第33話
戦車が到着する少し前、モーゼスが分隊に戻ってきた。
「モルヒネを少し貰ってきた。これで何とかしてくれってよ」
暗い表情のままのモーゼスが見せてきたのはフェルトの入れ物に入ったアルミの箱。
注射器とモルヒネが入った箱だろうが……多分使用済みだ。
「……そうか。それを打ったらニワトリを持て、もうすぐ進軍が始まるだろう」
エリアンは苦虫を嚙み潰したような表情でそう言った。
エリアンの目からしても今のモーゼスはまともに戦闘が行えるとは思えないんだろう、負傷兵として後方に下げられることを望んでいたんだろうが、それも駄目だったか。
どうしたものかと頭を痛める俺に、エリアンは俺意外に聞こえない声で耳打ちしてきた。
「おい一等兵、これからの戦闘、間違いなくモーゼスは足手まといになる」
「軍曹殿……アンタまさか」
戦闘のどさくさ紛れにモーゼスを始末する気か?
「安心しろ、後ろから撃ったりはしない。上官として撃ち殺したりもしない。だがこれからの戦闘ではモーゼスは援護に徹してもらう。戦力が下がるが、そこは覚悟しておけ」
「……殺す気かと思いましたよ」
「だれが好き好んで部下を殺すか」
エリアンは心底不快そうに坊主頭を撫でながらそう言った。
今までどれだけ部下を殺してきたのかは……この際聞かないことにしよう。
だが意外ではあった、生真面目なエリアンのことだから仲間が戦えないとなると即座に処分しそうだったが。
「……正直なことを言うとな。お前があの砲撃の後に帰還してきたとき。俺は嬉しかったぞ」
「いきなり話が変わりましたね。突然なんです? というかよしてください。柄じゃないでしょう」
真っすぐ俺の顔を見てエリアンはそんな事を言ってきた。
なんというかこう……恥ずかしい。
「生きていてくれ。もうこれ以上仲間が死んでいくのは見たくない。お前の、いやアヌックの傷だって完全に治っちゃいないんだろう?」
「…………」
エリアンの言葉は本当だ。
俺はいつぞやの戦いで戦闘機を落としていた時、敵の爆弾で負傷した。
そしてその時の傷はいまだに癒えちゃいない。
縫合してもらったところは化膿して、蛆が沸いてる。
本格的に治療してもらいたいところだが、それも難しいだろう。
そしてこれはアヌックやモーゼス、そして言ってきたエリアンも同じ、全員負傷していて完全には傷が治ってない。
「一等兵、生きるんだぞ。そして弟と一緒に故郷の土を踏め」
「ええ、ですがそれは貴方も同じだ。必ず生きて帰るんです」
「ああ」
エリアンとの話は終わった。
これから俺達は後方から来た戦車と共に敵を押して国境から叩きだす為に前進する。
遮蔽物の無いだだっ広い平原を、真っ正面から。




