食卓にて
火の魔法が使えた感想としてはもちろん大喜びなのだが、それよりも安堵が大きかった
この二年間で分かったことの一つに、やはり「マナ量」たるものがあるっぽいということが分かった。生命魔法を限界まで連発して使うと、いわゆる「マナ切れ」になり、その瞬間からインフルエンザに似たような症状が3日間程続く
水魔法が使えたことで調子に乗って、火魔法も試した訳だが、使えた瞬間に「マナ切れを起こすかかも」という事実に気が付き、ビビっていたのだ。
結局、マナ切れを起こすことは無かったため安堵したというわけだ
(今日は魔法関連の事はやめておこう、、、「慣れない魔法はマナ切れまでのリミットが近くなる」みたいな可能性もあるしね)
俺はこの流れに乗って風魔法も試してみたかったのだが、インフルエンザが怖いのでやめておく
居間に戻るか
俺は桶を持ち上げようとするが、水が入っている事に気が付く。このまま持っていったら、マッシュは狩りに出かけているので問題ないが、メアリに気が付かれるのは自明の理であるので、「この水、飲み干すまで帰れません」が強制的に始まる
じゃあどうやって「いつも気が付かれないように桶を持って行っているか」という話だが、気が付かれていないというわけでなく、ペンと紙を桶に入れておくことによって、桶が付随していても「ただの子供のお気に入り」として処理されるのだ。
俺はオシッコが止まらなくなることを覚悟して水をがぶ飲みする
飲み干して、オシッコを一時間に2回ほどするというのを繰り返していたら夜になった
(やべえ。めっちゃ自慢したい)
今俺は、今日マッシュ達が狩ってきたボア(イノシシのでかい版)の肉が置かれた食卓を家族で囲いながら、そんなことを考えている
(そういえば、二年前に「「天才」のレッテルを称号に変えよう」っていう決心をしたんだったな。じゃあちょっとくらい自慢してもいいんじゃないか?)
俺は忘れかけていた決心(桶を隠して持っていこうとしているくらいだし、さっきまで「バレない様にしよう」って思ってたくらいだからな)を思い出し、自分の承認欲求を満たすための踏み台にしようとする
しかし、自慢が実現することは無かった。それはマッシュとメアリがちょっとした心配事を話していたからである
「ゲルトンさんが心配ね~」
「まあ、骨が折れてたわけでもないし、すぐに意識を取り戻していたし大丈夫だろ」
マッシュたちは集団で狩りを行っているのだが、その集団の一人、ゲルトンさんが突っ込んできたボアに弾き飛ばされて気絶したそうだ
ゲルトンさんは茶髪に白髪が混ざり始めた中年の筋肉隆々な顔の濃い人だが、その見た目に反して気さくで優しい人だ。時々うちに森で採れたキノコを持ってきてくれる
俺はそんなゲルトンさんが大好きなので、自慢は置いといてマッシュに一つ確認する
「ゲルトンさんは生命魔法とか色んな魔法が使えないのに本当に無事なの?」
そう、ゲルトンさんは魔法が使えないのだ
「大丈夫だ。なんなら、魔法が使えるよりも安心だぞ」
(魔法が使えるよりも安心?どういうことだ?)
「どういうこと?」
「魔法が使えない人はほぼ確実に、生命魔法とは別の身体強化が使えるんだ」
(なにそれ!初耳なんですけど、、、)
「へ~~。知らなかった。どれくらい強化されるの?」
「まあ人にもよるが、俺の魔法くらいの人もいれば、俺より遥かに強くなる人もいるな。ゲルトンさんみたいにな。ちなみに、そういう人が村には3人いるぞ」
「そうなんだ。え、じゃあなんで魔法も使ってないのに身体強化せれるの?」
「それは父さんには良く分からんな。メアリ、分かるか?」
マッシュは「一応」という感じでメアリにも聞く
「私にもわからないわ~ほんとになんででしょうね」
「だよな~」
俺なりの考察としては、いわゆる「氣」とかそういった類のものだろう。異世界では定番だしね
でも、この世界にきてその「定番」という概念が俺の中で相当ぶれてきているので、自分の考察にあまり自信はない
「そうそう、クラリーちゃんのことなんだけどさ」
メアリが「思い出した」という風に話を切り出す
「水の中級魔法も使えたらしいわよ」
(え!?すご。)
クラリーが水の初級魔法をつい最近使えるようになったのは聞いていたが(その時は「やっとか」という上から目線の感想を抱いていた)、もう中級を使えるようになったのか
「クラリーは天才だね」
俺は同年代のやつに先を越された悔しさを噛み殺し、クラリーを称える
「そうね、クラリーもシュンも天才ね」
「そうだな!」
両親は相変わらずの親ばかを発動しているが、俺はその言葉が異様に悲しく感じられる
「母さん、父さん、僕じゃあクラリーの足元にも及ばないよ。でもありがとう。クラリーに負けないように頑張るね」
もう俺は、自慢する気なんてとっくに失せている。俺は初級の魔法が数個使えるだけなのだ。中級を使えるクラリーと比べたら何もできていないのと変わらない
(俺もすぐに中級魔法を使えるようになってやる)
夕食を終えた俺は再びプライベートルームに戻る
クラリーへの嫉妬を、やる気と「3日間ほぼインフルエンザの刑」の恐怖に打ち勝つための糧として、火の中級魔法を試すことにする。水魔法にしないのは「身近な人がまだ見ていない景色が見たい」という思いがあるからである。図らずも、その思いは言葉にするとかっこいいが、実際は嫉妬と逆張りからの思いなのでみっともない
嫉妬と逆張りにまみれた俺は、中級魔法の詠唱とバスケットボール大ほどの火の球を想像する
「我が元に集いし熱源よ、それは立ちはだかるものを」
そこでふと気が付く。本当に気が付けて良かった
(もし本当に成功しちゃったら、家吹き飛ぶわ。
うん。今日はやめにしよう。それにしても、こういうことになるから嫉妬を原動力にするのは良くないね)
俺は大人しく床に就くことにした




