皇太子発覚
何故こんな事になってしまったんだ。
間違いなく、この場に居合わせた一般人はそう思った事だろう。ちなみに俺もそう思う。
列強国であるリーゼリオンとバランシェルの軍隊が街中でかち合ってしまったのだ。戦争でも起こるのか?と戦々恐々している事だろう。俺もしている。
もう一度言わせてくれ、何故こんな事になってしまったんだ。
「おや?貴方は……随分と珍しい組み合わせですね」
リーゼリオンの兵を率いてい来た青い鎧の騎士、レオンハルト・クラシオンがシルヴィアと俺に視線を向けた後、イーブサルを見て呟いた。
「久しぶりだな、レオンハルト。お前が率いて来たか」
「ええ。本来率いる筈の御方が、ここに居ましたので」
「……ふん」
クスリと笑うレオンハルトに、シルヴィアは鼻を鳴らしそっぽを向く。どうやら悪いとは思っていないらしい。
「お久し振りですね、『黒き執行者』。こんな場所で君と再会するとは」
「……三年振りだな、レオ」
異性であれば即虜にしてしまえそうな笑みで俺を見るイケメン、レオンハルト。しかし残念だがイケメンの笑顔は俺には効かん。と言うかコイツが腹黒く相手を弄り倒して遊ぶのが趣味な愉快犯だと知っているから効かない。この野郎、その甘いマスクの下で俺をどう弄ってやろうかと策を巡らしているに違いない。
「愚兄!」
「お?」
バランシェル側の部隊から、怒鳴るような声が上がる。談話ムードを壊したのは浅黒い肌に黒の髪の眼鏡を掛けた少年だった。歳は俺の一つか二つ上に見える。
「おお、こっちはルーズラシル、お前が率いて来たか」
「どこかの誰かが、置手紙一つ置かずに出奔してくれたおかげでな」
イーブサルもシルヴィアも互いに似たような事してんのな。
……しかしこのルーズラシルと言う男、誰かに……と言うかイーブサルにそっくりである。
イーブサルが筋肉マッチョな見た目からわかるように脳筋なの対し、ひょろい身体付きに眼鏡のせいかなんだかすごく頭が良さそうに見える。
正に正反対の姿だが、顔つきを始め似通った雰囲気を持っている。
あ、そう言えば愚兄、と呼んでたな。つまりイーブサルとこの人は兄弟ってわけか。
見た目は似てるが中身は似てなさそうな兄弟だな。
「ん……なんだ、貴様は」
俺の視線に気づいたルーズラシルが俺を睨む。
「ああ、こいつは『黒き執行者』だ」
「この男が!? ……」
イーブサルの言葉に驚いたルーズラシルは俺に近づき、品定めするような目を俺に向ける。
「……私はルーズラシル・ドラ・グレゴリア・バランシェル。『黒き執行者』、グラード荒野、リズワディアでの活躍は知っている」
グラード荒野はともかくリズワディアでの一件も知られてるのか。……ん?
「なぁおいイーブサル」
「あん? ああ、そう言えば紹介しねぇたな。ルーズラシル、俺の弟だ」
「それはもう知ってる。なんとなくわかってる。俺が聞きたいのはだな」
ここで一呼吸し、声を小さくしてイーブサルに尋ねた。
「その弟の名前に、バランシェルって付いてるんだが……」
「は?そりゃあ付いてるだろうさ。俺の弟だからな」
「つまりはイーブサル、お前の姓は……」
「バランシェルだ」
「聞いてねぇぞおい!」
「言ってなかったか?」
「聞いてねぇよ!」
イーブサルとは三年前バランシェルで出会ったわけだが、その時にこいつはイーブサルとしか名乗っていないのだ。
と言うか喧嘩大好き野郎が王族とか思えねぇよ!
……いや、そう言えばシルヴィアは剣を振る事が趣味だった筈──あ、そう言えば
「おいおいヤバいんじゃねぇか?今ここにリーゼリオンとバランシェルの王族がいるってのは」
バランシェルとリーゼリオン、この二大列強国は過去幾度となく争った事がある。
今でこそ冷戦に近い状況だが、何かが狂えば戦争すら起きてしまいかねないと聞く。
三年前バランシェルを訪れた事があるが、その時訪れたのも要約すると『魔王倒すまで戦争ふっかけてくるな』と約束させるのが理由だったくらいだ。
「流石にこの程度の事では戦争など起こせんよ」
シルヴィアが苦笑する。会話を聞いていたようだ。
「だが……イーブサル、このままこの場所にいては民の邪魔になる。ここで解散としよう」
チラと辺りを見てシルヴィアはイーブサルに提案する。一般人の不安を取り除くためにも、早くこの場から立ち去った方が良いと判断したのだ。
「何つまらねぇ事言ってんだシルヴィア……て言いたいが自由に歩くのに兵は邪魔だからな……ま、乗ってやらぁ」
イーブサルはそう言って踵を返す。すると、
ザッ!!
とバランシェルの騎士達が隊列を半分に分け、道を作った。
「あばよユウ……いや、『黒き執行者』。大会でお前とぶつかるのを楽しみにしてるぜ」
背中を向けながらそう言い放ちイーブサルは歩き去る。
そしてそのイーブサルを先頭にバランシェルの騎士達はザッザッザッ、と足音を鳴らしながら行進して行った。。
「……では」
一礼し、イーブサルの弟は兄を追いかけ走り去った。なんと兄に似ず礼儀正しい弟だろうか。
「さて、我々も行くとしよう……ユウ、行くぞ」
「え、俺も?」
去っていくバランシェルの部隊を見ているとシルヴィアに肩を掴まれた。
「宿が無いと言ったのは貴様ではないか」
そう言えばそうだった。
「んじゃ、お邪魔するぜ」
随分とイロイロあったがそうして俺達はガラリエの領主館を後にした。……心臓に悪いイベントは今回で終わりにしてほしいものだ。
◇
「ようやく行ってくれたか」
ガラリエの領主館、その主であるズィーク・オイサーストはリーゼリオン、バランシェル両国の軍が去って行くのを窓から見て、疲れたように小さく息をはいた。
「私も随分、臆病になったものだ」
ズィーク・オイサーストは苦笑しながら窓から離れ部屋の中へ視線を移す。
「オイサースト卿、私の言葉を、信じていただけたでしょうか」
つい先ほどまで勇達がいた部屋には、まだ幼女とも言える背丈の少女と、その少女に付き従う褐色の肌の女がいた。
少女が尋ねると、ズィーク・オイサーストはまたため息をついた。
「信じる他ないでしょうな。リーゼリオンの女帝、バランシェルの皇太子。そしてあの『黒き執行者』の来訪とかの女帝が望む物を言い当てられてしまっては。……信じましょう、貴女は二代目の『時の魔女だ』」
ズィーク・オイサーストはソファに座る少女の前のソファに座る。
「では……この街の未来も、信じていただけた、と言う事ですね?」
『時の魔女』と言われた少女はその見た目に似合わぬ鋭い視線をズィーク・オイサーストに向ける。
「……ええ、信じたくはありませんが――」
「数日後」
ズィーク・オイサーストの言葉に割り込むように少女は呟いた。
「この街は、数日後に魔族によって蹂躙されます」
深緑の瞳は、力強く見開かれていた。
お待たせしました、最新話です。
は、話が進まない……




