第45話
止める暇はなかった。
俺はその場にうずくまり、アヌックの手に握られた手榴弾が爆発するところを見てしまった。
俺の目の前で、爆発して、吹っ飛びながら血と臓物をぶちまけるアヌックの姿を、網膜に焼き付くほどしっかりと……
炸裂した瞬間、俺は耳をやられ、飛び散った破片で右半身を負傷した。
だがそんなことはどうでもいい。
「アヌック! アヌック!! 起きろ!」
駆け寄ったとき、アヌックは目を開けていたが既に息絶えていた。
脇腹を吹き飛ばされた状態で。
「あ、ああ、ああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああ!!!」
死体なんて見飽きたはずなのに、人が死ぬのも見慣れたはずなのに、俺は冷たくなっていくアヌックを抱きかかえながら涙を流していた。
「一体何があった!?」
「ああクソ、生き残りがいたのか」
俺の叫び声と爆発音を聞いて、仲間が駆け寄って来てくれた。
だが遅すぎる、とっくの昔に敵は死んでいるし、アヌックも死んだ。
「おいアンタ、ここは任せてアンタは手当を受けてこい。アンタもかなり怪我してる。だれか! 肩貸してやれ!」
「待ってくれ……せめて……」
仲間に抱えられそうになるのを振り払い、俺はアヌックの所に転びながら駆け寄った。
そしてアヌックの顔を覗き込みながら……
「冥福を……」
祈りながら、俺は未だ開いたままのアヌックの瞳を閉じ、額に血で十字を書いてやった。
「……じゃあな」
薄情なもんだ、別れを言った瞬間、俺の涙はぴたりと止まった。
「……行こう」
「ああ、早く包帯巻いて、モルヒネでも打ってもらえ」
……モルヒネ程度で、どうにかなるような傷じゃないがな。
右半身の傷は浅いものが殆どだが……まずいことに右腕が動かない、ピクリとも動かせない。
今後治るのかも分からない。
「アヌック……」
エリアン、モーゼスに続いて最後の分隊の仲間が死んでしまった。
誰一人として助けられなかった。
「俺は一体、どうするべきだったんだ」
後悔やら自分のことやら、その他にも無限に考えることが増えた。
「ん? なんだ? 音が聞こえて……」
人が考えている時に、俺の両脇を抱える兵士が何か言ってきた。
「戦車だ!! デュッセル軍だ!!」
ペイル軍の兵士達が騒ぎ出す。
俺達の目の前には多数の兵士を伴って現れる鋼の塊。
デュッセル軍の反撃が始まった。




