天賦の才
自由都市ガラリエには数多くの宿泊施設が存在する。
海上貿易の中心であり、教団から認定された浴場や闘技場もあり観光客で賑わうからだ。
その宿泊の中の一つのホテル、『ハルキュア』。
ガラリエの領主でもあるオイサーストが立ち上げた傭兵団の元団員がオーナーと言うこのホテルは、行き届いたサービスや、安く多く美味い料理など貴族向けでない宿泊施設の中では一、二を争う人気を誇っている。
このホテルの一室に海斗達一行はいた。
「それで、いつ魔族は来るのよ」
不機嫌さを隠そうともせずに椅子に跨る茜。
そんな茜を見て、晶が苦笑する。
「『時の魔女』さんが今日か明日、って言ってたね」
「そんな話は分かってるわよ」
茜が腕を組む。
「あたしらはいつまで、ここにいればいいわけ?」
「奴らが攻めて来るまで、だな。『時の魔女』曰く未来は変わり易く、我々が下手に動けば魔族の動向も変わるやもしれんしな」
今度は咲夜が鞘から抜いた刀を手入れしながら答える。いつかのような、無骨な湾刀ではない。この世界にある和国という国で培われていた製造技術により作られた、日本ではない国で産まれた日本刀だ。
「うぅぅっ、そんなのはわかってるわよ、もー!」
茜がふて腐れたように唸る。
それを見て咲夜がクスリと笑う。
「来るタイミングがわからん以上、ここで留まるしかなかろう?」
「だけど……こう、なんて言うか」
「身体を動かしていないと気が休まらん、か」
「茜ちゃんらしいや」
晶と咲夜の二人に笑われ、茜は顔を赤くする。
「ねぇ、海斗は……!」
今度は海斗に尋ねようとし、茜は口を噤んだ。
「……」
睨んでいた。
ホテルのガラス窓から見える空を、睨んでいた。
ガラス窓から見える空に何かがいるわけではない。今日か明日中に襲来すると言う魔族に向けているわけでもない。
(勇……君は、一体何者なんだ?)
共に日本から召喚され、魔力がないが故に違う道を歩むことになった少年、ヤシロユウへと向けられていた。
(|降神⦅アドベント⦆ではないと信じたい。だが、魔力で強化された茜の動きについて行けるなんて……とても常人とは思えない)
先日勇と街中で出会ったと言う茜から聞かされた一件は、とても信じられるような内容ではなかった。
(それに|降神⦅アドベント⦆の事を知っていたと言うシスターも気になる。……勇が知らず知らずのうちに|降神⦅アドベント⦆と何か関わって……くそ、悪い想像ばかり膨らむっ)
リズワディアで見た勇の姿が思い出される。
あの時にはもう、茜と並ぶほどだったのか?それとももっと前、あの幼い姿のギルド長は護衛術を仕込んだと言ったが、もしやその時に?
「……僕は」
「え?」
「彼がもし魔族へ堕ちた時、剣を、持てるのだろうか」
それは誰に言ったわけでもなかった。自分へ向けた、覚悟だったのだろうか。
だが、咲夜に晶、茜の三人は海斗からこぼれ出たその言葉の意味に、戦慄した。
何も、掛ける言葉がなかった。
静寂が辺りを包む。
その痛い程の静寂の後、少女が言葉を発した。
「『|我、魂を渇望す⦅ソウル・ディザイア⦆』……カイト、カイトはワタシの問いに答えた」
ずっと、ずっと部屋の片隅の椅子に座っていた灰色の少女が、その灰色の瞳で海斗を捉える。
「アナタの剣になる。それがワタシの、役目」
「例え……真なる剣が相手でも」
灰色の少女の瞳には何か、強い感情が見て取れた。
◇
イーブサルの二戦目の結果は、想像に容易いように圧倒的差をつけてイーブサルの勝利に終わった。
一戦目のように一瞬とはいかなかったものの、対戦相手の拳闘家が中々強かったため遊び(遊びと言う名の本気)の入ったイーブサルが対戦相手の技をわざと食らい、食らった技を正確にコピーし返して勝利を手にした。
チートかおのれは。
「主の知人とやらはチートか」
パイモン、お前がチートとか言うな。
「拳聖、だっけ?伊達に呼ばれちゃいないってことだねぇ」
トーレさんが興奮した様子でしきりに頷く。なんか悔しい。イーブサルの野郎にお株を奪われた気分だ。
「ほぼ同じモーションだけど、速度と威力が段違い。……元々知ってたとしか思えない動き」
『時の魔術』を用いたリリルリーが解説する。
しかし元々知ってたかどうかか。対戦相手の技、あれは内臓を破壊するタイプの技だった。点穴とか言う技に似てた気がする。○斗神拳みたいだったし。
あんな技めんどくさそうな技、あのイーブサルがちまちま練習……するかもなぁ。アイツなんか格闘技にだけはストイックなとこあるし。
でも俺はなんか嫌な予感とともに変な確信を得ていた。
あの野郎あの場でコピりやがったぜ、絶対。
「これおいひいれふねやひろふぁん」
君は両手に何本の串を持ってんだベルナデット! 牛に鳥、焼きとうもろこしに焼きイカ、綿あめにリンゴ飴、チョコバナナに串団子、まだまだあるぞ!?
と、クオンの第二戦目を前に俺たち一行は各々自由気ままに過ごしていた。
「ひふぁひあんふぁひふぉひふぁふぇるんれるかね?」
「口の物を食うか喋るかどっちかにしろ」
「もしゃもしゃもしゃ」
「食べる方選びやがったこいつ!!」
「ユウの弟子、と言う娘は彼に勝ち目があるの?」
リリルリーがベルナデットの言葉を引き継ぐ。
「無いな」
それに対し俺はキッパリと否定する。
「……随分と辛らつな評価だねぇ、ユウ」
仕方ないのですよトーレさん。
クオンは強い。けど、今のままじゃどう逆立ちしてもイーブサルには適わない。
「トーレさん、人類最強のレオンハルトと戦って勝ち目、あります?」
「……そのレオンハルト、ってのはあの蒼天の騎士、レオンハルト・クラシオンの事を言ってるんじゃないだろうねぇ?」
トーレさんがジト目で俺を見る。
うん、と頷くとトーレさんは大きくため息を吐いた後首を横に振った。
「勝てるわけないね。聞けば公爵級と互角に渡り合う化け物って言うじゃないかい」
「正確には『公爵級相手でも負けない』、なんだけど、まぁとりあえず普通の人間じゃ逆立ちしても勝てやしない。つか俺も正面からじゃ勝てない」
もちろん聖剣無しが大前提だけど。
「クオンが使役したあの精霊王クラス精霊だとしても、恐らく氷結系の魔法合戦ならレオンハルトに軍配が上がる。んで、レオの野郎無詠唱かつ上級魔法ぶっぱなしながら剣持って戦えるからね。もうチートだよチート。……んで、イーブサルと戦った時、レオンハルトと戦ってると錯覚してたくらい強かった。『柔よく剛を制す』とか『剛よく柔を断つ』とは良く言うがどっちが得意なのかわからない程どちらも扱えて、そのくせ相手によって戦い方を変幻自在に変えられる。……身体能力でも、技量でも、才能でも大きく突き放されてる。これはもう『時間を止める』くらいの無茶をしないと覆せない力の差だ」
この街に来て拳聖とかバランシェルの皇子だとか初耳な事ばかり聞き驚きはしたものの、同時に俺はすぐに納得ができた。
イーブサルが俺に「すぐ名を上げると思っていた」と言ったように、俺も「どう見ても無名の拳闘士には思えない」と思っていたからだ。
「勝てる要素が無い。勝負にならない」
「ヤシロさんが教えようとしてた、『斬鉄』が使えたとしても、ですか?」
「あっても勝てない。『斬鉄』はただ、どんな硬い相手にも刃が通るようになるだけだ。当たらければノーダメージだ」
落ち込むベルナデット。だが俺は今回の試合、クオンに大きなプラスとなると踏んでいる。
クオンには才能が溢れてる。逆境で屈しない闘志も持ち合わせてる。そう言う奴はただ転ぶだけじゃ終わらない。
転んだ分勢いつけて飛び跳ねる粘り強さを持っている。
「ま、イーブサルとの試合は次の次、まずは目の前の試合に集中だな。次の試合で負けたら今までの会話が全くの無駄になる」
見れば海に囲まれたリングにクオンとその対戦相手が上がってくる。
真っ白のローブで身を包んだ相手は、クオンの背と比べ二回りは大きい。二メートルこそ行ってないが中々の大きさだ。
「クオンさーん!負けちゃダメですよー!!」
騒ぎ立つ観客の中ベルナデットが声を張り上げて声援を送ると、クオンの耳がピクッ、と動き俺たちのいる席の方を向いた。
流石クオンの耳、この大歓声の中ベルナデットの声を拾うとは……。
照れくさそうに俺たちに手を振ると、クオンは対戦相手に向き直った。
お待たせしました、最新話です。
今回は現在の海斗達の様子と、イーブサルの説明でした。
レオンハルトはドラゴ○ボールで言うところのクリリンです
ではまた次回




