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平凡転生者と寡夫のエルフ   作者: たこ足配線
ありがたい不自由
12/26

この気持ち≒あの頃の気持ち

俺は生命魔法が使えるようになった時から、常にマナを感じるように意識していた。自分の体内のマナの巡りを感じるのは容易にできるようになっていたが、周囲のマナを感じ取るのが困難極まりなかった

だが決して、感じ取れないというわけではない。しかし、瞬間的にフワっとしたものが感じられてもそれが持続しないのだ

そんな状態で、体内に影響を与える生命魔法以外の魔法が使えるのだろうか?

そんな不安を抱いたせいか、服と同じ麻のような素材でできた固い敷物が、今夜はより一層固く感じられた




翌日、俺は朝早くから目が覚めてしまった。台所から包丁の小気味良い音が聞こえてくるので、メアリは起きているようだ

一方マッシュはまだ俺の隣でディーの革でできた掛布団にくるまりながら眠っている。この地域には日本と同じで春夏秋冬があり、今はちょうど夏が顔を覗かせているような季節で、まだ朝は少し寒い。そのせいか、俺は震えが止まらなかった

いや、分かっている。俺は緊張しているのだ

自分でも何故こんなにも緊張しているのか分からなかった。もし今日、他の魔法が使えなくても死なない限り、幾らでも挑戦する機会はある。だから、震えるほど緊張する必要なんてないのだ。そのことを何度も自分に言い聞かせ、朝ごはんの時間になるころには、もう震えは無くなっていた


いつもより早い時間に修行を終わらせてしまい、昼食を済ませて、プライベートルームにこっそりと桶を持ち込み、いよいよ初級水魔法が使えるか試してみる

俺はいつものように、姿勢を整え、深く呼吸し、体内を巡るマナを感じ、周囲のマナとコネクトするのを想像する。それから昨日急いで覚えた詠唱を発する


「天より授かりし奇跡の液体は変幻自在にその姿を変え、我らを魅了する。我、水を求めるものなり。我が思いに応え、水よ顕現せよ」


、、、、、、、、、、


しかし、俺の思いに応えてくれたのは長い沈黙だけだった


焦燥に駆られながらも何度も試す。しかし、何度やってみても無理だった

俺は絶望に近い感情を胸に抱く

心では「まだいくらでも挑戦できるから落ち込む必要なんてない」と分かっているはずだ。けれど、「今後も一生使えないのではないのか」というねっとりとした不安と絶望がが俺の心に光が入らないように纏わりつく

そして気づく、俺はこの感情を知りたくなくて緊張していたのだ。いや、今思うと緊張というよりも恐怖していたのかもしれない

生命魔法が使えるんだからいいじゃないか!という野次が飛んでくるかもしれない。認めよう、俺は飽き飽きしながらも「全属性の魔法が使えて無双します」という主人公に憧れていたのだろう


(はあ、いいよな魔法を自在に扱えるし、尚且つマナを無限に持つような奴らは)

、、、、ん?


俺は自分の愚痴に躓きを覚える


(マナを無限に持つ?、、、マナの限度?、、、、あ!)


俺を絶望から掬い上げてくれるような言い訳を思いついた。そう、俺自身のマナ切れだ

この世界に「マナを持つ」という概念があるのかは分からないが、俺は今日すでに、修行で一回魔法を発動させてしまっている

それなら、いわゆる「マナ切れ」とラノベとかで言われるような現象が起きていても仕方あるまい。「自分自身の持つマナ量」というような内容の本を一度も見たことが無かったので、すっかりそういう概念があったことが頭から抜けてしまっていた

この世界に来て、あまりのこれまで読んできたラノベとのギャップに、ラノベを恨むというか妬むことが多かったが(俺がキラキラしたような作品ばかり読んでいたのが悪いのだが)、初めてラノベに救われた気がした。

今回の出来事で、前世のちょっとした話を思い出した

それは、高校生の頃に「当時好きだった子に彼氏ができた」という噂が立ち、俺は絶望を感じたのだが結局ただの噂だったことが判明し「俺の恋人になった」というわけではないのにそういう錯覚をした、という話だ

今回の出来事による俺の感情の変化にあまりにも近しい感じだったのでついつい思い出してしまったのだろう

まあ結局、その子は「俺と付き合う」なんてことはなく、顔良し性格良しの子と付き合うことになったのだが

俺はそんな悲しい過去を頭から追い出し、明日に期待を膨らませる。もちろんその膨らみの中には拭え切れない不安が混じっている


俺は「マナが残っていれば使える」という思考と、「やっぱ無理かもしれない」という思考を無限に繰り返して今日の残りの長い時間を過ごした



そしてようやく次の日になった

俺は朝食を急いで済ませ(あまりの急ぎ様にマッシュとメアリには不思議がられた)、昨日と同様にこっそりと桶をプライベートルームに持っていき、深呼吸をし、体内を巡るマナを感じ、周囲と繋がるイメージをする。そして詠唱する


「天より授かりし奇跡の液体は変幻自在にその姿を変え、我らを魅了する。我、水を求めるものなり。我が思いに応え、水よ顕現せよ」


そして、俺の目の前に溢れんばかりの水が湧き出る

なんてことは無く、今回も沈黙が答えた


好きだった子に本当に彼氏ができたと聞いたときの感情と同じ感情が隆起する


俺はやっぱり水魔法が使えないんだ、、、


虚無が9割を占め、悲しみと絶望と諦めが一対一対一で混ざったような感情が残りの1割を占める


しかし、彼氏ができたと聞いた時も今回もそうだが、どこか冷静な俺がいる。


あの時はそんな俺が「どうして俺を好きになってくれなかったのだろう」という問いに対して、答えを教えてくれた。「お前が行動を起こさないからだ」って。

今回も「どうして俺には水魔法が使えないのだろう」という問いに対して、答えを出してくれそうだった


、、、、、。


どうやら答えが出たようだ


「お前は詠唱やマナを感じるのに必死になりすぎて、全く「水」をイメージしていないからだ」


(あぁ!すっかり忘れてたわ)


俺はアホ過ぎたようだ

本にも書いてあったじゃないか「魔法の効果を具体的にイメージすることで魔法が使える」って

重要すぎる条件を思い出した俺は、早速魔法の効果をイメージし再び水魔法を試してみる

そして、ある結論に至る。


あかん。イメージしながら詠唱するのむっちゃムズイわ




























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