ビカリヤを追う女との出会い
今回アレイがホーンラビットを狩猟するという依頼を受領したきっかけとしては、ホーンラビットに希少な虫であるビカリヤを捕食しているという疑いが懸けられたからである。ビカリヤは最近大幅に数を減らしており、もともとあまり見かけなかった虫であったが、最近では滅法見かけなくなってしまった
もともと、ホーンラビットは草食の準魔物であったが、ホーンラビットの増加と伴にビカリヤの減少が見られ、そこに相関関係が疑われたため調査個体確保のための狩猟が必要になったのだ。本当にそこに相関関係があるのかは不明だが、アレイとしては一刻も早くビカリヤ減少の謎が解明されてほしいため依頼を受けることにしたのだ
アレイが自然の摂理に介入してまで、ビカリヤ減少を解明したいのかというと、やはりその理由はナーシャとの思い出にあった
アレイがナーシャと出会うきっかけがビカリヤにあったのだ
エルフの同胞達と仲違いし、仕方がなく冒険者をし始めた頃、アレイは「エンビン大草原の生態調査」というギルド直属の依頼を受けた
その依頼は大人数の冒険者に依頼され、冒険者としての自我が薄い初心者冒険者は格好の的にされた
エンビン大草原は広大で、多種多様な生き物が生息する。その中でも今回の依頼は希少な生き物の生息数の調査を幾つかのグループに分けて行う
調査する種は小型動物、大型動物、虫、魔物から合計20種類だ。ちなみに、魔物とその他の動物を区別するのは善悪なのではなく、体内に魔石を保有するかという点だ
生息数調査といってもエンビン大草原は広大で、とても虱つぶし的なやり方では行えない。そのため、九十個の区画で分けて、そのうち各グループで決めた三つの区画を調査し、平均的な数を出し母数を推定するというやり方で生息数調査をする
もちろん、各種族によって好む生息場所があるため、母数推定に大きな誤差が出るが、20種類の中で生息地に偏りが出ることが確認された種はいないため問題ない
それで、アレイが振り分けられたグループはポッピッピというラットに毛を大量に生やした見た目の小型動物の生息数調査だった。そのグループのメンバーはアレイ、緑白色の長髪に鼻が軽度に潰れていること以外であったら整った顔をしている男、たれ目の優しそうな小柄の女の三人だ
その三人ともコミュニケーションを取ることが得意ではなかったため業務連絡以外は言葉を交わす事無く作業をし、そのお陰で調査は順調に進んだ
二つ目の区画を終え、三つ目の区画を端からこぶし大のポッピッピを探して虱つぶしに三人で調査していた時だった。アレイの前の背の高い草の茂みからビカリヤが飛び出して来て、アレイの左頬にピタリとくっついた。ビカリヤの尋常ではない焦りの気配についつい頬を避難場所として貸し出してしまったが、このまま居続けられてしまっても困るので、頭を不規則にブンブンと動かし、頬についたビカリヤを振り落とす。腹から飛んできたため、ビカリヤの茶色い姿しか見えなかったが、振り落とされて、葉の上に着地したビカリヤの甲は紫金色の輝きを放ち、その輝きは何度見ても美しい
アレイがビカリヤの美しさに感服していると、ビカリヤが飛び出てきた時とは比にならない大きさの音が茂みから聞こえた。そして、その音は段々と大きくなる。ビカリヤの方に一瞬目を向けるが既にどこかへ飛んで行ってしまったようだ。そして、音はアレイの目の前の茂みまでやってきて、そのまま音の正体が飛び出してくる
出てきたのは人間の女で、その女は目の前にエルフがいたことに目を丸くして飛び出してきた勢いそのままに突っ込んでくるが、アレイは間抜けにその女とぶつかるなんて事はなく、体を横に向けて避ける
その女はどうやら間抜けだったようで、優しく受け止めてもらえると思っていたのか、アレイに避けられると急いで減速しだし、次の茂みに突っ込む寸前で止まる
その女は避けられたことに文句を言ってやろうと、ぷりぷりとして振り向くが、文句を言っても仕方がないことに言葉を発する前に気が付く
アレイはそんな女に憐みの視線を向ける
「すみませんが、この辺でビカリヤ見てませんか?ずっと追いかけていたのですが」
ただ、その視線は女にとってノーダメージのようで、アレイの視線を無視すると、茂みから追ってきた目的の逃走先を尋ねる
(あのビカリヤはこの阿呆そうな女に追いかけられていたのか。可哀そうに)
「いえ、知りませんが」
「そうですか。ありがとうございます」
アレイの虚偽報告に一応といった感じの感謝をすると、女は心底落胆し、今にも泣きそうな様子で、無気力にその場に立ちすくむ
そんな女の様子を見て、アレイは心を痛めるわけではないが、どうしてそんな必死にビカリヤを追いかけているのだろうか?、という疑問が浮かんでくる
(もし、不純な動機だったら許せないな)
その答えが邪な理由だった場合、見過ごせないのでどうしてビカリヤを追っているのか聞くことにする
「何故あなたはビカリヤを追っているのですか?」
「あなたには関係の無いことなので、お気になさらず」
アレイの質問を女は声を震わせ、不機嫌そうにあしらう
「いえ、関係無くありません。私は一応エルフなので、もしあなたが不純な理由でビカリヤを追っているのだとしたら阻止しなければなりませんから」
「不純な理由? あなたが思う不純というのがどういうものか知りませんが、私が思うに不純ではありません。だって人間という同種の命を救うためにビカリヤという種を犠牲にしようとしているのですから」




