑問が湧いてくる
「じゃあ、僕は今何歳かって?、13歳だよ」
チーノはそれを持ちネタにしているのか、底抜けに明るく、アレイの心を読んだかのように答える。ただ、ほんの一瞬悲しみが顔に浮かんだのはアレイの気のせいだろうか
(ああそうか。確かに13歳の体の大きさと、声のハリだ)
そしてアレイはチーノの年齢を聞き、妙に納得してしまう
納得した様子のアレイを見て、チーノは皺だらけの顔を更に期待で皺だらけにし、アレイを見る
「じゃあ、早速の依頼だけど、あなたの冒険者になる前の一番の冒険を教えてよ」
アレイに家の出発時に帽子を被らせておきました




