おかしな夢
「では、僕は帰ります」
その一言で俺のことを再認識したクラリー一家は、少し苦笑いの申し訳なさそうな顔をする
「ありがとうね。シュン君」
「シュン、クラリーのことありがとうな。本当は「メシでも食ってくか?」って言いたいところだが、メアリさんが作ってくれてるよな。とにかく、助かったよ」
「あ、、、あ、ありがとう」
両親の感謝から一拍おいて、クラリーはぎこちない様子でお礼をする
(感謝されるのきもちい~~~)
勿論そんな事を思ってしまうが、それを顔に出さないようにポーカーフェイスを必死に保つ
「気にしないで下さい。では」
俺は颯爽と去っていく
多分、傍から見たらスキップしそうなぎこちない去り方だっただろう
最後はダサかったが、なんていうことがあって、それから俺はクラリーと親しくなったのだ
それで、俺は何故か「クラリーより自分の方が何に関しても上だ」という錯覚に陥っていたのだが、最近はその錯覚していた光景も徐々に正確に見る事ができる様になってきた
圧倒的にクラリーの方が俺よりも数多くの才能を持っていることを思い知らされている
「数多く」と言っているように、クラリーの輝かしい才能は魔法だけじゃない
俺は神様からのギフトで言語を理解する事ができたわけだが、前世の俺が「物語」を作れるようになったのは6歳辺りだった(どうやらこれは一般的らしい)。しかし、クラリーは4歳の頃には自己流の物語を紡げていたようだ。クラリーの家にも勿論本はあり、そこから学んだのだろう。彼女には文学的な才能もあるのだ
よく「人と自分を比べるな」とは言うけれど、俺は人と自分を比べてしまう
だが、これは何も俺に限った話ではないだろう。大抵の人は自分と他人を比べている
その中の多くの人は、今の自分と今の他人を比べているのであろう。しかし俺は、将来的なその人の成長可能性と自分の将来的な成長可能性、すなわち才能で比べてしまう
だから、今の俺はクラリーよりも優れている点がいくつもあるだろう(すでに魔法のことでは追い越されているが)。でも、自分の才能とクラリーの才能を比べた時に感じる大きな差にとてつもない敗北感を味わうのだ
そういう時は前世で身に付けた、「ナンバーワン」じゃなくて「オンリーワン」思考という自己防衛術を発動する。その思考法は、「自分の持つ才能の組み合わせは世界で一つだけだ」と考える
言いたいことは分かる。「ダッサ。」だろ
自分でもそう思っているが、そう思うことにより与えられる自尊心へのダメージより、才能の差を感じて与えられるダメージの方が遥かに大きいため、無意識のうちに行ってしまうのだ。そうやって自己防衛したら、あとは「自分の敵う相手ではない」と認識し、精神的ダメージを与えてくる相手、すなわち才能を持つ者を遥か高みへと昇華させて、見えないようにしたらおしまいだ
自覚しているが俺は相当な小者だ。だけど、生きやすいので万事オッケー!だ
その作業を終えた俺はようやく眠りにつく。
「*****ウォーターボール!」
良く晴れた日の正午過ぎ、クラリーの中級水魔法をもろに食らった俺はずぶ濡れになる
「もう~クラリーやめてよ」
クラリーに文句を言いながら俺は熱風を発生させ、濡れた体を乾かす。体はある程度乾いたので、髪を乾かそうと頭に手を置く
ぺた。
(ん??あれ?)
頭に違和感を持った俺は手を左右上下に動かす
つるつるつるつる
え、え、え、え。髪がない!
「メアリ、夜びっくりしたよな」
クラリーの魔法の才を見ないようにした次の日の朝食、マッシュはフランスパンによく似たパンをかじるなりメアリにそう笑いかける
「そうね。シュンが急に叫びだすから」
絶賛咀嚼中だったメアリも口元を隠し、笑いながら賛同する
「えぇ!?僕叫んでたの?」
「覚えてないのか?」
「全然覚えてない。なんて叫んでたの?」
「俺はシュンの叫び声で起きたからな。なんて叫んでたかまでは分らんな。メアリは分かるか?」
「そうね~私もシュンの声で起きたから正確では無いと思うけど、「あみが!!」って叫んでたと思うわ」
マッシュに振られたメアリは、フランにキャベピーのスープに浸して柔らかくしたパンを少しずつ食べさせながら自信なさげに言う
(あみが?どうして、そんな訳の分からない文字列を俺は叫んだんだ?)
俺はその答えが見つからないまま、朝食を終えた
そして、その答えに思い当たったのは突然だった。それは、いつものように生命魔法の修行(とは言ってもただの筋トレに近いが)に励んでいた時だった
今日の天気は快晴で、夏前なのでとにかく暑く、「水を頭からかぶりたい」と思った瞬間に、今日の夢がフラッシュバックした
(あ!!そういえば、ハゲた夢を見たんだった。じゃあ、「あみが!」じゃなくて「かみが!」か~)
今日の朝の会話の答え合わせが出来て少し感激するが、そんなことよりも今日の夢の中に強烈な興味が湧き出てくる事があった
(俺、魔法で熱風を出してたな)
俺はさっさと今日の生命魔法の修行(いや、もう筋トレと呼ぼう)を終わらせて、家に戻る時間も勿体なく感じてしまうし、風の初級魔法の詠唱は覚えているので(メアリがぶつぶつ言っているのをよく聞いていたので一瞬で覚えれた)、そのまま雲一つない空の下で初級風魔法を試してみることにする
俺は水や火の魔法と同様に、詠唱とイメージを同時に行う。今回は太陽に背を向けることによって出来る日陰と日向での気圧の差をイメージする。実際はほとんど差など無いだろうがイメージで増幅させるため何ら問題はない
「天は呼吸をし、世界に恩寵と災いを齎す。我、その恩寵をあやかる者なり。微風よ駆けろ」
詠唱を終えた瞬間、俺の「中の中の上の顔」(異世界でも変わらなかった)に向かって百均に売っている扇風機程の微風が吹いた
一瞬、自然現象か魔法か判別がつかないが足元の草花がなびいていないのを見て魔法だと確信する
「、、、よっしゃ!」
俺の中で何となく成功する気がしていたので、驚きは小さいがやはり喜びは大きい
しかし、今回の俺の目的は風魔法を使えるようになることでは無い(まあ使えないと話にならないんだけど)。熱風を出せるようになることが目標なのだ
それで俺は、今現在思いついているただ一つの方法を試してみることにする。それは、ただ詠唱を繋げてみるという方法だ
俺にもっと高性能な頭脳があればもっと論理的で、複雑な方法が思いつくのかもしれないが、それができないのが俺の頭脳なのでとりあえず思いついたアイデアから試してみる
そして、試してみようとした瞬間に気づく
(あ、、、イメージどうしよう)
そう。イメージをどうしたらいいのか全然思いつかないのだ。
しばらくその場に突っ立って考えてみたが、それでもクリティカルなアイデアを何も思いつかないので、家に帰って考えることにしたが、家に帰ってもやはり思いつかないので、その日は諦めて眠りにつくことにした
そして、今夜の夢も俺の頭は引き続き寂しく、夢の中で淋しい気持ちになるが、俺を淋しい気持ちにさせたのは頭が寂しいことだけではなかった。そのもう一つの原因は夢の中から音がなくなってしまったことだった




