馴れ初め
俺は就寝前にクラリーに先を越されたことを、自分の中で「仕方がないことだ」ということを必死に理由付けして落とし込んだ。俺は初級魔法が数個使えただけで、割とマジな天才であるクラリーをライバルとして見てしまったが、「次元の違う存在」として見ないことにした。その方が気が楽だからだ
自分でも思うが、「ダサい界の重鎮くらいにはなれる」
さて、クラリーと俺は2年前はクラリーが一方的に嫌っていただけだが、仲が悪かった。しかし、それからある出来事があって俺はクラリーに慕われるようになった、、、
俺の水の初級魔法失敗から半年ほど経ち、寒さが厳しくなってきたある日の夕方。
暖を取るための薪をマッシュが昼間に割っていたため、俺の日課の修業はいつもより少し遅い時間にやることになった
20秒ほどかかってマナの処理を終え、ようやく俺が魔法を発動しようとしたタイミングで、少女の泣き声がテキラの木の裏から微かに聞こえてきた。俺の意識は全てテキラの木の裏向いてしまい、魔法を発動することができなかった
(うるさいなあ)
俺は自分の集中力のなさを誤魔化すために心の中で悪態をつき、再び魔法発動のために神経を研ぎ澄ませる。しかし、耳の方に神経を研ぎ澄ませてしまっていたらしく、少女の泣き声がより一層やかましく聞こえる
「父さん。クラリーが泣いているから様子を見に行ってくるね」
「うーい」
俺はこのままでは埒が明かないことを悟り、割ったばかりの薪とそこら中に落ちている枯葉で焚火をし、夕食後のデザートのさつまいもによく似た芋のチョウシュウイモを焼いているマッシュの了承を得て、テキラの裏にいるであろうクラリーの元へ向かう。それがクラリーじゃなかったら、今日は一人でトイレ(簡易的だが、なんと水流式だ)に行けないだろう
ほんの少しだけおびえながら、泣き声の元へ向かう
「クラリー、こんな所で泣いてどうしたの?」
やはり正体はクラリーだったことに安堵しつつ、横に立ち、なるべく怯えられないように最大限優しく聞いてみる
俺の姿を捉えたクラリーは一瞬バツの悪そうな顔をして、再び泣き始める
(おいおい、無視かよ)
「おーい。クラリー大丈夫かー?」
ウェーん、ぐすん、ぐすん、、、
30秒ほ経っても嗚咽と鼻をすする音しか聞こえてこないので「帰ってしまおうか」という気持ちになるが、夕暮れの寒い中、一人で泣いている少女をこのままにしておくのは流石に俺の良心(少々歪んでいるかもしれないが)が痛むので、粘り強く声をかけ続けることにする
「もしかして、お母さんに怒られたの?」
、、、、
「お父さんに怒られたの?」
ピク、、、
クラリーの眉毛が一瞬動いた。
この反応はお父さんに怒られたな。よし、追い打ちをかけよう
「どうしてお父さんに怒られたの?」
!!
よほど聞かれたくないことだったのだろうか?クラリーは歌舞伎役者もビックリな目力で俺を睨めつけてくる。しかし、俺は四歳児の睨みつけにしり込みするような男ではない。だから俺は次の手に出る
相当な鞭を食らったようなので俺からは飴を与えよう
「僕が一緒に謝ってあげるから何をしちゃったか言ってみてよ」
クラリーは今、怒らたせいで家を飛び出だしきてしまったが、のこのこと戻るのも気まずくて「どうしよう」という状況なのだろう。そういう時の「一緒に謝ってあげる」という言葉は効果抜群だろう
クラリーは俺をもう一睨みしてから、諦めたように顔の力を抜き、ポツリポツリと話し始めた
「クラリーがテキラの木にバーってやるのでおうちに絵を描いたの」
「うん」
「それで、ママに「やめなさい」って言われて」
「うん」
「クラリーはまだまだお絵描きしたかったからお絵描きしたの」
「う、うん」
「そしたらパパにも「やめなさい」って言われた」
「うん」
「「嫌だ」って言ったの。そしたらお外に出されちゃった」
俺は「それは100対0でクラリー悪いね」って言いたいのをグッと抑えて相槌を打つ
てか、家出少女じゃないんかい。追い出され少女かい
てっきり俺は自分から出てきたものだと思ってしまっていた。そういえば、そういう事をし始めるのは思春期に入ってからか
「そっかあ。じゃあまず、おうちを綺麗にしないといけないね。そうしないといけないのはクラリーも分かっているでしょ?」
こくり
クラリーは小さく首を縦に振る
「じゃあ一緒に綺麗にしに行こうか。」
俺の一言を聞いたクラリーの顔に、家に戻らないといけない不安と誰かが一緒にいてくれる安心感が混ざった表情が浮かぶ。その表情に俺への警戒の色は見て取れない
俺はマッシュにクラリーの家に行く旨を伝えて(あっさり許可が出た)、いよいよクラリー宅に向かう
(やばい、俺も緊張してきた)
俺がクラリーの家に行くのは赤ちゃんの時を除いたらこれが初めてだ。母親のミュラーさんだけでなく父親のログさんとも見つけたら手を振る関係なのだが、その人達のテリトリーに入っていこうとするのはやはり緊張する。しかも、身内の問題に顔を突っ込もうとしているため尚更だ
そして、いよいよクラリー宅の玄関前に到着してしまった。
「じゃあ、クラリー行くよ」
こくり
俺は顔をダイヤモンド以上に硬くしているクラリーに一声かけてから、俺も意を決してドアを叩く
「すみませーん!シュンです!」
「はーい」
ドアは俺たちが来るのが分かっていたかのように、ミュラーさんの声と同時にすぐ開けられた。ミュラーさんのすぐ後ろには相変わらず厳つい見た目のログさんもいる(俺は思うのだが、両親二人とも厳ついため、クラリーは将来絶対に筋肉ムキムキだろう)
「シュン君どうしたの?」
敢えてクラリーの方を見ないようにしているのか、俺がクラリーの将来像を考えていたことが読まれたのか、ミュラーさんは俺の方を真直ぐ見て聞いてくる。
「クラリーがお家を汚してしまったと聞いて、クラリーと一緒にそう」
「ママ!パパ!ごめんなさい!」
クラリーは俺の言葉を遮って、目に涙を溜めながら必死に謝る
、、、、、
そんな娘の謝罪を聞いた両親は、微笑みを浮かべてクラリーの頭を撫でる。
「クラリー。やめなさいって言われたことは一回で聞こうな。」
「謝れて偉いわクラリー。あの絵は記念にそのままにするわね」
「うぇーん。パパ、ママごめんなさい。ごめんなさい、、、」
両親のぬくもりに触れたクラリーは泣きじゃくりながら、何度も謝る。余程、「許されないかもしれない」という不安と罪悪感があったのだろう
(良かったねクラリー)
さて、掃除もしなくていいっぽいし、俺は忘れ去られているし、修行の続きをしますか




