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平凡転生者と寡夫のエルフ   作者: たこ足配線
ありがたい不自由
11/25

石鹸(っぽい)

「灰」って石鹸になることないか?


俺がその思考に至ったのは確かに、ミュラーさんとクラリーが灰を捨てていたのを目撃したことが大きなきっかけであることは間違いないが、灰なら自分の家でもしょっちゅう見ている

それで、「閃き」とか「発想の転換」というのは、凡人にとっては突然だということだ。凡人の突然の閃きや発想の転換は、周りの環境から脳がいつもとは少し違った刺激を受け取り、脳が持つ思考の癖から脱することで起きる

俺は普段、灰を見るときは家の中だ。しかし今回は、クラリー達が木の周りに灰を撒く、といういつも見る灰とは違った要素が加えられた灰だ(もちろん加えられた要素があるということは抜かれている要素もあるということだが)。そういったことが影響してその思考に至ったのであろう。

そして、根拠は後に付随する


「木の灰はアルカリ性だ」って農業体験した時の厳ついおじさんが言ってたな。

やっぱ石鹸になるんじゃね?


俺は自分のアイデアに確信を持ち、その発想が出た喜びと、やっと石鹸が作れる目途が立った喜びで、少し鳥肌が立つ


皮肉なことに、人間はある物事に関しての知識が薄いと、その物事に対して思考した時に思考材料とその物事の共通する部分の割合が大きくなってしまうため、その考えに(大体の場合間違っているが)自信を持つ。シュンは今その状態にある。まあシュンに関しては運のよいことに、その思考は割と正しいのだが


早速家に帰り、マッシュに言って水桶に家の隣にある井戸から水を入れてもらい(何に使うのか聞かれたが、うまくはぐらかしておいた)、せっせとその桶を俺のプライベートルームに運び入れ、そのあとにこっそりと家の灰溜めにある灰を入手し桶の中に入れて混ぜる


(これでいいのではないか?)


俺が最近ずっと求めていたものがあっさりとできてしまった


(でも、本当にこんなのが石鹸か?)


俺は目の前に置かれている黒く淀み、俺の手から落ちる水滴によって同心円状に波が生じている液体を見て、急に自信を無くす


実際シュンの作成したものは石鹸とは言えない。本来であればあと何工程か行ってから石鹸になるのだ。そんなことを知るわけがないシュンは、、、


(うん!これは石鹸だ!)


俺はこの液体を石鹸だということにする。正直「手を洗えた」と思えれば良いのだ。

俺は恐る恐るその中で手をこすり合わせる。手をこすり合わせるたびに少し「じゃりじゃり」とした触感が感じられ、手がきれいになっていく感じがして俺は再び自信を取り戻し、にやついてしまう

しかし、「そろそろ手を水で流そう」と思ったのだが、肝心の水がないことに気づく


(あ、どうしよう。俺に水魔法が使えたらな~)


(いや待てよ、生命魔法で周りのマナを感じ取れるようになってきたし、今なら使えるかもしれない。ここは試しにやってみよう)


俺は生命魔法の修行を行う時とほぼ同じ体勢となり(違うのは手を桶の上になるように、前へつきだしていることぐらいだ)、深呼吸をする。そして、また気が付く


(あ、詠唱わからんわ)


というわけで、しかたなく、(メアリは夕食の準備に忙しそうだったので)マッシュに水を取ってきてもらうことにする。


「父さーん!水が入った桶持ってきて」


「、、わかった!」


扉の向こうから「何をしているんだ?」という疑念を抱いているであろう様子の返事が聞こえる

少しして、マッシュが水の入った桶を軽々と持ってきてくれた


「シュン、いったい何をやっているんだ?」


マッシュは桶を床に置くやいなや興味津々といった様子で、俺に聞いてきた


「石鹸を作ってたんだ」って答えるのは論外だ。なんて答えよう?

と、いうのはマッシュが来る前に考えておいた


「僕もああいうの書いてみたい」


俺は適当な本の表紙を指しながら答える。それなら真っ当な理由になるだろう


「なんだ、シュンは文字が書きたかったのか~」


「うん。でも紙が無くて諦めることにしたんだー」


「ちょっと待ってろ。すぐに取ってきてやるからな。それにしてもよく灰を溶かした水で書こうと思ったな」


そう言ってマッシュは紙を駆け足で取りに行く


「ははは」


マッシュが、俺の口から出まかせを本気にするため引きつった笑いでごまかすことにする


その隙に俺はすぐに手をマッシュが運んできてくれた水で洗い流し、魔法の詠唱が書かれた本を取り出す。手を拭くのをすっかり忘れていたため、ページを捲る度にページがふやけるがそんなことは気にしてられない

生命魔法にばかり気がとられて他の魔法のことを忘れてしまっていたが、さっきのプチ事件で今なら使えるかもしれないということに気づき、本を指で指していた時も必死に魔法の詠唱が書かれた本を探していた

俺は取り敢えず水魔法の初級魔法が書かれたページを見つけ、必死に記憶する。(ちなみに本には中級魔法の詠唱までしか載っていない)


(こんなに急いで覚えることになるならサボらず覚えておくべきだった)


俺は「どうせまだ使えないだろ」という思い込みを盾にして、実際は面倒くさかっただけだが、詠唱を覚えるのを後回しにしていたのだ。(努力しようと決心したばかりなのに何という怠惰なんだろうと、自分でも思う)

でも今思うと確かに生命魔法の詠唱は一つも載っていなかったな。こういうことに気が付くと惰性で読んでしまっていることを思い知らされ嫌になる

初級魔法の詠唱は想像する通り短いので30秒ほどで覚え終わる。急いで片付けないとマッシュが戻ってきてしまうので、さっさと元あった場所に本を戻し、マッシュが戻ってきたときのために「手が綺麗になったこと以外何事も無かったですよ」感じで待機する


その感じを出してから10秒ほどしてマッシュが紙と羽ペンを持って戻ってきた


「よしマッシュ俺が字を教えてやる」


やっぱこうなるよね~


俺は長くなることと、すぐには魔法の挑戦ができないことを察し、笑顔で答える


「いいの父さん!?ありがとう!」


結局、マッシュの先生の字の講座はメアリの「夕飯が出来ましたよ」の声まで続いた


そんなことなら急いで覚える必要もなかったな~

でも、ああいうときは何かしてないとそわそわしちゃうから仕方ないか


俺は自分の無駄となってしまった行為を正当化し、明日魔法を試してみることに心躍らせる




















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