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先代勇者は隠居したい(仮題)  作者: タピオカ
自由都市ガラリエ編
144/192

食堂談話



「……お?」


 やる事もなくベッドに寝ころんでいていつの間にか寝てしまったのだろう。複数人……二人か。二人分の足音を耳が捉え意識が覚醒する。

 コンコン、コンコン。

 足音が部屋の前で止まると、控えめなノックが四回鳴った。

 「っと、……どうぞ」

 寝転がる時に脱いでいた『黒き執行者』の外套を着る。

 「失礼いたします。『黒き執行者』様。御夕食の用意ができました。食堂にて陛下がお待ちです」

 ドアが開かれると二人のメイドさんが部屋に入り頭を下げた。一人は部屋まで案内してくれたヘレナさんだ。

 ……しかし、なんと言うか……その『黒き執行者』様ってのはやめてくんないだろうか。羞恥心で死ねる。

 「わ、わかった」

 できるだけ感情がわからないよう低い声で答えると、俺は腰掛けたベッドから立ち上がり部屋を出る。

 「ご案内いたします」

 ヘレナさんが俺の先を歩き先導する。

 それについて行くと、俺が通された部屋へもう一人のメイドさんが入って行った。

 「彼女はベッドメイクのメイドです」

 先導するヘレナさんが答える。へぇベッドメイクってあれだろ?ベッドのしわとか直す人。ホテルとかだと朝だけじゃなかったっけ。……あれ?そう言えば俺ってヘレナさんに尋ねたっけ?

 「『黒き執行者』様が不思議そうにしていましたので」

 あぁ、なるほどなるほ……あれ?

 「食堂は一階になります」

 ……ま、どうでも良いか。

 俺は上半身を全く上下させずに歩くセレナさんについて行った。

 ◇

 

 「む、来たか」

 食堂の扉を開けたらシルヴィアが既に椅子に座っていた

 空色のドレスに着替えたシルヴィアは少し化粧をしたようで普段から美人ではあったがそれが更に磨かれ、見惚れるような美しさだ。

 恥ずかしいので口には出さないけどな。

 いや、今はそれは置いておこう。今俺に課された役目は――

「キキッ、ようやく来たか我が主よ」

 優雅にワインを飲んでやがるこの吸血幼女に対しどうリアクションをするか、だ。

 無難にツッコミを入れるか?いや、芸人としてのプライドがそれを許さない。ここはのりツッコミで行くべきか?いやいや、ここはすっ転んでリアクション芸をした後からの怒涛のツッコミが……――

 

 「何でお前がここにいるんだ、パイモン」

 無難にツッコミを入れる事にした。良く考えれば俺芸人じゃあないしな。

「見てわからぬか?ワインを飲んでおるのじゃ。嗚呼、この香り、のど越し……美味!美味じゃ姫騎士よ!」

 ワイン片手に恍惚の表情をするパイモン。微妙に会話のキャッチボールが出来ていない。

 「驚いたぞ、勇。まさか真祖の吸血鬼と主従の契約をするとはな」

 「え?ああ、うん。まあね」

 パイモン大人バージョンが俺好みのボインちゃんだったから、なんて口が裂けても言えない!

 「まあその話は後だ。勇、好きに座れ」

 「あいよ」

 上座に座るシルヴィアの近くの椅子に座る。対面にはワインを楽しむパイモンだ。

 「では食事と行こう」

 俺が椅子に座るとシルヴィアは手元にあったベルを鳴らす。

 チリンチリンと耳心地の良い音が鳴ると、食堂の扉が開かれ、何人ものメイドさん達が中へ入って来た。

 その手には食器や料理の盛られた皿などが乗せられていた。

 「真祖の姫君はワインだけで良かったな?」

 シルヴィアが確認するように尋ねるとパイモンは小さく頷いた。

 「キキッ、主の意向を無碍にして血を啜るなど、わらわの誇りが許さぬよ」

 空いたグラスがメイドさんにワインを新たに注がれ満たされると、またそのワインを一口飲み、表情を和らげる。

 「勇は……そう言えばワインは飲めなかったな」

 「ワインと言うより酒が、だな」

 まだ未成年だから、と言うわけでは無いがどうにも酒の善し悪しがわからない。どこが美味しいんだ酒って。

 「あ、酒で思い出した。ギレーのおっさんと会ったぞ、リズワディアで。宿屋開いてやがった」

 酒で酔わされて二日酔いにさせられた事を思いだした。くそ、今度あったら仕返ししてやろう。

 「ほう、ギレーはリズワディアに居たのか」

「ああ。ベ・イオじゃあジャンにも会ったし、ノルドヨルドではフィオナとも会ったな

俺は敢えてゼファーの事は言わなかった。

「そうか……皆、元気そうで何よりだ」

懐かしそうに目を細めるシルヴィア。恐らく三年前、俺が居なくなった後、シルヴィアが皇帝になってから会う機会が無くなったのだろう。魔王を倒すために共に死線を越えた仲間達が息災なのを知り安心したようにも見える。

「集まったりはしてないのか?」

 「フィオナは良く手紙を送ってくれるが……」

 「マイペースな奴らばっかだからな。特にジャンは」

 「ふふふ、確かに」

 シルヴィアと話している内に配膳が終わったのか、メイドさん達は一礼して食堂から出て行った。

 「今の旅は、どうだ?」

 「どうって……まぁ楽しくやってるよ」

 毎度毎度面倒ごとに巻き込まれてはいるがな。

 「前程じゃないが賑やかだしな」

 「仲間か」

 「ああ。修道女(シスター)のクセして魔銃ぶっぱなす奴に忍者みたいな獣人に、それにこの吸血姫」

 「凄く濃いメンツだな」

 言われて見れば三年前の奴らにも負けず劣らず濃いな。

「後今はあの三バ海賊も一緒にいる」 

「三バ海賊?……ああ、あの『黒バラ海賊団』とか名乗る。……犯罪者ではないか」

 少し思案しただけで思い出す辺り記憶力の違いか。シルヴィアがジト目で俺を見る。悪事の片棒を背負っているとでも思われたか? 

「飛空挺に乗せて貰ってるだけさ。足代わりだよ」

「……ふふ、そうか。随分楽しげな仲間達だな。賑やかな筈だ。その仲間達はどうしているのだ?別行動中なのか?」

「ああ、クオンは大会に出るらしくてその手続きしに行くって言って、ベルナデットは用事があるとかで――」

そう言い掛けた所で、俺は思いっきり忘れていた事を思い出した。

「シルヴィア、今何時だ」

「ん? もう夕刻過ぎだが……」

やべぇ、やべぇぞ!

「待ち合わせしてるのすっかり忘れてた!」



数時間後、待ち合わせ場所についた俺は、クオンからの愚痴を散々聞かされるのであった。


お待たせしました、最新話です。

い、イチャイチャ?な会話でしたが個人的にはイチャイチャなつもりです。


ではまた次回。お楽しみにー

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