友との別れ
付き合いのあった人達に何も言わずに、ここを立ち去ってしまうことも考えたが、その人達にはお世話になったので、一応挨拶をしてから旅に出ることにする
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「じゃあ、気を付けてくださいね。必ずまた戻ってきてください」
「シラによろしく言っといてね。それじゃあ」
シラの娘のサラちゃん(「ちゃん」と付ける歳でもなくなってしまったが)に別れを告げ、ようやく挨拶回りが終わった。3時間くらい掛かっただろうか
もともと、それほどご近所付き合いが多かったわけではないので、すぐに終わるかと思っていたが想像以上に長引いてしまった。みんなアレイが考えていたよりも、温かい人達だったのだ。別れの挨拶に尋ねた人全員が、一度はアレイを引き留めようとしてくれた
でもアレイの揺るぎのない決心を感じ、諦めがつくとようやく温かく送り出してくれた
しかし、ちょうどアレイのリーズ地方での唯一の友達が外出していたのは良かったのかもしれない。そいつに会ってしまっていたら、そいつの最後に立ち会えないであろう事に申し訳なさで心が一杯になってしまいそうだったから
そして煌球が最高地点に達した少し後に、アレイはリーズ地方を出発した
(お腹も少し減ってきたし、とりあえず冒険者ギルドを目指そう)
冒険者ギルドまでは歩いて2時間くらいだろうか
その道のりは土が押し固められて歩きやすくなっており、そのわきにはとてものどかなウィーツ畑が続いている。
(何度も妻と歩いた道だ、、、)
そんな道を拭うことのできない寂しさを胸にぼんやり歩いていると、遠くに見慣れた人影をエルフの人域を超えた目は捉えた
それからしばらく歩き、その人影が誰なのか確信が持てるようになった途端、アレイはどこかに身を隠せる場所が無いか探す
探すまでもなく周りは背の高い黄金色の植物であるウィーツが一面に広がっているため、そこに踏み入ってしまえば身は隠せるのだが、そういうことではないのだ
ここで声を掛けなかったら一生の後悔に繋がる事はアレイには分かっている。しかし、別れの挨拶の一瞬の気まずさと申し訳なさを味わいたくないという思いが、現時点では実感のない一生の後悔とせめぎ合っている
しかし、アレイは思い出す。徐々に近づいてくるリーズ地方唯一の友への感謝を。
アレイは、それを伝えず、隠れているアレイの横を友がよぼよぼの足取りで通り過ぎていくのを黙ってみている薄情者ではない
少し歩く速さを落として、内心緊張しながら道のりを行く。徐々に二人の距離は縮まり、老人の目にも相手が誰なのか認識できる距離となる
もう不思議とアレイの心に不安はない
そして二人は微笑を浮かべより近づき、会話が出来るくらいの距離で立ち止まる
「シラ、私は旅に出るよ」
その言葉を聞いたアレイの友である老人は、「全て分かっている」という顔で言う
「お前がなるべく遅く来るのを、少し早めに行って待ってるよ。じゃあな」
「じゃあ」
二人はお互いに感謝を伝えるわけでもなく、反対方向に進んでいく
でも二人にとってはそれで良いのだ。それが友という存在だから
シラと別れて、彼との思い出に耽りながら歩いていたら、気が付いた時にはすでに冒険者ギルドに着いていた。直方体に三角錐を乗せたような構造の冒険者ギルドの扉は、珍しく閉め切られていた。いつもは見える中の喧騒の様子が今日は見えない
(まあ、そんな時もあるか)
少し不思議に思うが、自分の中で勝手に納得して、重厚な木製の扉を開ける
その中の様子はアレイが想像していたものとは全く違うものであった。冒険者たちは複数ある円机の椅子に大人しく座り、真剣に奥の受付の前に立つ受付嬢らしき人の話を聴いていた。話をする受付嬢の隣には不服そうな顔をしている騎士のような男が腕を組み、仁王立ちをしている
しかし、その状態が観察できたのは一瞬で、今は全員の視線がアレイの方を向いている
アレイはその視線に耐えかねてギルドを出ようとするが、そんなアレイを受付嬢が呼び止める
「待って下さい。参加者の方ですね!大丈夫ですよ。説明は始まったばかりですから」
(ん?参加者?何か勘違いされているな)
「場を乱してしまい申し訳ございませんでした。私は参加者?ではありませんので失礼します)
アレイは口が乾燥していくのを感じながら、一息で言い切って、ギルド内の反応を見ることなく扉を閉める
(あ~緊張した~)
アレイは何年生きても、ああいう気まずい瞬間が苦手だった。
(ギルドに寄るよりも先に昼ご飯を食べに行こう)
いくら悲しみに暮れているとはいえ、2時間も歩き詰めだとさすがに空腹だ
アレイはとりあえず目に入った、冒険者ギルドの向かいにある、ワインとパンが描かれた看板が掛けてあるお店に入る。そこで、パンと薄味の野菜スープとブルートードのワイン煮を注文し、自分でも驚くほどすぐに食べ終わる
(うん、おいしかった)
アレイはまだ美味が残る口に満足しながら、会計場所に立つおばさんの所へ行く
「じゃあ、冒険者カードを見せてね」
アレイは何故冒険者カードを見せる必要があるのか疑問に思いながら、古びた冒険者カードを懐から出して提示する
しかし、そのカードをみた会計のおばさんは、怪訝そうな顔をして首を横に振る
「これはなんだい?随分と古ぼけているねえ。これじゃあ証明にならないよ!1200ニュウね」
「1200ニュウ!?どういうことですか?メニュー表には600ニュウと書かれていたではありませんか。」
いつもは冷静なアレイだが二倍も価格が向上していることについつい声が大きくなってしまう
そんなアレイの言葉におばさんは呆れたような目をアレイに向け、不機嫌そうに話す
「メニュー表をちゃんと読んだのかい?「冒険者限定価格」って書かれているよ」
アレイはおばさんの言葉で思い出す
(うわ。確かに書いてあったかも)
「で、でも私は冒険者です」
「それはいつの話だい?冒険者カードは5年に一回新しいのが発行されるんだよ。でもあんたのはずいぶんと古い物みたいじゃないか。そんなのは駄目だよ。せめて10年前以降のものでないと」
周りの客達のくすくすとした笑い声が聞こえる
「し、、、分かりました」
アレイは何も言い返せなくなり、大人しく1200ニュウを置いて店を出る
大人しく引き下がったのは、少し予想していたからだった
(やっぱりか~。そういうことがあるかと思ってギルドに先に行きたかったんだよな)
気を落としたアレイは、扉が開いているのでどうやら説明会が終わったであろう冒険者ギルドに、とぼとぼと向かう




