第46話
俺達ペイル軍はデュッセル軍の戦車に対し有効な攻撃手段を持っていなかった。
戦車はこの軟弱すぎる地面のお陰で来ることはできないだろうと判断していたためだ。
その結果俺達は防戦一方という有様だった。
「手榴弾をもっと持ってこい! 隙間から投げこんでやれ!」
上官殿がそう叫ぶ。
戦車の砲塔付近にある隙間から手榴弾を投げ込むのだが、そんなことが普通にできるなら苦労はしない。
「行け行け行け!」
「援護射撃!」
「投げろ!」
味方が射撃をして、デュッセル兵が引っ込んだ隙に戦車へと走る。
だが戦車自体も丸腰ではない。
「ああクソ! やられた!」
砲撃で、銃撃で、履帯に踏みつぶされ、ありとあらゆる手練手管でデュッセル兵達は味方の攻撃を阻む。
自棄になった奴は手榴弾を投げつけてみるが大した損害は与えられず、砲で反撃を食らって息絶えた。
敗北だ。
「レンス……レンスは……俺の弟は?」
徐々に仲間が逃げ出していく中、俺はレンスの、弟の姿を探した。
あれのことだ、いまだに戦ってるに違いない。
「いた……」
崩れた教会の壁に隠れながら、小銃を撃ってるレンス。
案の定逃げようとしていないそいつの所へ、俺は走る。
俺がいった所で、もう小銃は撃てない。
腰の拳銃も戦車には無力だ。
だけど。
「逃げるぞ! レンス!」
「なっ……敵前逃亡だぞ!」
俺は抵抗するレンスを無理やり壁から引きずり出し、逃げた。
「状況が見えないのか!? もう総崩れだ!」
「ッ!」
俺達が逃げるころには、どこもかしこも地獄だった。
手榴弾の破片が当たって逃げられなくなった奴、投降しようとして銃剣に突き殺されている奴、仲間を助けようと引きずってるところに銃弾を叩き込まれる奴。
どこを切り取っても地獄だ。
「クソ……ここを守らないとペイルが……」
「レンス・フォン・ヴォス! 命令だお前は必ず生きて帰れ! そしてもう2度と戦場には出て来るな!」
未だ逃げるのに積極的じゃないレンスに、俺は声の限り叫んだ。
もう国がどうとか、兵士としての誇りがどうとか、責任とか、そんなものはどうだっていい。
弟よ、レンスよ、生きていてくれ。
「ああ……」
走りながら後ろを振り返ってみれば遠くから俺達に戦車が砲を向けてきているのが見えた。
そしてそれが見えた瞬間、俺はレンスを思いっきり突き飛ばした。
「一等へ──兄さん!!」
戦車の砲が、轟音と共に砲弾を吐き出す。
放たれた砲弾は真っすぐ俺の方へと飛んできて……
ああよかった。
レンスには当たらない。
俺の物語はここで終わるが、レンスが助かったのなら……
僕の前で、兄さんは死んだ。
「兄さん! 兄さん起きてくれ! 撤退だ!」
声の限り叫ぶ。
あらぬ方向に向いた手足を戻せば、千切れかけた首をもとに戻せば、まだ兄さんは助かるだろうか?
いや……そんなことはありえない。
戦場でさんざん見た光景だ。
兄さんはもう、終わっている、終えている。
「許さんぞ貴様等!!」
呪ってやる。
兄さんをこんな風にしたデュッセルの者共を、地獄に突き落とした貴様等を。
たとえ僕が恨みを晴らせなくても、僕の子孫が、後に続くペイルの民が必ずやデュッセルを地獄に変えてやる。
子々孫々語り継いで2度と消えない遺恨を残してやる。
僕が果たせなくとも、子が、孫が、きっと恨みを果たせるように。




