第23話
モーゼスの言葉に俺達は反応、すぐさま小銃を構えて塹壕の外に向けていく。
停戦の時間はおしまいらしい。
そう思っていたんだが……なにやらおかしい。
「なんだ? あいつ」
双眼鏡を覗きながら、モーゼスは首をかしげていた。
俺は当初モーゼスの反応の意味が分からなかったが、こっちに向かってくるデュッセル兵を見てなぜそんな反応をしたのか理解した。
塹壕を抜けだしてこっちに向かってくるデュッセル兵は両手を上げて武器も持たずに来ていたんだから。
「捕虜になりにきたのか? おいモーゼス、アイツの身体をくまなく見てくれ。背中や足に手榴弾をくくりつけてるかもしれん」
俺の言葉にモーゼスは敵兵を調べてみたが、モーゼスは首を振った。
丸腰らしい。
「どうしますか? 軍曹殿」
「……他の上官も撃つ気はないらしいな。おそらく捕虜か何かだろう。全員銃を構えたまま待機モーゼス、奴の更に後ろを見ろ」
「はい」
小銃を持つ手に力が入る。
奴等が捕虜になる際にだまし討ちで手榴弾を投げ込んでくることはよくあることだったからだ。
「おいおい嘘だろ? なんでだ、よりにもよって俺達の方に来やがったぞ」
「なんだと?」
後ろではアヌックが鉄帽をかぶり直し、拳銃の安全装置を外し始めた。
全員が臨戦態勢に入りつつある中、俺達の居る塹壕に向かって両手を上げたままのデュッセル兵が叫んだ。
「戦う意志はない! 同じ言葉を話し、同じ神を崇めている者として停戦の間くらい仲良くしたいだけだ!」
響いてくる奴の声は今にも泣きそうだった。
そして随分とふざけたことをぬかしてきやがる、仲良くしたい?
人の国を戦場にしておいてそんな台詞が吐けるとはなかなかいい度胸をしている。
ぶっ殺してやる。
「やめろ一等兵」
「止めないでください。今なら脳幹を一発でぶち抜いてやれますよ」
何が仲良くだクソッタレめ。
「もう向こうが手榴弾を投げ込めそうな位置にまで来ましたぜ」
「誰も行くつもりは無いな……いいだろう。俺が出迎えてやる」
「駄目です軍曹殿!」
俺の言葉を無視して、エリアンは小銃や手榴弾を置いて塹壕の外へと出て行ってしまった。
塹壕から出たエリアンと、手をあげたままのデュッセル兵が向かい合う。
照り付ける太陽の下、すべての視線がそこに向いていたと思う。
最初に口を開いたのは……我らがエリアン軍曹殿だ。
「見上げたクソ度胸だな。こともあろうに銃弾をぶち込んだ相手に対して『仲良くなりたい』などとぬかすとは……馬鹿としか思えん」
背中しか見えないがエリアンは相当な威圧感をデュッセル兵に与えてるんだろう。
デュッセル兵は手を上げたまま細かく震えている。
「…………」
デュッセル兵は黙ったままで何もしゃべらない。
言い返すことなんてできないだろう、ざまぁみろ馬鹿野郎が。
「だが……」
エリアンは言い返せないデュッセル兵に向かってこう言った。
「お前のような馬鹿が居ないと、戦争なんぞ終わらんのかもしれんな」
そう言って手を差し出したエリアン。
その姿を見た他の兵士達が次々と塹壕から出てデュッセル兵の下へと駆け寄っていく。
そしてそれはデュッセル側も同じだった。
恐る恐る、1人、また1人と駆けていく。
「俺はエリアン、エリアン・ファン・デン・ブロームだ。勇ましい馬鹿なデュッセル兵。お前の名前は何だ?」
「ルッツ・アロイス・ヴァーグナー……ルッツと呼んでください。馬鹿な男に付き合う優しきペイル兵よ」




