至福と消失
俺の気分は非常に晴れやかだった。その理由として、今さっき相変わらず美味しいメアリの朝食を食べたからというのもあるが、それに加えてなんと詠唱を思いついたのかもしれなかったからだ
寝ている間、俺の頭の中に熱風魔法の詠唱らしき文字列が流れ込んで来たのだ。もちろん、寝ている間にそれが熱風魔法の詠唱かもしれない、なんて思うことは無かったのだが、朝起きてぼんやりと頭に浮かんでいる言葉を何の気なしに呟いてみたら、それっぽかったのだ。そして、それが寝ている間に流れてきていた事を思い出したのだ
何というか不思議な体験だった。風景など無かったし、夢っていう感じではないのだが、夢だったような感じがするのだ
それより、早く熱風魔法を試したくて仕方がない
俺は昨夜の出来事について考えることを放棄して、マッシュに声を掛けて外に出る。
今日マッシュが何もない日で本当に良かった。もし外で出来なかったら、この興奮に身を任せ、家の中でやっていた可能性が高い。もしそれで成功した場合、熱風だから家が火事になるかもしれない
そんな幸運といつも見守っていてくれるマッシュに感謝しつつ(見守りすぎなのが遺憾だが)、俺は筋トレをするのをすっぽかし熱風魔法に取り掛かる。
耳が欠損した夢の中の火柱のように、酸化物が燃えて火が立つのを想像し、そうして生じた上昇気流によってその周辺が低気圧になり、そこに風が流れ込んでくるのをイメージする。そして入り込んだ風が漏れ出てくるのイメージする。
もちろん、それらのイメージと同時に詠唱を行う
今回は詠唱とイメージをし始めてから、マナの堰き止めを開放するために、体をくねらせる
(この動きをもしあの時にマッシュが見ていたのだとしたら、お漏らしを疑われて当然だ)
「我は熱と風のワルツを指揮する者なり。そのワルツは常軌を逸し、希望へと昇華する。我が指揮で踊り、熱風となれ」
イメージと詠唱を終え、マナが分流し体中を巡った瞬間、俺に向かって少しぬるい、ちょうど嫌な感じの温度の風が吹いた
その風に不快感を一瞬だけ感じるが、一瞬は字のごとく瞬時に過ぎ去り、喜びと驚きの彼方へと俺は飛ばされる
(やばい!やばい!!やばい!!!)
俺は喜びのあまり、元々少ない語彙が遂に「やばい」という一単語になってしまう。
数秒経って少し落ち着きを取り戻す
(やった。やっとだ。やっと熱風魔法が使えた
マッシュやメアリに早く知らせたい。あと、クラリーにマウントを取りたい)
俺は、多分この村で俺しか使えないだろう熱風魔法を使えたことに鼻が高くなり、両親に自慢したい欲求が爆発的に生じる。そして、天才クラリーでも一生使えないであろう魔法が使えたことで、日頃感じていた劣等感が押しのけられて、そこから「マウントを取りたい」という醜い欲求が這い出てくる
しかし俺は、クラリーは本物の六歳児であることを思い出し、そんな子にマウントを取ろうとしていた自分が恥ずかしくなって、その醜い欲求を仕舞い込む
ともかく、両親には自慢しよう
シュンは、気持ちが良いのは自慢した瞬間とその後の少しの時間だけ、ということをすっかり忘れ、シュンとメアリに報告しに行く。それでやはり、最後にはただただ恥ずかしくなり、ちょっとだけ後悔するのである
俺はその日の夕飯で、前々から密かに願っていた事がどうやら叶いそうであることが、シュンの口から告げられた
「シュン、明日、村長に挨拶に行くぞ」
「え!?いいの?」
俺は二年前にマッシュに叱られたことを思い出し、反応に困ってしまう
「本来なら7歳になってからじゃないと、ダメなはずなんだが、昼に話をしに行ったら今日の村長はやけにご機嫌でなあ、
明日お前を連れてこいって言われたんだよ」
マッシュは困惑している様子で話してくれる。けれど、なんだが嬉しそうだ
「へえ~、、、」
え?これ素直に喜んでいいのか?何か裏があるか?
「お前も困惑していると思うが、とにかく明日挨拶に行くからな」
「うん」
俺が表情を少し硬くしていたせいか、メアリが「村長は優しい人だから安心しなさい」と言ってくれた
俺は、その言葉で一つの不安要素は取り除くことが出来た
とにかく、念願だった事の一つである「村長と会話」が叶うことを喜ぼう
明日が不安だけど楽しみだ
しかし、俺が村長と話すことは無かった。いや、俺の身体は話したんだけど、、、。意識は話していないのだ。まあ、それが分かるのは少し後になってからなんだけど
村長との挨拶が決まった日の夜、シュンのこの世界での意識は途絶える事となった。
取り敢えず一章が終わったので、3週間ほど投稿をお休みします。その間に一章の訂正を行います。話が大きく変わることはないと思いますが、言い回し変えたり、設定を入れたり、矛盾点、おかしな点を解消したいと思います
ついでにタイトルも変えるかもしれません




