先代勇者と絢爛豪華な宿屋
「シルヴィア、とりあえずお前は俺に謝れ」
「な、なんだと言うのだ突然っ」
俺の言葉に身構えるシルヴィア。少し怯えたような表情が加虐心をくすぐる。
っていやいや、んな事を言っている場合じゃない。
「やはり、勝手に話を進めた事を憤っているのか?」
「それはない。まぁ面倒事ではあるがシルヴィアの頼みだ。断る理由もない」
そう、それは別にどうでも良いのだ。
「……では何に憤っているのだ?」
わけがわからないと首をコテン、と傾げるシルヴィア。
たまに出るこう言う可愛らしい仕草が普段鉄の女とも呼ばれるクールキャラなシルヴィアとギャップもあってクる物が有る。現に今も心臓がドキンと高鳴った。ギャップ萌えだ。
っと、また脳内思考が脱線しかけた。話を戻そう。
「いやお前……二日閉じこめられたのは怒って良いけどさ……これのドコが小さな館だよ!」
そう、今目の前に広がるのは領主館とまではいかないもののお茶会ができそうな広い庭園を持つ四階建ての立派なお屋敷だ。辺りもやけに大きな宿屋だけあるが、この建物だけはロイヤルホテル名乗れる風格を持っていた。宿屋に風格なんてあるのか俺にはわからんが。
「何を言っているのだ勇、小さいではないか」
「デカいよ!十分デカいよ!俺の高校の体育館よりデカいよ!」
ちなみに俺の高校の体育館はバスケットコートが二つ分あり広く、天井はバレーボールを蹴り上げてもギリギリ届かないくらいの高さだ。
「そのたいいくかん、と言う物がどう言う物かは知らんが、他国の重鎮を招き入れるには少々こじんまりしている感が否めない。そうだな、領主館とまではいかなくとも、城のような……」
くそっ、そう言えばこいつブルジョワかつ大国の王族だった!
「なぁ、実際どうなんだ?小さいのか?」
シルヴィアの斜め後ろでニコニコ笑っていたレオンハルトに小さな声で尋ねるとレオは苦笑した。
「充分過ぎる広さだと思います。そもそもここは他国の貴族を何人か泊まるための宿なのですが……」
この女帝、貴族数人を泊める宿を一人で使っておいてまだ足りんと!?
そうだ思い出した。三年前、シルヴィアはいつもとある事でイライラする事があった。そう、姉であるオリヴィアが広く豪華な部屋で寝れる時以外、いつも抜いたナイフのような鋭い目つきをさらに鋭くさせていたのだ。
野宿なんてもっての他。最高級羽毛布団以外姉上には合わん!と一泊数百fの安宿で騒いでいたのは今でも思い出せる。
「何をやっている、勇。行くぞ」
「あいよ」
まあ今更言っても遅いか。高級でも低級でも寝れるなら俺にとっては大差ないし。
「レオンハルト、後は頼む」
チラとレオを見たシルヴィアはレオンハルトの後ろで待機している騎士を見て指示する。
「御意。……第一より第四小隊までは館の警備、第五より第十六小隊は──」
爽やかな青年、と言う印象の強かったレオンハルトが笑みを消し部隊に指示を飛ばし始める。
「なんつーか、流石、だよな」
「意地は悪いが騎士としては天才などと陳腐な呼び方はできない程に優秀だからな、レオンハルトは」
確か年は二十代後半だったっけ。軍の将官にしては若いレオンハルトが皇帝の近衛隊隊長を務められているのは、隔絶されたとも言うべき程高い戦闘能力と指揮能力からだ。
特に戦闘能力に関しては魔族、それも公爵級に拮抗する程だ。
人類最強の呼び名も頷ける程だ
「しかし仮にも一国の主が護衛も付けず一人街へ繰り出すなんて、良くレオは許せるよな」
シルヴィアを迎えに来たレオンハルトだが、道中散策はどうだったとかそんな事ばかりを聞いていた。心配する気ゼロなのだろうか。
「言われてもやめんからな」
この王様、シレッと言いやがった。
「……自覚はあるんだな」
「当然だ、そこまで愚かではないつもりだ」
シルヴィアが不満げに頬を膨らませた。
◇
「うわ……」
シルヴィアが泊まっていると言う宿だったが、俺は入った瞬間に唖然とする事になった。
シャンデリア、観賞用の甲冑、絵画などの美術品の数々。
そして上の階へと登るための中央階段、そのさらに上にあるステンドグラスは息をのむ程の美しさだ。
よくもまぁこんだけの物に文句が付けられるもんだ。
レッドカーペットの上を歩いていると、どこからか二人のメイドさんが現れる。
「紅茶を、後パメラを呼んでくれ」
「畏まりました」
駆け寄って来たメイドさんに上着と帽子を渡しつつシルヴィアは歩みを止めない。
「この男の上着は良い。それより使ってない部屋があったろう、そこを使わせろ」
「畏まりました」
俺の『黒き執行者』の外套も預かろうとしたメイドさんを止めて指示をする。
「後ほどメイドを寄越す。それまで休んでいてくれ」
そう言ってシルヴィアは階段を上がって行った。
休め、か。まあ今日1日で色んな事が起こって精神的に疲れたしな。シルヴィアの言うとおり少し休ませて貰うとするか。
「お客様」
「ん?」
呼ばれた方を見ると、メイドさんが恭しく頭を下げた。
「私は皇帝陛下に御仕えさせて頂いております『ヘレナ』、と申します。これよりお客様をご案内させていただきます」
言い終わるが早いか、ヘレナさんは踵を返し階段を上り始めた。
置いていかれるわけにはいかず、俺は彼女の後に続いた。
やはりと言うかなんと言うか、予想通り俺が通された部屋は宿屋とは思えない凝った内装をしていた。
お待たせしました、最新話です。
次回はシルヴィアとイチャイチャする予定です。
ではまた次回、お楽しみに




