サンドウィッチと出発
何度も目の端に涙が染み出させながら、ビックキャタピラの幼虫を食べ終えたアレイの体は、一応死の危機から脱したようだった。どうやら、エネルギー不足で死にそうだった時よりも死にそうだったようだ
(あ~あ。あのままずっとベッドで寝てれば死ねたのにな)
最低(限)の食事をし、「生きる」こと以外も脳が考えられるようになったせいか、ベッドから這い出て生きる道を選んでしまった事を後悔する
しかし、アレイも250年余り生きてきて、今更後悔してもどうしようもないことは重々と分かっているので、切り替えて旅支度をする
(わざとする餓死はナーシャに怒られそうだから一応、干し肉と乾パンを持って、水入れ、着替え、10000ニュウ、、、、あとは、、、剣と杖か。どれだけ生きれるか分からないが、とりあえず必要最低限の荷物は持ったな)
アレイは旅支度を終え、早速家を出発しようとするが、、、
ぐ~
少し気力が出てきた途端、アレイの体は空腹を知らせる
(そういえば手のひらサイズの芋虫しか食べてなかったな)
流石にこの空腹で出発するのは、耐えられないので再び冷凍室に足を運ぶ
アレイは冷凍室に入ったが、どうやら寒さ耐性の効果がいつもよりは劣ってしまうが一応発揮しているらしい。少し寒いくらいだ
先ほどは考える力も無かったため全く思いつかなかったが、体の周りを目が光を認識できないくらいの薄い火の膜で覆い、寒さを凌ぐ
ナーシャが生きていた時は、ナーシャの光魔法が扉を開けると作動していたのだが、死んでしまったため冷凍庫内に光が下りることはなく、漆黒に包まれている。その事実が少しだが気力が出ていたアレイの心を再び黒く染め上げようとする
(アツ!!)
悲しみによって心が乱れたせいか、体を覆っていた火の幕が若干暴走し、アレイの肌とデスゴートの毛で出来た服を少し炙る。しかし、そのおかげと言うかせいと言うかアレイの心が再び悲しみに支配されることは無かった
ほんの少し恐怖心を覚えたアレイは火の膜を消し、鳥肌を立たせながら、灯りとしての火を出して冷凍室内を探索する。自分の家の冷凍室なのに探索してしまっているのは、冷凍室に入るのは大体ナーシャで、アレイが冷凍室に入るときは大物を仕留めた時だけだったからだ。解体した大物を入れる時も、適当に冷凍室内に置くので冷凍室内はアレイにとって未知なのだ
冷凍室内をしばらく探索したアレイは、丁寧に包装された塊が目に付く
そこに到達するまでに、つい最近狩ったグレートボアの肉やコカトリスの肉に何度か躓きそうになる
やっと到達したアレイはその包みを手に取り、包みを開く
内容物が見えた瞬間、アレイの心は愛おしさで一杯になる
包みに入っていたものは、ナーシャが死ぬ三日前にナーシャが作ってくれた最後の朝食のサンドウィッチだった。アレイはその最後の朝食を忙しくて食べることが出来ず、それをずっと後悔していたのだ
アレイは包みを大切に抱えて、冷凍室を出る
冷凍室を出たアレイは、椅子が四つ綺麗に配置されている机に、その椅子達の一つを引いて座る。アレイとナーシャに子供はいなかったため、椅子は普段二つしか必要でなかったが、客用に四つ準備されてある。今や、二つも必要ないのだけれど
椅子に腰かけたアレイは、包みを丁寧に広げ、硬く凍ったサンドウィッチに手をかざし、火の魔法で温める。1分ほどしてサンドウィッチは完全に解凍し、少し表面が温まった状態となる。アレイはもう少し温めることも考えるが、やりすぎて焦がしてしまい、ナーシャの最後の手作りの朝食を台無しにしてしまうのは絶対に許せないので、まだ冷たいが食べることにする
サンドウィッチを口に運ぶと同時にアレイの目には再び涙が溢れてきた
(いつも食べてた味だ。これからもう、私はこの味を食べれないのか)
夢中になってサンドウィッチを齧るが、口に入り込んでくる涙のせいでサンドウィッチが少し水っぽく甘く感じる
あっという間にサンドウィッチを食べ終えてしまったアレイは、腹も満たされたし、とうとうこの家で流す涙も枯れ切ってしまったため、いよいよこの冷たく愛おしい家と別れを告げる
アレイにはこの家の近くにあるナーシャと同じ墓で、安らかに眠りたいという考えがもちろんある。けれど、そんな面白くないことをしたらナーシャに怒られてしまうし、もし世界の裏側で死ぬことになっても、必ずナーシャとあの世で会えるという確信がある
そして、アレイはこの旅に対する考え方を変える
(この旅は、死ぬための旅ではなくて、ナーシャに会いに行く過程のちょっとした寄り道だ)
アレイは何かしらの植物の紋様が描かれた質素な見た目のショートソードを腰の鞘に納め、先端に紅に煌めく宝玉が埋め込まれた長杖を手に強く握り、家を出発する




